【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#5


 ちょうど10年前の2016年5月。気持ちのいい五月晴れの日が多かった。

一方、ドラマ界は爽やかどころか、「ドロドロの恋愛モノ」が軒を連ねていた。栗山千明「不機嫌な果実」(テレビ朝日系)、伊藤英明「僕のヤバイ妻」(フジテレビ系)、石田ゆり子「コントレール~罪と恋~」(NHK)などだ。


 各局の足並みが揃ったのは偶然か。それとも芸能ニュースを賑わせていた数々の不倫騒動の影響だったのか。いやいや、ドラマの準備には半年から1年かかる。騒動が直接関係したとは思えない。


 当時の恋愛ドラマは、低調の月9も含めて王道路線が苦戦していた。各局が王道以外を考える中で、「そろそろドロドロ系か」と思惑が重なったのかもしれない。


 そんな中で特に目を引いたのが、前田敦子主演「毒島ゆり子のせきらら日記」(TBS系)だ。


 ヒロインのゆり子は新聞社の政治部記者。仕事は未熟だが、恋愛には積極的だ。ただし父親の不倫で家庭崩壊を経験しており、「男は必ず女を裏切るから、自分が傷つかないよう、先に男を裏切る」が信条だった。

2人の彼氏がいるにもかかわらず、既婚者であるライバル紙の敏腕記者(新井浩文)とのドロドロ不倫にハマっていく。


 ゆり子の二股を知りながら4年も同棲してきたミュージシャン(渡辺大知)が、第3の男の出現でついに別れると言い出す。また「不倫はご法度」という、ゆり子自身が決めたルールも、新井に関してはどんどん有名無実化していった。


 普通ならヒンシュクを買いそうなヒロインだが、深夜ドラマらしい大胆な濡れ場も含めて前田が大健闘。ネタを取るため必死に政治家を追いかける姿はけなげだし、男たちの前で見せる湿度の高い表情もいい。仕事とプライベートの両面をテンポよく描く、矢島弘一のオリジナル脚本の牽引力とも相まって、ゆり子の危うい直情径行ぶりから目が離せなかった。


 何より、「常に二股していないと不安な政治部記者」というキャラクターが秀逸だ。男性とどんな場所でも遠慮せずにキスをしまくり、肌を露出して抱き合う。「深夜の昼ドラ」というキャッチフレーズに偽りなしの過激なシーンの連続だった。しかも演じているのは、あの前田敦子である。AKB48を卒業して4年。


 普通の女性を演じても「あっちゃん」という感じが強かったが、大胆な濡れ場にも挑戦して「女優・前田敦子」への脱皮を目指していた。

見る側にとっては驚きと予想を超える面白さがあった。


 あれから10年。前田はこのドラマの2年後に俳優の勝地涼と結婚し、19年に長男を出産、21年に離婚した。シングルマザー女優として頑張っているが、残念ながら「せきらら日記」ほどの突き抜けた主演作はない。そろそろ第2の“新境地”を見せて欲しいものだ。


(碓井広義/メディア文化評論家)


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