量子の世界ではマイナスの時間が存在する。光子実験で初めて実証
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 トンネルに入った車が、入った時刻より前に出口に現れる。そんな不思議な現象が、量子の世界では実際に起きていることが新たな実験で初めて証明された。

 カナダのトロント大学とオーストラリアのグリフィス大学の研究チームは、光の粒子が物質の中を通過する際の滞在時間を2つの独立した方法で測定し、どちらもマイナスの値で一致することを確認した。

 時間が逆流するわけでも、タイムマシンが実現するわけでもないが、「マイナスの滞在時間」が計算上の錯覚ではなく物理的に実在する現象だと初めて示された。

 この研究成果は『Physical Review Letters[https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/gjfq-k9dv]』誌(2026年4月13日付)に掲載された。

時間がマイナスになるとはどういうことか

 トンネルに入った車が、入った時刻より前に出口に現れる。そんなことが現実に起きたら、私たちは超常現象を疑うだろう。

 しかし量子の世界では、これと似た現象が実際に起きる。

 物理学には「滞在時間」という考え方がある。ある粒子が特定の場所を通り抜けるのにかかった時間のことだ。

 通常、滞在時間はゼロより大きい正の値になるはずだが、量子の世界ではこの値がマイナスになることがある。

 これは時間が逆流するという意味ではない。通過にかかった時間を計算するとマイナスになる、つまり「入る前に出てきた」ように見えるということだ。

 長年、物理学者たちはこの現象を「計算上の奇妙さ」として真剣に受け止めてこなかった。

 しかし、カナダのトロント大学とオーストラリアのグリフィス大学の研究チームは最新研究で、マイナスの滞在時間が実際に測定できる物理現象であることを初めて証明した。

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光子が原子の雲を通り抜けると到着が早すぎる

 実験に使われたのは光子だ。光子とは光を構成する粒子で、質量を持たず真空中では常に光速で進む。

 研究チームはこの光子を、ルビジウム原子が漂う雲に向けて発射した。

  ルビジウム[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0]は原子番号37の金属元素で、特定のエネルギーの光を精密に吸収・放出する性質から量子実験に広く使われている。

 ルビジウム原子は光子のエネルギーを一時的に吸収し、「励起状態(れいきじょうたい)」になる性質を持つ。

 励起状態とは、原子の中の電子が外からエネルギーを受け取り、通常より高いエネルギー状態に移った状態のことだ。光子はこの間、原子の雲の中に「滞在」していることになる。

 この吸収が起きるには条件がある。

 光子のエネルギーの量が、ルビジウム原子を励起状態にするのに必要な量とぴったり一致していなければならない。

 ちょうど鍵と鍵穴のように、エネルギーの量が合致したときだけ吸収が起きる。この「ぴったり一致した状態」を共鳴という。

 共鳴を成立させるには光子のエネルギーを正確に定める必要があるが、ドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクが1927年に提唱した不確定性原理によれば、エネルギーを正確に決めようとすると、その粒子が「いつ存在するか」が過去と未来にぼんやりと広がってしまう。

 そのため光子がいつ雲に入るかは「平均的にいつごろ」しかわからない状態になり、予測より早く反対側に現れることが起きる。

この条件で光子を発射すると、ほとんどの場合、光子は原子にエネルギーを奪われてランダムな方向に散乱され、反対側には届かない。しかしまれに、光子が雲を真っすぐ通り抜けることがある。

