2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(40歳・以前は小林悠として活動)。

学校周辺は山や川、少人数でクラス替えなし。40歳・元TBSア...の画像はこちら >>
 20年間生活した東京をあとにして、故郷北海道で自然や犬との気ままなシンプルライフを楽しむアンヌさん。
本連載では、40代の今だから感じる日々のあれこれを綴ります。
 第84回となる今回は、アンヌさんが小学生時代を振り返ります(以下、アンヌさんの寄稿です)。

私が通っていた「小規模特認校」とは

 家族、友人、仕事、恋愛。人生を形作るものはいろいろありますが、私は最近ふと、「なんだかんだ小学校って大きいな」と感じた次第。

 私は札幌市内の「特認校」と呼ばれる小学校に通っていました。

 特認校(小規模特認校)とは、引っ越しをせずに通常の校区外の学校へ通学できる制度が設けられた学校。

 豊かな自然環境や少人数のメリットを活かした教育を希望する場合、教育委員会の許可を得て特別に入学できます。当時アメリカ人の父らは「この子はちょっと目立つ外見だから大丈夫かな……」と考えたよう。

 今ほど多様性という言葉も一般的ではありませんでしたし、親なりにいろいろ心配したのでしょう。そこで札幌市内の学校を見て回り、最終的に選んだのが、札幌市南区にある駒岡小学校でした。

 決め手は、幼稚園時代に見た学芸会(うちの両親は、わざわざ入学前からこの学校の学芸会を見に行ったのです)。 その時のお芝居が本当に素晴らしく、熱心な先生方と、のびのびした子供たちの空気感に、母は「ここに通わせたい」と思ったらしいのです。

山、林、川。
自然の中にある校舎

学校周辺は山や川、少人数でクラス替えなし。40歳・元TBSアナが振り返る「小規模特認校」の魅力とは
小学生時代
 そんなわけで私は、小学1年生から電車とバスを乗り継いで通学することに。駒岡小学校は、とにかく小さな学校。

 私が入学した頃で全校生徒100人くらい。卒業する頃には70人ほどだったでしょうか。1学年1クラスしかなく、つまり「クラス替え」というものを私は中学まで経験したことがありませんでした。

 6年間、ずっと同じメンバー。今思うと、かなり特殊な環境ですよね。

 しかも学校周辺はほぼ山、林、川。学校林というものがあり、校舎と自然がほぼ一体化していました。

 野鳥もたくさん来ていたっけ。ヒヨドリ、シジュウカラ、ヤマゲラ、アカゲラ。春になると鳥の声が響き、秋には学校全体で巣箱かけに行きます。


 そして翌春、巣箱を開ける。たいてい空っぽなのですが、ときどき、羽毛や小枝が残っているということがあり「あ! ここ使ってくれたんだね」なんて言ってその場がわいたりと、今思うと、かなり贅沢な環境だったと思います。

自然が「背景」ではなく「生活の中」に

学校周辺は山や川、少人数でクラス替えなし。40歳・元TBSアナが振り返る「小規模特認校」の魅力とは
小学生時代
 私は運動が本当に本当に苦手でしたが、冬になると学校林で歩くスキー、いわゆるクロスカントリースキーもやりました。

 当時の私はあまりにも下手すぎて「なんでこんな苦行を……」と思っていましたが、あの学校に行っていなければ、私は一生クロスカントリースキーなんて経験しなかったでしょう。

 雪山をスキーで登る感覚。下る時の怖さ。真冬の空気の匂い。全部、身体で覚えたんだよな。

 春には福寿草やエンレイソウが咲き、秋には落ち葉の匂いがして、自然が「背景」ではなく、生活そのものの中にある体感。そしてたぶん、その6年間が、今の私の感覚を形作ってくれています。

20年の東京生活を経て、札幌へ

 東京に20年住んだ私。東京は刺激的で、便利で、エネルギーに満ちた街。ただ札幌に戻ってきてまず感動したのが、「どこからでも山が見える」ということ。

 街を歩いていると、ビルの隙間から遠くの稜線が見える。
冬には雪が積もり、夏には濃い緑になる。それだけで、妙に安心し「ああ、生きてるな」という静かな感激がありました。

「山っていいな」「自然って尊いな」という感覚が、ごくナチュラルに自分の中にあるのは、それはきっと、あの時代のおかげ。

 一方で、私は当時から本の虫。図書館で毎週のように借りていたのは、なぜか「恐怖の館」だの「心霊写真」だの、そんな類の本ばかりでしたが。

 ある日、「学校で一番本を読んだ人」みたいな感じで表彰されてしまったのですが、別に読書家ぶっていたわけではなく、ただ怖い話の続きが読みたすぎただけ……。でも、そんな私を「変わってるね」で終わらせず、好きにさせてくれた自由な空気があり、今思えばそれが本当にありがたかった。

良い教育環境には、効率だけで測れない価値がある

学校周辺は山や川、少人数でクラス替えなし。40歳・元TBSアナが振り返る「小規模特認校」の魅力とは
アンヌ遙香さん
 最近、その駒岡小学校がニュースになっていました。全国的なバス運転手不足の影響で、通学バスの維持が難しくなりどう生徒を登校させるのか危機にあるという内容でした。

 幸い、別のバス会社さんが引き継ぎ、生徒さんたちの通学は継続できることになったそう。

 もちろん、運転手不足は一筋縄ではいきません。でもこういうところにこそ社会や行政の力が必要ではないでしょうか。
子どもの教育環境って、大人が思う以上に人格を作ります。効率だけでは測れない価値が、確実に存在する。

 あの小学校があったから、私は自然をリスペクトしているし、本を好きになったし、たぶん「変わっていても大丈夫なんだ」という感覚を持てた気がするのです。

 札幌に帰ってきてから、自分のパーソナリティーがどんどんあの小学校時代に戻ったような底抜けの明るさを取り戻しているような気がします。

 皆さんは、「今の自分を作った場所」と聞かれたら、どこを思い浮かべるでしょうか。

<文/アンヌ遙香>

【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne
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