かつて「安全で増える資産」とされた定期預金が、家族を追い詰める原因になることがある。なぜそのような事態が起きるのか。
ブックライター・永峰英太郎さんの著書(監修=司法書士・行政書士、速水陶冶)『人はこんなことで破産してしまうのか!』(三笠書房)より、ある親子のエピソードを紹介する――。(第3回)
■「ほぼ全資産」を定期預金に投じた老夫婦
今の現役世代は「定期預金」と聞いても、儲かるイメージは抱かないだろう。しかし、ひと昔の世代は、いまだに「かなり儲かる貯蓄方法」と思っている人が多い。なぜかといえば、昔は金利がかなり高かったからだ。
バブル期には、年7%を超えていたのだ。それゆえ彼らの多くは、今も何となく定期預金に多額のお金を預けている。岩手県一関市の山間部に住む老夫婦も、そうであった。質素な暮らしを続けていた夫婦には、およそ3000万円の預貯金があった。
そのほぼ全額を、満期が来ても自動継続になる定期預金に預けていた。そんな夫婦がともに認知症を患ってしまう。2人の世話を担ったのは一人娘だった。娘は都内在住で、当初は月に数回、週末に帰って2人の世話をしていたが、認知症が進行すると、会社を辞め、両親とともに暮らし始めた。

親の年金と女性の貯金を切り崩しながら両親の介護をしていたが、その生活が続く中で「このままだと貯金はなくなる」という不安が大きくなっていく。両親は自営業で年金も安かった。
■親の通帳と印鑑があってもお金を下ろせない
5年が経過すると、両親の認知症の病状は進み、母親は特別養護老人ホームに入ることになった。所得が低いため、負担限度額認定が受けられたが、それでも月額6万円程度の出費となった。一方、父親は過剰な人見知りということもあり、女性は自宅での介護を続けることにした。
この頃にはアルバイトを始めていたが、介護との両立には週3日が精一杯で、苦しい生活が続いた。
そこで女性は「本当にどうしようもないときまで使わない」と決めていた、親の定期預金を解約することに決めた。女性が通帳やハンコを持って金融機関に行き、受付で「親の定期預金を解約したい」と伝えると、「契約者ご本人様が来られるか、ご本人様直筆の委任状が必要になります」と言われる。
「でも父は認知症で、もう文字も書けないんです」そう答えると、金融機関の担当者は「だとしたら、解約は難しいです。でも、成年後見制度を使えば解約は可能です」と言った。
■親の介護で貯金ゼロ、300万の借金地獄に
ネットで「成年後見制度」について調べたところ、判断能力が不十分な人に代わって弁護士などの成年後見人が、預貯金の管理や各種手続きを行う制度だと知った。
しかし、年間24万円以上の費用がかかること、成年後見人に財布などを預けること、この制度を一度使ったら、本人が死去するまでやめられないことなど、デメリットも多かった。
女性は「親があと10年生きたとしたら、最低でも240万円はかかるのか」と、この制度を利用するのを一度断念し、アルバイトの日数を増やして、親の介護を続けた。
ある日、ついに貯金がゼロになった。女性は「ちょっとだけ」と、消費者金融に手を出した。しかし返済する余裕はない。返済のために、また消費者金融からお金を借りる“悪循環”が始まった。気づくと借金は300万円を超えていた。「このままだと破産の一途をたどる」と女性は悟った。そうして、成年後見制度を利用することを決断したのだった。
■認知症で親の口座がロックされる前に
【破産しないために】
親がしっかり預貯金をしている場合、親の老後の介護はそのお金を使ってできるため、子供にとってはとてもありがたい。しかし、お金を金融機関に預けている場合、親(契約者)が認知症になってしまえば、そのお金を引き出すことは極めて難しくなる。
特に、定期預金や貸金庫は、契約者本人による手続きもしくは本人直筆の委任状が必要になってくる。こうしたリスクを抱えることは、絶対に避けるべきだ。
親が元気なうちに解約し、普通預金に預ける。そして普通預金の暗証番号は、家族で共有しておくことが大切だ。5人に1人は認知症になる時代。こうした備えをしないでおくと、お金があるのに介護費用で破産することだってあり得るのだ。
【ポイント】

・定期預金は、契約者が認知症になれば解約不可!

・早めに定期預金から普通預金に移行を!

・成年後見制度の利用は慎重に!

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永峰 英太郎(ながみね・えいたろう)

フリーライター

母の末期がん、父の認知症の体験をもとに、実体験をもとにした、さまざまな本の企画・出版も行っている。『改訂版 70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本』(二見書房)『親の財産を100%引き継ぐ一番いい方法』(ビジネス社)『マンガ! 認知症の親をもつ子どもが いろいろなギモンを専門家に聞きました』(宝島社)『マイナス相続サバイバルガイド』(東洋経済新報社)など。

1969年東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒。業界紙・夕刊紙記者、出版社勤務を経て、フリーランスの執筆・編集業につく。ビジネスマンやスポーツマンなどの人物ルポを得意とする。著書に『日本の職人技』『「農業」という生き方』『日本の農業は“風評被害”に負けない』(アスキー新書)、『夢をかなえる!ネットショップのやさしい作り方』(技術評論社)など。母の末期がん、父の認知症の体験をもとに、実体験をもとにした、さまざまな本の企画・出版も行っている。
改訂版 70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本』(二見書房)『親の財産を100%引き継ぐ一番いい方法』(ビジネス社)『マンガ! 認知症の親をもつ子どもが いろいろなギモンを専門家に聞きました』(宝島社)『マイナス相続サバイバルガイド』(東洋経済新報社)『人はこんなことで破産してしまうのか!』(三笠書房)など。

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(フリーライター 永峰 英太郎)
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