8月30日(金)に発売された『ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!』(以下『ハチャウマ』)。ドット絵のウマ娘たちが様々な競技に臨む多人数プレイ対応タイトルです。


今や大人だけでなく、子供たちも熱狂させているウマ娘。『ハチャウマ』の発売はウマ娘が「競馬」という枠を飛び越え、誰でも楽しめるコンテンツに昇格したことを示す現象と言えるかもしれません。

もちろん、ウマ娘の活躍により競馬が今までとは違った形で親しまれるようになったことにも言及する必要があります。ウマ娘の最大の功績、それは「競馬=おじさんの趣味」というステレオタイプを覆してしまったという点ではないでしょうか。

◆90年代当時の「競馬のイメージ」
1984年生まれの筆者は小学生の頃、父親に東京競馬場(府中)へ連れていかれたのがきっかけで競馬が好きになりました。

この時代のJRAは、長年日本の競馬に付きまとっていた「おじさん臭い」というイメージの払拭のため、様々な試みや催しを実行していました。競馬場スタッフの制服をスタイリッシュなデザインにしたり、馬券を買わない人でも楽しめるような施設を競馬場内に作ったり、ファミリー客の来場を念頭に置いた広告を作成したり……。場内に飲食店が充実するようになったのも、この頃からではないでしょうか。

そうした流れから競馬ファンになった子供は、筆者だけではなかったはず。それに加え、1995年発売のスーパーファミコンソフト『ダービースタリオンIII』の大ヒットが子供たちと競馬を接続するきっかけを与えました。

5代先まで有効なインブリード配合により、安い種牡馬や繫殖牝馬でも優秀な仔馬を産むことができます。「競走馬は血統の結果作品」ということを、大人だけでなく子供にも教えた名作ソフトです。
マチカネイワシミズとオオシマナギサの配合は、筆者の通っていた小学校でも大きな話題になりました。

そのような経緯で競馬に興味を持った子供たちは、しかし周囲からの偏見と対峙せざるを得ませんでした。

◆「競馬なんてオヤジ臭い!」
「澤田って、競馬が好きなの? オヤジ臭い!」

ダビスタブームや漫画『みどりのマキバオー』のヒットとアニメ化により、競馬人気が小中学生にも伝わったのは事実です。ただ、それでも「競馬=おじさんの趣味」という固定観念の壁は依然そびえ立っていました。

小学生や中学生が「競馬が好き」と堂々と主張できる行為自体、それ相応の勇気が必要でした。

毎週日曜日にフジテレビの競馬中継を観ているせいでいじめられた……というわけではありませんが、「オヤジ臭い」というからかい文句は何度も言われていると心に残ってしまいます。それを言ってる側は親密なコミュニケーションのつもりなのでしょうが、言われた側は「競馬が好きで何が悪いんだ!?」という想いを胸の奥でたぎらせています。

そして、直後にこう考えます。

「お前は競走馬を“馬”と一括りにするけど、馬にだっていろんなのがいるんだ。ツインターボやナイスネイチャやロイスアンドロイスがどんな走りをしてきたのかを知れば、お前だって絶対競馬ファンになるはずだ!」

◆大事なことをすべて教えてくれるウマ娘
それから30年後。

進学、就職、結婚、そして子供の誕生を経たかつてのちびっ子ファンは、ウマ娘を通してツインターボやナイスネイチャの名前を再び目にすることになります。それだけではなく、我が子がスマホの向こうで躍動するツインターボに声援を送っている!!

ダビスタブーム真っ只中の90年代、そこから30年前の名馬の功績が当時のちびっ子ファンに語られることはあまりありませんでした。
しかし2024年の現代、子供たちは「ツインターボは究極の逃げ馬だった」「サクラバクシンオーは最強の短距離馬だった」ということを知っています。

それだけでなく、ライスシャワーやサイレンススズカを通して「競馬は予後不良の悲劇が付きまとう」という冷酷な事実も自ずと学習します。これは競馬ファンになる過程で避けられない洗礼ですが、一方で子供から大人になる流れの中で必ず通らなければならない道でもあります。

競馬の楽しさ、面白さ、苦しさ、辛さを子供たちに教え、「それでも競馬は素晴らしい!」ということを堂々主張できる環境を与えてくれたウマ娘。そんな名馬たちが大活躍する『ハチャウマ』は、ニンテンドースイッチ、PlayStation4、Steam向けに配信されています。
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