自民党の次期総裁になるのは誰か。ジャーナリストの須田慎一郎さんは「自民党内では高市早苗氏と小泉進次郎氏の一騎打ちになるという見方が優勢だ。
小泉陣営では、進次郎氏の自滅を防ぐ異例の選挙戦術が浮上している」という――。
※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中」の一部を再編集したものです。
■水面下で進む「高市早苗包囲網」
9月1日に自民党の総務会が開催され、令和7年の総裁選に関する選挙日程および関連事項が決定された。
22日が告示日となり、候補者の届け出締め切りも同日とされた。候補者推薦の届け出は午前10時から15分間のみである。そして、10月4日に議員投票およびその開票が実施される。前日に行われた党員投票の開票も同日に行われ、午後1時から開票が開始される予定だ。この日に、自民党の新たな総裁「ポスト石破」が誰になるのかが明らかとなる。
水面下ではすでに様々な動きが活発化している。こうした裏の動きを取材するなかで、9月9日の晩に注目すべき人物たちによる会食が行われたとの情報を入手した。主催者が誰であるかは明らかではないが、総裁選への出馬が取り沙汰されている林芳正官房長官、武田良太元衆議院議員、さらに日本維新の会の馬場伸幸元代表という3名が一堂に会したという。
会食の詳細については伝えられていないが、こうした場が設けられた背景には、一定の政治的意図がある。
あとで詳しく解説するが、総裁選に出馬の意向を示している高市早苗前経済安全保障相の包囲網が着々と敷かれている。
■「当選見込みがなし」林芳正官房長官陣営の動き
特に注目すべきは、かつて「二階派の大番頭」とも称された武田良太氏が、現在は落選中であるにもかかわらず、自民党内において依然として影響力を保持している点である。
その武田氏が今回の総裁選において、林芳正官房長官を支援する意向を示したことが確認されており、今後の展開に大きな影響を与える可能性がある。
この動き自体が極めて驚きである。もともと武田良太氏は二階派に所属していた元衆議院議員であるが、林芳正官房長官とは、派閥的にも立場的にも対立する関係にあった。しかし、ここにきて大きな転換が見られた。おそらく自身の政治的生き残りを視野に入れての判断であろうが、武田氏は林官房長官の支援に回ることとなった。具体的には、林氏に推薦人を貸し出す動きが確認されている。
前回の総裁選では、林陣営から石破茂氏に対して推薦人が回されたという事例があった。今回もそれに類似する動きであるが、注目すべきは、現時点においてほぼ当選の見込みがないとされる林芳正氏に推薦人を貸し出すという点である。
■決選投票でキャスティングボードを握るため
では、この動きの狙いは何か。
それは、総裁選後のキャスティングボードを握ることに他ならない。
もちろん、林官房長官が今回の総裁選で勝利を収める可能性は極めて低く、事実上「万に一つ」もないと考えられている。しかし、それでも出馬を後押しする背景には、決選投票を見据えた戦略が存在する。
現在の総裁選は、本命を小泉進次郎氏、対抗馬を高市早苗氏とする構図で進行している。このまま推移すれば、決選投票はこの二人の一騎打ちとなる可能性が高いとの見方が広がっている。
そのような局面において、林陣営は間違いなく、小泉進次郎氏の支援に回るであろう。これにより、小泉氏を自民党の新総裁へと押し上げ、政権発足後には武田グループが党内で一定の影響力を確保することを狙っているとみられる。
■小泉陣営は日本維新の会と連携
改めて指摘するまでもなく、小泉進次郎氏は、総理・総裁就任後の国会運営についてもすでに構想を描いている。
その構想においては、日本維新の会との連携が中心的役割を果たす見通しである。具体的には、連立政権の形成、あるいは閣外協力という形での連携強化が想定されており、それによって安定的な国会運営を目指すとされている。
旧馬場グループは維新内で完全に復活を遂げたと見ていい。前原体制下において事実上解任され、政党内の周縁へと追いやられていた。言い換えれば、謀略的な動きによって影響力を削がれていたのである。
しかしながら、今回その勢力が再び浮上してきたというのが現状である。
そもそも日本維新の会は小泉進次郎氏と日本維新の会の代表である吉村洋文氏との蜜月関係を軸に自民党と良好な関係にある。自民党が日本維新の会と全面的に連携するためには、もう一方の勢力である馬場グループともパイプを構築する必要がある。そこで、鍵となる人物として浮上してきたのが武田良太氏なのだ。
武田氏について特筆すべき点は、昨年秋の衆院選挙において落選し、現在衆議院議員ではないという点である。武田氏の選挙区に日本維新の会の候補者が出馬し、当選を果たしたという事実がある。したがって、武田氏と日本維新の会との間には確執が存在していると見られている。
そうした中で行われた今回の会食は、日本維新の会と武田良太氏との間で手打ちが行われたことを、永田町に向けて明確に示すメッセージであると解釈できる。また、馬場グループが一時的にでも武田氏と連携しているという事実を強く印象づけるための演出でもあろう。そうでなければ、この会食の開催には合理的な説明がつかない。
■世論調査で横一線に並ぶ「小泉VS高市」
自民党総裁選の動きが活発となるなかで、読売新聞が9月14日、「次の総裁にふさわしい人物は誰か」というテーマについて世論調査の結果を報道した。見出しには「次の総裁に高市氏29%、小泉氏25%」という数値が示されている。

