最初に断っておくと、この映画の解説は難しい。配給元が「本作の鑑賞後、未鑑賞の方に対してはどうか物語の核心、結末を一切口外しないでください」とクギを刺しているからだ。
映画ファンとしてその心情は大いに理解できる。なぜなら本作の魅力は奇抜で斬新な社会性にあるからだ。2025年のカンヌ国際映画祭で審査員賞ほか4冠を達成しただけはある。まさに胸にズシンとくる問題作。ぜひともネタバレなしで見てもらいたい。スペイン・フランスの合作である。
砂漠で行われるレイブパーティーに参加したまま失踪した娘を探すため、父ルイス(セルジ・ロペス)と息子エステバン(ブルーノ・ヌニェス)の父子はモロッコの山岳地帯から砂漠の奥深くへと車を走らせる。行き着いたのは現実と幻覚が混濁する野外レイブのカオス。耳をつんざく重低音、赤い照明の海、沈黙を貫く父親の背中。だがそこにはすでに娘の姿はなく、父と息子はレイブの参加者グループを追って、娘が向かったと思われる次のレイブ会場を目指すことになるのだった……。
プレス資料のストーリー解説を読むかぎりでは、父子が娘を探し求める物語の印象を受けるが、実は違う。
全編に漂う社会不安の予兆
世界には分断の兆しが差し込み、戦車を乗せた軍用トラックが荒野を走行する。不穏な雰囲気の中、ルイスたち一行は思わぬ不幸にからめ捕られる。
彼らはなぜ、ここまで無事だったのか。それは単に幸運だったからにすぎない。現在は混沌とし、その未来は暗い。そう。この作品は砂漠をさまよう一団を通して、人類の危うさを啓示している。
序盤から続く砂嵐の過酷さ、スピーカーから流れる重低音の音律、暗闇を走り抜けるトラックのヘッドライトはそうした社会不安の予兆と考えていい。
本作のオリベル・ラシェ監督はこう語っている。
「新聞を開くたびに、私たちは崩壊の衝撃に襲われます。何かが終わる、ひとつの時代が終わる、あるいはもっとひどいことが……。
劇中に流れる鉄路の映像がポイント。走行する列車は人類をどこに連れて行こうとしているのか。見終わったとき、筆者は2013年の映画「スノーピアサー」(ポン・ジュノ監督)を思い出してしまった。
(新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて公開中/配給=トランスフォーマー)
(文=森田健司)

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