 通り抜けに成功した光子の到着時刻を測定すると、光速で計算した予測よりもはるかに早く反対側に現れていた。

 あまりに早すぎるため、滞在時間を計算するとマイナスの値になる。平均的に見ると、雲に入る前に出てきているように見えるのだ。

 この現象は1993年にスタインバーグ氏らが初めて観測していた。

 しかし当時の物理学者たちは「光のパルスの先頭部分だけが通り抜けるから早く到着するのだ」と説明し、マイナスの時間を見かけ上の現象として片付けた。

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 2つの測定が同じマイナスの値で一致

 1993年の実験に関わったエフライム・スタインバーグ氏は、この説明に納得していなかった。

 マイナスの滞在時間が本物であれば、光子が通り抜けた原子の側にも何らかの痕跡が残るはずだと考えた。

 光子の到着時刻からではなく、原子への影響を直接測ることでマイナスの滞在時間を独立して確かめられないか。

 スタインバーグ氏はグリフィス大学のハワード・ワイズマン氏に理論的な予測を依頼し、実験の設計を進めた。

 量子の世界では、何かを観測しようとする行為そのものが観測対象に影響を与えてしまう。

 光子が原子に滞在しているかどうかを精密に測定しようとすると、その測定行為が光子と原子の相互作用を壊してしまうのだ。

 これを量子ゼノン効果[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E5%AD%90%E3%82%BC%E3%83%8E%E3%83%B3%E5%8A%B9%E6%9E%9C]という。見ようとする行為が、見たい現象そのものを消してしまう。

 研究チームが採用した解決策は「弱い測定」と呼ばれる手法だ。

 単一の光子パルスとは別に、ごく弱いレーザービームを原子の雲に通し、ビームの波のわずかなずれを読み取ることで、原子が励起されているかどうかを間接的に調べる。

 1回の測定で得られる情報はごくわずかだが、数百万回の結果を積み重ねて平均することで、正確な滞在時間が算出できる。

 弱い測定で得られた滞在時間は、光子の到着時刻から計算したマイナスの値と完全に一致した。

 まったく異なる2つの方法で測定した値が同じになるとは、研究チームも想定していなかった。

 さらに重要なのは、弱い測定で得られたマイナスの値が「パルスの先頭だけが通り抜けたから早く到着した」という従来の説明では説明できないことだ。

 原子への影響として直接測定されたマイナスの値は、見かけ上の現象では片付けられない。 

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マイナスの時間は錯覚ではなく実在する現象だった

 2つの独立した測定が同じマイナスの値を示したことで、マイナスの滞在時間が測定上の錯覚ではなく、光子が通り抜けた原子の雲に物理的な影響を与える実在の現象であることが初めて証明された。

 これが実証されたからといって、タイムマシンが実現するわけではない。光子が文字通り過去に戻るわけでもない。

 実験は標準的な量子力学の枠組みで完全に説明できる現象だ。

 しかし、長年「ありえない」と退けられてきたマイナスの時間が、現実に測定できる物理現象として存在することが確かめられた意義は大きい。

 私たちが「当然」と思っている時間の概念は、量子の世界では別の顔を持つ。

 今回の実験が示したのは、量子研究という果てしない旅には、人類がまだ踏み込んでいない領域が残されているという事実だ。

まとめ

この研究でわかったこと

  • 量子の世界では、光子が物質を通過する際の滞在時間がマイナスになることがある
  • マイナスの滞在時間は計算上の錯覚ではなく、原子に実際の影響を与える物理現象だ
  • まったく異なる2つの測定方法が同じマイナスの値を示し、互いに裏付け合った
  • この現象はタイムマシンの実現や時間の逆戻りとは無関係だ

「マイナスの滞在時間」をわかりやすく言うと?

光子のエネルギーを正確に定めると、不確定性原理によって光子が「いつ存在するか」が過去と未来にぼんやりと広がる。

その結果、観測者が予測した時刻より早く光子が到達することが起きる。トンネルを通り抜けた車が、本来かかるはずの時間より早く目的地に着いているようなものだ。

おかしいと思って監視カメラをトンネル内に設置してみると、やはりトンネル内の滞在時間も短かった。

2つの証拠が一致したことで、これが見かけ上の現象ではなく実際に起きていることが証明された。

時間が逆流したのではなく、量子の世界では「いつ存在するか」自体が確率的にしか決まらないため、こうした不思議な現象が生まれるのだ。

References: DOI: 10.1103/gjfq-k9dv[https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/gjfq-k9dv] / Physicists have measured 'negative time' in the lab[https://phys.org/news/2026-05-physicists-negative-lab.html] / 'Negative Time' Really Does Exist, New Experiments Suggest[https://www.sciencealert.com/negative-time-really-does-exist-new-experiments-suggest]

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