「ハンセン病への偏見差別は現存し、依然として深刻な状況にある」
 国の隔離政策を違憲と断罪した2001年の熊本地裁判決、家族への差別被害を認めた19年の家族訴訟判決を経た現在地がここなのかと思うと愕然(がくぜん)とする。人権侵害の歴史への向き合い方を根本から問い直さなければならない。

 ハンセン病問題に関して、厚生労働省が初めて実施した全国意識調査の報告書がまとまった。インターネットを通じて、約2万1千人から回答を得ている。
 ハンセン病を「知っている」と答えた人は38%、「名前は聞いたことがある」も含めれば9割が病気の存在を認知しているという結果だった。
 しかし具体的に、早期治療で後遺症もなく治ることを知っていたのは半数ほどだった。
 5年前の家族訴訟の判決は「偏見差別は熊本地裁判決以降、ある程度解消された」としたが、果たしてそうだったのか。
 調査では、元患者や家族に対し、「同じ学校に通う」で8・2%、「手をつなぐなど身体に触れる」で18・5%、「元患者の家族と自分の家族が結婚する」で21・8%が、抵抗を感じると答えている。
見過ごしにできない数字である。
 07年に刊行された「沖縄県ハンセン病証言集」には、「私がハンセン病という理由で姉の結婚が破談になった」「入所者の子と同じ組にしないでと言われた」などの苦悩が記されている。
 冒頭の言葉は報告書の結論部分だが、元患者や家族の苦難の人生は今も続く。
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 さらに愕然としたのは、ハンセン病問題の学習経験が、元患者や家族への抵抗感の低減につながっていないことである。
 「近所に住む」ことに対し、小中高校で授業を受けた層の13・2%~14・0%が抵抗を感じると答えている。受けたことがない層は9・0%だった。

 学習を受けているほど抵抗感や、誤った言説を支持する傾向が高いという結果には、正直、困惑する。
 形ばかりの取り組みになっているのではないか、自分ごととして想像できる学習になっていないのでは。
 報告書が指摘する通り、現在行われている学習・啓発活動の在り方について、実施方法や内容などさまざまな角度から検証を進めなければならない。
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 全国に14カ所あるハンセン病療養所のうち、県内には沖縄愛楽園、宮古南静園の二つの国立療養所がある。家族訴訟の原告の約4割は県内在住者だった。
 地域別の回答で、沖縄は「療養所に行ったことがある」などの経験が平均より高かったが、歴史的事実に対する考え方で大きな差はなかった。

 熊本地裁判決は、らい予防法の改廃を怠った国の怠慢を指摘する画期的なものだった。国の責任とともにあぶり出されたのが、私たち社会の「加害者責任」である。
 偏見差別の根絶という社会的責任は果たされていない。