初期宇宙の謎の赤い点、やはりブラックホールが絡んでいた可能性が高まる
Image credit:NASA/CXC/SAO/M. Weiss; adapted by K. Arcand & J. Major

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 2022年、初期宇宙に星でも銀河でもない謎の小さな赤い点が複数存在することが明らかになった。その正体は何なのか?

 今回ドイツのマックス・プランク天文学研究所を中心とする研究チームが、NASAのチャンドラX線観測衛星を使ってこの赤い点からX線の放射を初めて検出した。

 2025年提唱された「この赤い点の正体はブラックホールを濃密なガスが包み込んだ天体であり、宇宙初期に巨大ブラックホールが形成される過程の失われた環である」という仮説を裏付ける発見だ。

 この研究成果は『The Astrophysical Journal Letters[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae4c88]』(2026年3月16日付)に掲載された。

初期宇宙に謎の赤い点

 2022年に公開されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データに、世界中の天文学者が困惑した。

 地球からおよそ120億光年以上離れた初期宇宙に、正体不明の小さな赤い点が複数見つかったからだ。

 星にしては質量が大きすぎ、銀河にしては小さすぎる。

 既存のどんな宇宙モデルにも当てはまらないこの天体に、研究者たちは「ユニバース・ブレイカー(宇宙の常識を壊すもの)」という異名をつけた。

 宇宙は誕生から現在まで膨張し続けており、遠い天体ほど光の波長が引き伸ばされて赤く見える「赤方偏移」という現象が起きる。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はこの赤外線をとらえることで、宇宙誕生からわずか5億~7億年後という、まだ銀河の構造すら安定していなかった時代の光を観測できる。そこに現れたのが、謎の赤い点だった。

 通常の銀河であれば、その赤さと明るさを説明するには恒星が異常な密度で詰め込まれていなければならず、既存のどんな宇宙モデルにも当てはまらなかった。

 2025年、ペンシルベニア州立大学などの研究チームは、これらの赤い点が「ブラックホール星」である可能性を提唱した。

 ブラックホール星とは、中心に超大質量ブラックホールを抱え、周囲の物質を飲み込む過程でエネルギーを生み出し、恒星のように輝いて見える仮説上のガス天体で、核融合で輝く通常の恒星とはまったく異なる仕組みで光を放っている。

 さらに研究チームは、ブラックホール星が宇宙初期に巨大ブラックホールが形成される過程の「失われた環」ではないかと考えた。

 宇宙誕生からわずか10億年も経たない時代に、太陽の数十億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールがどうやって存在できるのか、従来の理論では説明がつかないからだ。

 翌2026年2月には英マンチェスター大学のチームが、赤い点の正体は超大質量ブラックホールを全方位から包む高密度のガスと塵の繭であるとする新説を発表した。

 ガスの繭が光を散乱させることで、中のブラックホールを実際より100倍も重く見せていた可能性があるという。

 いずれの仮説も、超大質量ブラックホールを濃密なガスが包み込んでいるという点では共通しており、赤い点の正体をめぐる議論はますます活発になっていた。

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X線を放たない謎がブラックホール星仮説を生んだ

 通常、成長中の超大質量ブラックホールは強烈なX線を放射する。

 ブラックホールに吸い込まれていく物質は、渦を巻きながら猛烈な速度で落下する過程で極めて高温になり、X線や紫外線を激しく放つ。

 これが天文学者がブラックホールを識別するときのもっとも確実な手がかりのひとつだ。

 ところが謎の赤い点からは、X線がまったく検出されなかった。数百個の赤い点を調べても、どれひとつX線を放っていなかったのだ。

 ブラックホール星仮説はこの矛盾を説明する。

 超大質量ブラックホールが極めて高密度のガス雲にすっぽりと包まれていれば、本来放射されるはずのX線はガスに遮られ、外に漏れ出せない。そのためX線が検出されないまま、星のように輝いて見えるというわけだ。

 しかしあくまで仮説であり、直接的な証拠はまだ得られていなかった。

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X線を放射する唯一の赤い点をついに発見

 謎の赤い点の正体を探るため、ドイツのマックス・プランク天文学研究所のラファエル・ヒヴィディング氏率いる研究チームは、NASAのチャンドラX線観測衛星の過去データとジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の新データを照合した。

