被害を訴えた側が職場を追われるとはあまりにも理不尽だ。それが社会正義を実現する検察という組織で起きたのである。
見過ごすことはできない。
 元大阪地検検事正の男性被告が元部下への準強制性交罪に問われた事件で、被害を訴えている女性検事が辞表を提出した。
 起訴状などによると、被告は在職中の2018年9月、検事正としての影響力に乗じ、自宅官舎で、酒に酔って抵抗できない女性に性的暴行を加えた。
 事件直後はショックで同僚にしか打ち明けられなかったという女性。次第にPTSD(心的外傷後ストレス障害)が悪化し仕事もままならなくなった。ようやく決心して訴え出たのは約6年後の24年3月だった。
 女性は事件の翌年から体調不良などで休職を繰り返してきた。それでも職場にとどまってきたのは検事の仕事が大好きだったからだ。
 辞表提出後の会見では「被害者が喜んでくれ、被疑者からも『救われた』と言われる。検事は皆の安全を守れる仕事でかっこいい」と涙ながらに思いを語った。
 辞職に追い込まれたのは検察内部での「二次被害」も要因だ。
 女性は、被害の申告後に「ハニートラップだ」などと名指しで中傷されたとして、同僚の副検事を名誉毀(き)損(そん)などの疑いで告訴したが、不起訴になった。

 このことは、組織内で中傷が広がるのを放置されたと感じたと指摘。不起訴処分は不当だとして検察審査会に申し立てている。
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 女性は今年3月、法相や検事総長に対し、検察組織内の犯罪・ハラスメント被害の調査や第三者委員会の設置も要請したが、ほぼゼロ回答だった。
 性暴力問題を巡っては、元陸上自衛官の女性もセクハラ被害を告発したことを受け、退職を余儀なくされた。
 元南城市長によるセクハラ問題でも、被害を告発した女性職員が休職に追い込まれている。
 背景には性暴力や、被害を受けた人の保護に対する理解の欠如がある。
 それに加えていずれにも共通するのは、セクハラが人権侵害ということに鈍感な組織風土だ。
 他に同様の被害がないか、組織のガバナンスは機能していたのか、など調査・検証は当然行うべきだろう。
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 裁判は、被告が24年秋の初公判で起訴内容を認めたものの、同年12月に弁護人が会見し「同意があったと思った」として無罪主張に転じた。
 その後1年半以上も公開の裁判が開かれないという異例の事態をたどっている。
 犯罪を捜査し被疑者を起訴する権限は検察が独占している。そうした組織が内部の問題に向き合わないのでは、刑事司法に対する国民の信頼も揺らぎかねない。

 検察任せにすべきではない。政府や国会もこの件を重く受け止めるべきだ。 
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