今国会会期末の本日10日、統一教会の被害者救済法案が成立する見通しだ。しかし、救済法案では結局、マインドコントロール下での寄付の取り消しが明記されずじまい。
だが、岸田政権は、この救済法案の成立と今国会の閉会をもって、統一教会問題の幕引きとするつもりなのはミエミエだ。
そんな馬鹿な話があるか。そもそも統一教会は霊感商法などで大きな社会問題となってきたにもかかわらず、行政や警察はメスを入れることなく放置してきた。この背景には「政治の力」「政治の意向」があったと囁かれている。
しかも、下野をきっかけに安倍晋三・元首相がこの反社会的団体と急接近。安倍派を中心にした自民党議員と密着関係にあったことが、この約半年間のあいだに次々と明るみに出た。とりわけ重要なのは、安倍政権下の2015年におこなわれた統一教会の名称変更問題だ。名称変更によって「あの統一教会」だとは気づけず被害が拡がった可能性は高く、極めて深刻な問題であることは言うまでもない。
ところが、岸田政権は、名称変更を認めた経緯についてまったく明らかにしようとしていない。それどころか、癒着の根幹にかかわる安倍元首相と統一教会の関係について、調査すら拒絶したまま。
ようするに、岸田首相は自民党と統一教会の癒着問題から世間の目を逸らさせ、統一教会問題に取り組んでいるフリをするために救済法案を利用してきたのである。こんなインチキが許されるはずがない。
いや、問題は岸田首相だけではない。とりわけ目に余るのは、すでに統一教会問題などなかったかのような態度をとっている、自民党・萩生田光一政調会長だ。
萩生田氏といえば周知のとおり、今年夏の参院選公示前に生稲晃子氏とともに教会施設を訪問していたことをはじめ、「萩生田さんは教祖のことを“ご父母様”と言っていた」「“一緒に日本を神様の国にしましょう”と話していた」といった証言が続出。自民党のなかでも、もっとも統一教会との関係が深い議員のひとりだ。
ところが、萩生田氏は「反省している」と口にしただけで、政調会長も辞めず、いまや何事もなかったかのような顔をしている。そればかりか、統一教会とのズブズブの関係が次々と明らかになり更迭された山際大志郎・前経済再生担当相を、更迭からわずか4日後に自民党の新型コロナウイルス対策本部長に就任させるというトンデモ人事をおこなった。
しかも、閣僚の辞任ドミノが起こった際には、萩生田政調会長は「国民のみなさんの信頼を回復するためにも、岸田内閣としてはお約束のひとつひとつをしっかり結果を出し、信頼回復に全力を挙げるべき」などとコメント。統一教会問題で嘘やゴマカシを連発してきた人物が、まるで他人事のように「信頼回復に全力を挙げるべき」などと口にしたのである。
一体どの口が、としか言いようがないが、しかし、信じられないのはメディアの姿勢だ。
だが、これはいまにはじまった話ではない。本サイトで報じたように、萩生田氏が生稲氏と統一教会の施設を訪問していたことが発覚したあと、萩生田氏は各メディアの番記者を通じて圧力をかけていた。その結果、萩生田氏と統一教会の関係について追及する動きはフェードアウトした。
いや、そもそも統一教会報道の当初から、テレビをはじめとするメディアにおいて萩生田氏への追及は甘いものだった。
たとえば7月下旬には、統一教会との接点が発覚した当時の末松信介文科相や山口壮環境相などの釈明や、福田達夫総務会長による「何が問題かわからない」発言に対し、テレビではかなり踏み込んだ批判がおこなわれたが、その一方で、はるかに深い関係が明らかになった萩生田氏にかんしては、さらりと事実関係が紹介されるだけ。ほとんど批判らしい批判はおこなわれなかった。
さらに、内閣改造および自民党人事が発表された際も、統一教会と接点があるにもかかわらず引き立てられた閣僚などに対する批判が撒き起こったが、当時からズブズブの関係にあることが明らかだった萩生田氏が政調会長に就任したことについては、なぜかあまり厳しく批判されず、それどころか「俺は骨格じゃないのか」発言をヨイショするメディアまで出てくる始末だった。
そして、こうしたテレビ局の弱腰な報道の背景にあると見られていたのが、萩生田氏の“報道圧力体質”だ。民放の政治部記者はこう語る。
「各局とも萩生田さんのことはすごく恐がっていますからね。
たしかに、萩生田氏といえば、自民党筆副頭幹事だった2014年の解散総選挙の際、『NEWS23』(TBS)が放送した街頭の声にブチ切れた安倍首相の意を受けて、在京キー局に向けて〈選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い〉なる恫喝文書を送りつけたことで知られている。また、2017年には、加計学園問題で安倍晋三・元首相と加計孝太郎理事長、萩生田氏のスリーショットが出回ったうえ、文科省に圧力をかけていた事実が浮上したが、テレビ朝日の『グッド!モーニング』が田原総一朗氏の「萩生田氏は加計学園問題のいわば一番の責任者」というコメントを放送すると、テレビ朝日に対して猛抗議。田原氏のコメントは正当な論評の範囲内であったにもかかわらず、わずか3日後に謝罪をさせてしまった。
「一方で、萩生田氏は自分の言うことを聞く記者には、情報を流してくれるので、応援団も多いんです。安倍元首相も飴と鞭でマスコミを手なずけて批判を封じ込めて権力を維持してきたが、それと同じやり方をしている感じですね」(前出・民放政治部記者)