 チャンドラは1999年の打ち上げ以来、地球大気では観測できないX線を宇宙空間で捉え続けてきた衛星で、その膨大なアーカイブデータの中に、10年以上見過ごされてきた特別な天体が眠っていた。

 地球からおよそ118億光年離れた場所にある一点の天体だ。

 小さく赤く、広大な距離に位置するという赤い点の特徴をすべて備えながら、他のどの赤い点とも決定的に異なる点があった。X線を放射していたのだ。

 研究チームはこの天体を「Xレイドット」と名付け、正式名称を「3DHST-AEGIS-12014」とした。

 この研究に加わった、プリンストン大学のアンディ・グールディン氏はこう述べている。

Xレイドットは10年以上チャンドラのデータの中に存在していたが、ウェッブがその領域を観測するまで、どれほど注目すべき天体か誰も気づいていなかった。

二つの偉大な観測装置の連携がいかに大きな力を持つかを示す例だ

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ブラックホール星が通常のブラックホールへ変化する瞬間

なぜこの天体だけがX線を放っているのか。研究チームが提唱するのは「遷移段階(せんいだんかい)」という考え方だ。

 ブラックホール星は永遠にガスに包まれているわけではない。

 中心のブラックホールが周囲のガスを飲み込み続けるうちに、ガス雲は少しずつ薄くなっていく。

 やがてガス雲に斑状の穴が開き始め、その穴からブラックホールに落下する物質が放つX線が外部へ漏れ出す。

 チャンドラが検出したのは、まさにその瞬間だと研究チームは考えている。

 さらにチャンドラのデータには、XレイドットのX線の明るさが一定ではなく変動している可能性を示す兆候もあった。

 ガス雲が回転する過程で、密度の高い部分と低い部分が交互にブラックホールの前を横切ることで、X線の明るさが変化するという解釈と一致する動きだ。

 これはブラックホールがガス雲に部分的に隠されているという見方を裏付ける。

 最終的にガスがすべて消費されれば、ブラックホール星という特殊な状態は終わりを迎え、むき出しになったブラックホールは通常の超大質量ブラックホールとして輝き始める。

 Xレイドットはまさにその変化の途中にある天体である可能性がある。

 ヒヴィディング氏はこう述べている。

天文学者たちは、謎の赤い点が何者なのかを何年も解明しようとしてきた。このたった一つのX線天体が、すべての点をつなぐものになるかもしれない

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この発見が宇宙の歴史を変えるかもしれない

 Xレイドットが本当にブラックホール星の遷移段階にある天体だと確認されれば、天文学史上初めて「ブラックホール星の内部」を観測したことを意味する。

 プリンストン大学のハンプ・リウ氏はこう語る。

Xレイドットをブラックホール星の遷移段階として確認できれば、超大質量ブラックホールの成長が、一部あるいはすべての赤い点の中心にあるという最も強力な証拠となりうる

 一方で研究チームは別の可能性も排除していない。

 Xレイドットが、これまで観測されたことのない特殊なダストに覆われた一般的なブラックホールである可能性も残っており、真相を確かめるための追加観測が計画されている。

 宇宙誕生から118億年の時を経て地球に届いたX線の一点が、超大質量ブラックホールの誕生の謎を解く、最初の直接的な手がかりになるかもしれない。

まとめ

この研究でわかったこと

  • 宇宙が誕生してまもない初期宇宙に、星でも銀河でもない謎の赤い点が多数存在することが2022年に判明した
  • 数百個ある謎の赤い点の中で、初めてX線を放射する天体が発見された
  • この赤い点の正体はブラックホールを濃密なガスが包み込んだ天体で、宇宙初期に巨大ブラックホールが形成される過程の「失われた環」である可能性がある

身近な例に例えるなら?

さなぎが蝶になる途中の姿に似ている。

謎の赤い点はブラックホールがガスという殻に包まれた状態で、殻を少しずつ消費しながらやがて通常のブラックホールへと変化していく。今回発見されたXレイドットは、その殻に穴が開き始めた瞬間を初めてとらえた可能性がある天体だ。

まだわかっていないこと

  • Xレイドットが本当に変化途中の天体なのか、特殊なダストに覆われた別の天体なのかはまだ確定していない

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References: NASA Connects Little Red Dots with Chandra, Webb[https://science.nasa.gov/missions/chandra/nasa-connects-little-red-dots-with-chandra-webb/] / The X-Ray Dot: Exotic Dust or a Late-stage Little Red Dot?[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae4c88]

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