具体的には、自民党支持層の中では小泉氏が33%、高市氏が28%の支持を得ている。一方で、全体の回答者(自民党支持者・非支持者を含む)においては、高市氏が29%、小泉氏が25%という結果が示されている。
このように支持層別で見れば、それぞれ優位な数字を持ちながらも、全体としては両者が拮抗している状況にあるといえる。現段階では両者ともにほぼ同列の位置にあるという見方が妥当であろう。
■小泉陣営の驚くべき選挙戦略
このようななかで、筆者のもとに極めて驚くべき情報がもたらされた。内容は小泉陣営の今後の方針に関わるものであった。
具体的には、小泉進次郎氏が総裁選への出馬にあたって、各候補者による公開討論会について、ある方針を固めたという情報である。その討論会とは、NHKを除いた主要民放各局が主催するテレビ討論会のことであり、小泉陣営はこれに対して「出席しない」という立場をとる方針を決定したというのである。
つまり、小泉氏は民放主催の公開討論会への参加を辞退する意向を固めたという情報が、筆者の元に飛び込んできたのである。
■意図は理解できるが…
この方針の背景については、改めて述べるまでもないが、小泉進次郎氏は、いわゆる「平場の討論会」、すなわち原稿や台本のない、いわばアドリブ勝負の議論の場を極端に苦手としていることで知られている。
昨年の総裁選における結果を振り返れば、その傾向は顕著である。討論会において準備不足や発言の一貫性の欠如が露呈し、政策理解への疑念を招いたことで、小泉氏は地方票および都議会議員票を大きく失い、結果的に決選投票に進むことが叶わず、3位という予想外の結果に終わった。

この敗因の一つには、メディアによる批判的な報道への対応力の欠如も挙げられる。取材の場においても、内容の深みや論理性に欠ける受け答えが続いたことで、小泉氏のキャラクターや政治的本質に対する疑念が生じ、「中身がない」といった批判が表面化する結果となった。
そうした過去の反省を踏まえれば、今回の総裁選において同様の状況が再び発生することを未然に防ぐべく、民放主催の公開討論会への出席を回避するという方針に舵を切ったのは、戦略上の当然の判断であるといえる。
この情報については、当初は裏付けが取れていなかったため、筆者は複数の民放関係者に照会を行った。現時点で具体的な回答を得られたのは一社のみであるが、その関係者からは「現状ではそのような方向性が有力である」との反応が返ってきた。
■次期総裁候補には逃げずに戦ってほしい
一社の回答をもって結論づけることは避けたいが、少なくとも現時点では、小泉陣営が討論会への参加に対して後ろ向き、あるいは消極的な姿勢を示しているという点は読み取ることができる。
他方で、先述の通り、現在の世論動向においては、小泉氏と高市氏の支持率はほぼ拮抗している。今後の選挙戦で一歩抜きん出るためには、討論会やその後の情報発信において、国民に強く訴求する発言や行動が求められるのは必然である。
すなわち、「この人物に総理・総裁を任せたい」と国民に思わせるようなインパクトのあるメッセージや行動が、今後の鍵を握るといえる。
このようにして露出を避け、情報の発信を絞るという戦略を取ることは、むしろ情報発信を積極的に行っている他の候補者にとって有利な展開をもたらす可能性がある。すなわち、小泉氏以外の候補にとって追い風となり得る状況が生まれるということである。
小泉陣営が描いていた戦略、すなわち「高市氏を序盤でリードし、そのまま露出を絞って逃げ切る」というシナリオは、もはや現実的ではなくなりつつある。

筆者は、候補者は正々堂々と、民放であろうがどのメディアであろうが、公の場に出て自らの政策を訴えるべきであると考える。政策論争を中心とした「王道の総裁選」が実現されることが、国民にとっても政党にとっても意義深いはずである。
今後、小泉陣営がこの状況にどう対応していくのか注目していきたい。

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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)

ジャーナリスト

1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。

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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)
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