実際、萩生田氏が生稲氏とともに八王子の統一教会施設を訪問していたことが発覚したあとにようやく開いたわずか5分程度のぶら下がり取材も〈調整に動いたのは懇意にするテレビ朝日の女性記者〉(「週刊新潮」9月1日号)だという。この記者は「萩生田氏のお気に入りなのは公然の秘密」「氏が官房副長官時代、テレ朝が組閣人事のネタを抜けたのは彼女のおかげだった」と言われているというが、他社からは「そもそもテレ朝は幹事社でもないのに、なんで取りまとめをしてるんだ」という批判の声があがり、この記者と萩生田氏が「質問は3問まで」と勝手に取り決めたことに対して激昂する社もあったという。
そして、番記者を通じた報道圧力の結果、止んでしまった萩生田政調会長の追及。逆に強まったのは、自民党政調会長としての存在感を高めるような報道──。つまり、圧力にあっさり怯んでしまうメディアの体質が、萩生田氏をますます増長させ、統一教会問題などなかったことにさせてしまっているのだ。
だが、徹底追及がおこなわれるべきなのに、それがなされていないのは、萩生田氏だけではない。もうひとりの重要人物は、菅義偉・前首相だ。
9月8日に公表された自民党の「点検」結果でも、菅氏が牛耳る神奈川の自民党議員9人が統一教会と関係があったことが判明しているが、注目すべきは、神奈川選出の自民党議員と統一教会の関係が濃厚であることだろう。
前述の山際氏や、菅氏の子飼い議員として有名な山本“マザームーン” 朋広・衆院議員(神奈川4区)は言わずもがな、菅グループの「ガネーシャの会」で会長を務め、菅内閣では官房副長官を務めた神奈川5区選出の坂井学・衆院議員も、選挙で統一教会関係者からボランティア支援を受けていたことや関連団体の会合に出席していたことを認めている。また、菅氏と同じ法政大学出身であり親しい関係にある神奈川10区選出の田中和徳・元復興相も、2017年5月に自民党本部で教団幹部と会談していたことや、2016年10月に川崎駅の駅頭でおこなった街頭活動で自身の名刺とともに「世界日報」を配布していたことをジャーナリストの鈴木エイト氏が指摘している。
疑惑は、地元・神奈川選出の側近議員に統一教会と深い関係を持つ議員が多いというだけではない。新聞やテレビなどではほとんど追及されていないが、自民党議員と統一教会の関係に菅前首相自身がかかわったという疑惑も浮上している。
2013年の参院選において統一教会の全面支援を受けていたと指摘されている自民党の北村経夫・参院議員の問題では、北村議員の元選挙スタッフが「当時の菅官房長官が、北村候補に(統一教会の関連団体である世界平和連合を)選挙支援として差配した、支援団体としてつけた」と証言している(菅事務所は事実を否定)。
また、鈴木エイト氏は著書『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)において、「菅氏の最側近」と呼ばれ、公選法違反で昨年衆院議員を辞職した菅原一秀・元経産相と統一教会の深い関係についても追及をおこなっているのだが、そのなかで、SEALDsに対抗してつくられたと見られている統一教会の学生組織「勝共 UNITE」が2017年に開催した「改憲2020年実現大会」に菅原氏が出席していたと指摘。鈴木氏の取材に対し、自民党関係者は「菅原さんは無派閥なので、党本部か菅官房長官の指示ではないか」と語ったという。
選挙支援の差配にイベントへの派遣──。だが、菅氏の疑惑はこれだけではない。菅氏は官房長官時代、統一教会の要人を首相官邸に招待したとも言われているからだ。 前述の鈴木氏の著書によると、2017年に統一教会の金起勲・北米大陸会長兼世界副会長らが来日した際、〈菅義偉官房長官から招待を受けて首相官邸を訪問〉したと指摘。
鈴木氏は菅氏を統一教会と安倍政権の「共存共栄関係におけるバイプレーヤー」であるとし、さらに菅氏が小此木彦三郎氏の秘書時代から統一教会と関係があった可能性についても示唆。最近も「追及されていない政治家は山ほどいる。スガスガしく追っていきたい」と語っている。つまり、安倍元首相と同様、自民党と統一教会の癒着関係に迫る上で菅前首相は最重要人物なのだ。
ところが、菅前首相については、自民党による「点検」でもその名は登場せず、メディアも圧力を恐れてか、菅前首相の疑惑についてはほとんど取り上げられていないのが実情だ。
しかも、当の本人は、安倍元首相の国葬での“パクリ”弔事が「感動的」などと称賛されたことで図に乗り、一部メディアは菅前首相が“ポスト岸田”として河野太郎を総理総裁候補にし、自身は副総理の座に落ち着こうと暗躍していると報道。安倍派取り込みのために萩生田政調会長と急接近しているというが、「週刊現代」(講談社)12月3日号によると、菅氏は萩生田氏にこんな恩まで売っているらしい。
「統一教会問題で萩生田(光一政調会長)さんを猛批判していた(萩生田の)地元・八王子の創価学会が、急に『撃ち方やめ』になった。創価学会の『政治担当トップ』である佐藤浩副会長に菅さんが直接交渉し、鎮めたのです」(自民党閣僚経験者の証言)
ともに統一教会と自民党の関係における重要人物であるというのに、メディアを黙らせて追及から逃れ、挙げ句、政権与党を牛耳ろうと手を結ぶ……。まったくありえない話だが、萩生田氏、菅氏の増長を止めるためには、メディアによる追及が不可欠だ。被害者救済法の成立で、幕引きを図らせるようなことがあっては絶対にならない。