「男は外、女は家」という考えは、いつ生じたか、あなたはご存じだろうか。

 かつてナポレオンは、女性を果樹に例えたそうだ。
男性が所有する財産という意味で。

 ハァ?

男は外、女は家、は「最近のこと」

「女は家にいるもの」は意外と最近の刷り込みだった。世の中に絶...の画像はこちら >>
 世の中にはうんざりする事が本当にたくさんある。誰も表立って口にはしないけれども、先行きの暗さに、うっとなる瞬間があるのではないだろうか。

 しかして、落ち込んでいても朝は来る、生きていかねばならない。『絶望しかけた女子のための世界史』(ティチウ・ルコック著、鳥取絹子訳、大和書房)を手に取ったのも、まさに「絶望しかけて」いたからだ。

 フランスで累計16万部を突破したベストセラーの日本翻訳版。なお、フランスの人口は6800万人なので、かなり売れた本と言えるのだとか。

 地球の人口は、2026年現在およそ83億人。男性の比率が50.4%、女性が49.6%程度とのこと(諸説あり)。余談だが、これだけの人口がいて、すべてを女性が産んでいるという事実に、本当なの? といつも驚いてしまう。

 かつて世界の半分は女性だったし、今もそうだ。けれども、歴史に書かれた女性はあまりにも少ない。どうしてか。
単純に書かれなかったから、そして、抹消されてきたからだ。

 埋もれていた史実や最新研究を踏まえ、“世界史の大前提”を根底から覆し、忘れ去られた世界の半分を掘り起こそうと試みたこの本。『世界史』というより、ほぼフランスの話だ。

 原題を直訳すると“忘れ去られた女性たち――なぜ歴史は女性を消し去ったのか”。前提としては、フランスの歴史について書かれた本である。日本版も欲しいと切に願う。

 さて、冒頭の男は外で働き、女は家にいるべし、という考えがいつ生まれたか、それはたかだか200年前だそう。人類の歴史は3万年くらいあるというのに……。

私たちの歴史認識にはすでに刷り込まれた何かがある

 そもそも、私たちの歴史はすでに刷り込まれた「前提」がある。それは「女性は歴史に登場しない、しても、ほんのわずかで、大抵は誰かの娘か妻か母」ということだ。

 古代の章では、「古代に埋葬されていた女性戦士」が発掘された、と述べられている。古代の女性を思い浮かべる時、木の実を集める姿、子どもを育てる姿が出てこないだろうか。

 しかしなんと、紀元前1000年に、30~40歳で亡くなった女性は、膝の上に剣と短刀をのせ、足元には槍が置かれた状態で埋葬されていたそうだ!

 また、中世にはブリュンヒルドなる、40年間もフランク王国を支配した女王もいたそうで、歴史で卑弥呼をまず習い、持統天皇の和歌を百人一首で覚えたはずなのに、「え、フランスに女王?」と思わなかっただろうか?

 なお、後にフランスは「女性が王位を継げない」仕組みが聖職者(=当時の権力者)によって作られてしまう。


 社会が複雑になるほど、「人種差別」はどんどん便利なものになっていく。女性を家にいるもの、子どもを産むもの、として、男性にだけ権力を集中させ――具体的に言うと、“白人の男性”のみに権力を集中させることが、ヨーロッパではとても重要で、そのために、人種差別はとても便利なアイテムだったようだ。

わずかな手がかりからでもわかる女性たちの闘い

 歴史の発展と、女性の抑圧が見事なコラボレーションをしてしまったのが、「魔女狩り」だ。これはヨーロッパのあちこちで起こったとされる、多くの罪もない女性が暴行・拷問された惨(むご)い出来事だ。

 ネットもテレビもない時代に、どうしてヨーロッパのあちこちで同様の出来事が起きたのだろう、と思っていた。

 実はこの時代、非常に素晴らしい発明である、活版印刷が誕生している。魔女狩りが凄まじい勢いで広まり、実施されてしまったのは、魔女裁判を推奨するような本が印刷され、広く読まれたことが大きく影響しているようだ。

 女性を「糞袋」(!)に例える聖職者、冒頭にも出した女性に財産を持たせないナポレオン法を作ったナポレオン、本を持つ手に力がこもりそうな記述も多数出てくるが、本題は、その中でも抗い、闘い、自らの力を振り絞り生きてきた女性たちがいるということだ。

 ハッシュタグも、スマートフォンも、避難シェルターもない中に、仕事を持ち、自分の能力を活かそうと戦ってきた女性たちが、本の中にはたくさん登場する。どれだけ苦しくても、大変でも、強さとしなやかさ、諦めなさ、行動力には本当に励まされる。

絶望しかけても、絶望はしない

「女は家にいるもの」は意外と最近の刷り込みだった。世の中に絶望しかけた私が「フランスの爆売れ本」に救われたワケ
※イメージです
 今、日本やヨーロッパの女性は投票ができる、(基本的には)好きな仕事につける、財産の一部として結婚させられることはない。

 自分たちの銀行口座を持てる、親からの遺産を女性が継ぐことだって可能だ。自分の生き方を、自分で選べるようになった。


 今まで戦ってきてくれた人がいるから、今がある。絶望しかけたとしても、絶望してはいけないのだと、この本にはエールがぎっしり詰まっている。

 私たちは所有される財産などではない。よしんば果樹だったとしても、大地に根を張り、逞(たくま)しく、この世に実りをもたらすぶっとい樹なのである。

<文/宇野なおみ>

【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中
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