エジプト北部の古代都市遺跡地下に、約2600年前の謎の構造物が見つかった。
エジプト・カフルエルシェイフ大学を中心とする調査チームが、衛星レーダーと地下スキャン技術を組み合わせた新たな手法を試験運用したところ、深さ3~6mの地点でこの構造物を検出した。
その後の採掘で、この遺構から日干しレンガの壁と宗教的な遺物も出土しており、神殿か墓があった場所とみられている。
この研究成果は『Acta Geophysica[https://link.springer.com/article/10.1007/s11600-026-01809-4]』誌(2026年3月10日付)に掲載された。
約5000年利用されてきたエジプトの古代都市
エジプト北部、ナイル川が地中海へと注ぎ込む河口付近に広がるナイルデルタ地帯に、「ブト(現地名:テル・エル・ファラーイン)」という古代都市の遺跡がある。
紀元前3800年頃の先王朝時代から7世紀の初期イスラム時代まで、約5000年にわたって人が住み続けたこの場所は、エジプト考古学のなかでもとりわけ複雑な構造をもつ遺跡として知られている。
都市は建設と破壊と再建を繰り返し、その都度、新しい建物が古い建物の上に積み上げられてきた。
現在の地表の下には幾重もの時代の層が重なり合っており、それぞれが当時の生活や文化の痕跡を宿している。
なかでも最も古い層は、後代の廃墟や厚い泥の堆積物に覆われて地中深くに沈んでおり、詳しく調査するのが困難な場所だった。
ナイルデルタは地下水位が高く、深く掘り進めるほど水が湧き出てくる。
大量のがれきをどかしながら地下水と格闘しつつ発掘を進めるのは、莫大な時間とコストがかかるうえ、遺構そのものを傷つけるリスクも伴う。
衛星と地下スキャンを組み合わせた新手法を試す
そこで、エジプト・カフルエルシェイフ大学を中心とする国際調査チームは、地面を掘る前に地下に何があるかを把握するため、衛星レーダー(SAR)と電気抵抗トモグラフィー(ERT)という2つの技術を組み合わせた新たな探査手法を試験運用した。
まず使ったのは、欧州宇宙機関(ESA)が運用するセンチネル1号(Sentinel-1)衛星だ。
この衛星はマイクロ波を地表に向けて照射し、反射してくる電波のパターンを解析することで、地下に埋まった構造物の手がかりとなる「異常」を宇宙から検出できる。雲の有無や昼夜を問わず稼働できることも強みとなる。
チームが分析したのは2018年5月5日に撮影されたデータだ。
乾燥した収穫期の土壌は電波を通しやすく、地下の異常が浮かび上がりやすいという条件が重なっており、センチネル1号衛星は、128×62mにおよぶ楕円形の異常を検出した。
この結果を受け、次にERTによるスキャン調査へ移った。
ERTとは、地面に複数の電極を刺して電流を流し、地下の物質が電気をどれだけ通すか、あるいは抵抗するかの違いをマッピングして3次元画像を生成する技術だ。
骨折の診断に使うCTスキャンの「地下版」と考えるとわかりやすい。
日干しレンガ、砂、岩盤など、素材によって電気の通りやすさが異なるため、地中に何が埋まっているかを掘らずに把握できる。
地下6mに眠る2600年前の巨大構造物を発見
ERTによるスキャンの結果、地表から深さ3mまでの範囲には、ローマ時代とプトレマイオス時代(紀元前3世紀~紀元前1世紀頃)の陶器の破片や石灰岩のがれきが混在していた。
後の時代の人間活動によって掘り返され、撹乱されたとみられる層だ。
深さ3~6mの範囲に入ると、データの様相が一変した。
周囲の土とは電気の通りやすさが明らかに異なる、輪郭のはっきりした構造物の反応が現れたのだ。
チームはその年代を、今から約2600年前にあたる古代エジプト第26王朝(紀元前7~6世紀頃)と特定した。
構造物の規模はおよそ20×25mにのぼり、その下には意図的に敷き詰められたとみられる砂の層も確認された。
古代エジプトでは、重要な建造物の基礎を安定させるために砂を用いる工法が知られており、宗教的な建造物の可能性を裏付ける根拠のひとつとなった。
発掘調査でレンガや遺物が出土、墓か神殿が眠っていた可能性
ERTのスキャンで構造物の位置を絞り込んだチームは、その座標をもとに10×10mの試掘を実施した。
掘り進めると、予測した座標から日干しレンガの壁が姿を現した。
そこから出土した遺物もまた、研究者たちの目を引くものだった。
女神イシス、ホルス、タウェレト、ベスをかたどった護符(アミュレット)が複数発見され、ブトの守護神として古くから崇められてきたコブラの女神ワジェトをかたどったものも出土した。
なかには、ヒヒとハヤブサと小人の神の特徴を組み合わせた珍しい複合型のアミュレットや、第18王朝のファラオ・トトメス3世の名が刻まれたスカラベまで含まれていた。
こうした遺物の内容から、この構造物は大型の墓か宗教的な神殿施設である可能性が高いと研究チームは結論づけている。
掘る前に地下を知る技術が考古学の未来を変える
今回の成果で注目すべき点は、「どこに何が埋まっているかを、掘る前に把握できる」というこの手法の実用性だ。
従来の考古学では、何が埋まっているかわからないまま広範囲を発掘することも珍しくなかった。
しかしブトのような複雑な遺跡では、それは膨大なコストと時間、そして遺構を破損するリスクを伴う。
衛星で広域の異常を把握し、ERTで精度を高め、最小限の発掘で確認するというこのプロセスは、コストと精度の両面で従来の手法を大きく上回る可能性を示している。
論文のなかでチームは、地球物理学的計測と衛星リモートセンシングを組み合わせることで、複雑な地域における埋没遺構の探査に高精度な可視化が実現できたと報告している。
さらに、今回発見された構造物の下にはさらに古い地層が広がっており、別の宗教的施設とみられる遺構が存在する可能性も示唆されている。
調査チームは今後、より大型の機器を用いてさらに深い地層まで探査範囲を広げる計画を進めている。
ブトの地下にはまだ多くの謎が眠っており、知られざる歴史の続きが解き明かされるかもしれない。
References: Springer.com[https://link.springer.com/article/10.1007/s11600-026-01809-4] / Scientists testing new scanning technology discover mysterious structure beneath an ancient Egyptian city[https://phys.org/news/2026-03-scientists-scanning-technology-mysterious-beneath.html]











