沖縄市のコザ地区を拠点に活動するHIPHOPアーティスト「・¥uK-B(ヤックビー)」がこのほど、8曲入りアルバム『In My Hands』をリリースした。「毎日頑張っているあなたに届くとうれしい」と¥uK-Bが話すように、聴き手の背中を押すようなメッセージが集まった同アルバムは、従来の音楽作品リリースの手法とは一味違うアプローチを採用したものだ。
制作の段階で街、人、場を巻き込み、作品に関わる“関係者”の輪をどんどん広げていくことで、地域のみんなに愛着を持ってもらう「地域共創型」の新たな制作方式。楽曲のみならず、「作品を作り届ける」プロセスまで丁寧に作り込み、聴き手にも“新体験”を提供している。(長濱良起)

リリースイベントにてマイクを手に会場を盛り上げる¥uK-B =3月、沖縄市のMACHAR'S(提供)

■ジャケット画像はみんなの手のひら、地域の人たちと共に

「地域共創型」の作品制作・リリースについて語る¥uK-B=4月9日、沖縄市のKOZA BASECAMP

 地域の人々と共に アートワーク(ジャケット画像)を作り、思いに共感した地域の店舗とプロモーションを実行。商店街でイベントを企画するなどもした。これまでのリリースの在り方を「再定義」し、関わった人々にこの作品を「自分ごと」として捉えてもらうことで、より身近な存在として愛してもらおうという企画だ。
 アートワークは、たくさんの人々のカラフルな手形が印象的だ。1月にコザ一番街商店街であったイベント「KSA ROOTS MARKET」で、¥uK-Bが手形の“持ち主”一人ひとりと会話をしながら共創した。「僕が参加者85組全員の手にペンキを塗りながら、⾃⼰紹介をしたり、今作『In My Hands』について説明したりしました。コミュニケーションを取りながら、皆さんと作品制作がしたいという思いがありました」と話す。

アルバム『In My Hands』のアートワーク制作に参加する人=1月、沖縄市内(提供)

 CDは「CD」としてのみ販売するのではなく、22ぺージに及ぶ「CD付フォトブック」の体裁を取ることで、カメラマンのInarchyによる写真集としても意味を拡げた。音楽を楽しむ方法としてサブスクリプションサービスが主流である昨今、物理的な商品としての強みを生かした。
 楽曲そのものも、多くのビートメイカーやアーティストと手を組んで生み出した「共創型」だ。
アルバム名と同じ名前の楽曲『In My Hands』は、ピアノの音色が美しく響く優しいビートに「俺の手の中 俺が躍るのさ」と人生への覚悟を感じさせる力強いリリックが光る。
 
 ¥uK-Bは「人生の在り方を決めたり、目標を達成したりしていくのも全て自分自身。生活していく上で大変なことも多いかもしれませんが、自分の手のひらで何かを掴みましょうよという思いを込めました」と語る。
■「地域と一緒に制作して、一緒に喜ぶ」リリース像
 なぜ¥uK-Bはこのような「地域共創型」のリリース手法を取るに至ったのか。それは、旧知の友でもあり、ウェブ制作やコワーキングスペース「KOZA BASECAMP」運営などの事業を行うCignals合同会社代表の豊里竜次さんの存在があった。彼との会話の中でアイデアを生み育て、実現までこぎつけた。

¥uK-B(左)と旧知の友である豊里竜次さん=4月9日、沖縄市のKOZA BASECAMP

 もともと¥uK-Bには「毎日世界中で大量に音楽作品がリリースされている中、普通に曲を出しても明日には“無き物”になるかもしれない。SNSで告知して受け身のままでいてもしょうがないのではないか」という気持ちがあり、なかなか次のアルバムを作れずにいたことも確かだった。
 そんな中、相談した豊里さんにこう言われたという。「アルバムを出す前後の動きから逆算して考えてみよう」。それが、「地域と一緒に制作して、一緒に喜ぶ」というリリース像だった。
 今、いわゆる“売れる”ことの定石の一つに「SNSでバズる」ことが挙げられる。
資金力のある事務所ならば広告を打つことも考えられる。ただ、これまでも地域に根付いて活動し「そもそもバズるために曲を作っているわけではない」という¥uK-Bは、活動の在り方の基本的な部分を大切にした。
 「実際に地域で何かを起こして、地域の人々に関わってもらって、一緒に何かを作るっていうところに⽴ち戻らないといけないのではないかと考えました。ミュージシャンやデザイナーだけではなく、家族や友人、これから出会う⼈までみんなに関わってもらって、一つの作品にご協⼒頂くということをしたかったんです」(¥uK-B) 

「みんなに関わってもらって、一つの作品を作りたかった」と語る¥uK-B=4月9日、沖縄市のKOZA BASECAMP

 それから約1年半が経ってことし2月25日のリリースに至った。豊里さんは「僕はどうしてもコミュニティの視点で物事を考えてしまうのですが」と前置きした上で「日常の中にある床屋さんや居酒屋さん、洋服屋さんもみんなで作品に関わることで地域も盛り上がってきますよね。本当に地域から応援してもらえるアーティストになることは簡単ではないことだと思いますし、他のアーティストも向き合ってもらえたらいいなと思って」とその想いを語る。
■SNS時代に“ストリートから応援してもらう”意義
 コザ一番街商店街では、今作のリリースイベントのポスターをいたる所で目にすることができる。SNSでの情報拡散のみならず、ポスターまで作って街なかに貼らせてもらう狙いはどこにあるのか。これも新たな人々の接点を広げるためにある。

街なかに貼られた¥uK-Bのイベントポスター=4月9日、沖縄市のコザ一番街商店街

 ¥uK-Bは「ストリートにはこれから出会う人がたくさんいます。自分で足を運んで、ポスターを貼らせてもらうようにお願いして、お店の人と関わって、写真を撮って。そうしていくと、HIPHOPファン以外の人にも作品を知ってもらえるきっかけが生まれていくじゃないですか」と話す。
受け手の興味に沿った情報が優先表示されるSNSとはまた違った、出会いを促す一段先のアプローチができる。
 この「地域に応援されるアーティスト」という概念は、HIPHOPカルチャーにもともとある考え方でもある。HIPHOP用語の一つ「レペゼン」には、地域やバックグラウンドを代表して誇りを持ち、楽曲やステージを届けるという意味合いがある。レペゼンの後に地名をくっ付けることで、その地域への愛を示す。
 「やっぱり地元のみんなに神輿を担いでもらいたいですし、僕は地元のみんなの神輿を担ぎたいと思っています」と語る¥uK-Bは、今回の地域共創型の作品リリースを地元の音楽仲間にも転用できたらと考えている。「特に沖縄市や本島中部エリアのアーティストを、僕らが関わることでもっと外からも見えるようにしていけたら」と、レペゼンコザとして地域の後輩の背中を押す。

 

『In My Hands』¥uK-B
1.In My Hands
2.I'm not obiwan
3.1 and 2 ... (feat. YONA)
4.ノメリコンデク (feat. MR)
5.Bounce Baby (feat. Suuzu. & Rude-α)
6.Just chillin'
7.Smoke Talk
8.Ay yo boy
Instagram(@¥uK-B koza Okinawa)
各配信サイト
https://linkco.re/6RMtFpgv?lang=ja
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