高齢社会白書によると、65歳以上の単独世帯、つまり独居老人は男性15.0%、女性22.1%(令和2年調査)。今後も増える推計だ。
群馬県前橋市に診療所を運営する緩和ケア医の萬田緑平さんは「孤独死というが、ひとり暮らしの方が本人の納得が行く最期を迎えられることが多い」という――。
■17年間、在宅の患者を看取ってきた
がん患者など、緩和ケアで在宅の患者さんを診るにあたり、「本人が嫌がることはしない」というのが僕のスタンス。本人の人生ですから、本人の決めたことが、本人の人生の正解だ、というのが基本です。
診察を始める前、僕は必ず家族と面談をして、「本人が嫌なことはしないよ、家族が希望する治療はしませんよ」と最初に話します。本人が希望すれば点滴でもなんでもするけれど、本人が「延命治療は嫌。点滴も嫌」と言えば、家族が希望した場合でも点滴はしません。「なんとか長生きさせたい」と考えている家族は、次からやってこなくなりますが、それでいいのです。
自然にして、本人が望む通りに支えよう、リハビリをできるようならやってみようという方針でやっていくと、本人も家族も「ああ、うまくいった。先生に診てもらえてよかった」と笑顔で最期を迎えることができます。そうなることがわかったので、僕はハッピーエンドにするのを目標としているし、この17年間、ほぼそうなっています。だからずっとその方針でやっているんです。
■大学病院で胃ろうを作っていた
僕は大学病院の外科医だった頃、病院でむりやり「生かされている」患者さんをたくさん見てきました。
僕自身も、口から食べられない患者さんに、胃に直接栄養剤を注入する“胃ろう”などの手術も多くしていました。内視鏡を入れられて苦しそうな様子を見ると「かわいそうにな」と思うけれど、「仕方がない」とも思っていたし、自分は胃ろうを作るのが仕事だから、そんな感情を入れていられない。その時は「病院の世界」しか知らないので、「病院の世話にならない世界」というものがわからないんですよね。
だから、病院の医者が皆、余計な延命治療をしているとは思わないんです。それを望む患者さんにとっては、つらい治療ではないはずですし。ただ僕は、延命治療の末に、家族も本人も「こんなはずじゃなかった」と思う最期にもう立ち会いたくなかった。そうではなく、患者さんが最期まで自宅で自分らしく暮らせるようなケアをし、亡くなった時に家族も本人も満たされる最期を求めて、外科医をやめ、がん患者専門の訪問診療を始めました。
■「死にたくない」と思うのは…
納得がいく最期を迎えるにはどうすればよいのか。
がんが治っても、がんがなくならなくても、がんにならなくたって、人はいずれ老いて、弱って死にます。けれど、「人はいつかは死ぬ」ということをちゃんとわかって、自分や家族の死について考えられる人は少ないのです。ほとんどの人が、「死んじゃうのはしょうがない」とは思えないんですよね。死ぬことを考えたくないから、とにかく死なないようにする方法を求めて、死を先送りしてしまう。
死にたくない人は誰も救えない。いずれにしても最後は死んじゃうのですから、本当はそこから逆算して考えるといいのですが……。
僕の診療所に来るのは、本人がやがてくる死を認め、がん治療をやめて、自然に枯れるように亡くなることを選んだ患者さんと、その家族です。それは終末期の患者さん全体からみるとレアなケース。さらに、がん治療を希望しない本人の意思を家族が認めてくれるのは、僕の推測では5%くらいの人たちです。
本人が枯れるように死ぬのを願っても、家族が同意してくれるケースはとても少ないからです。子どもはとにかく親に生きていてほしいもの。患者本人にとって延命治療は「余分な治療」でも、子どもにとっては「必要な治療」で、延命をしているつもりはないんです。
でも、子どもの望みを優先する代わりに、自分の好きなように生きられないのはつらいですよね。苦しい思いをして治療を続けて亡くなっていくほとんどの人がそうだと思います。だから、自分主体で生きられる独居の人のほうが、延命治療なしにスッと逝くことができるのです。
■独居老人の方が自由に死ねる?
独居の人が在宅緩和ケアを受けるケースはまだまだ少ない。
実際のところ、入院している独居の人はみんな家に帰りたいんだけれど、まず病院側が「無理です。一人暮らしだから家には帰せません」と言って、施設に入れたり、転院させたりします。しかし、在宅緩和ケアの専門家、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーらと連携して体制を整えた上で、本人が自分の病気をきちんと受け止めていれば、一人で最期を迎えることは、それほど難しいものではありません。
患者さん自身も、むしろ一人のほうが楽なことが多いです。なぜなら、心配のあまり「あれダメ、これもダメ」と、口をはさむ家族がいないからです。「これは病気によくないから」と食事を制限され、お酒やたばこなどの嗜好品も禁止、外出もままならないようでは、がまん続きで心の状態がどんどん低下してしまいますので。もちろん家族がいれば安心だし幸せでしょう。でも、足を引っ張る面もあるのです。
■経営する居酒屋で亡くなった男性
独居の患者さんといっても、過去にも本当にいろんな方がいました。ある50代の独身男性は、居酒屋をやっていて、自宅は店から歩いて5分ぐらいのところにあるマンションの一室でした。でも、退院に備えてマンションに行ってみると、生活の気配が全然ない。住む部屋はちゃんとあるのに、彼は仕事場である居酒屋に住んでいたんです。
それで、結局、居酒屋の畳のところに、ベッドではなくマットだけを入れた。彼は退院してきて店のことをやりながら、最期の日々を居酒屋で過ごしました。そして、居酒屋……彼の城で亡くなりました。
そのときのように、一人暮らしの方はたいてい、在宅ケアのスタッフが朝に訪問すると亡くなっているという形です。
■「孤独死」の悲しいイメージ
「孤独死」というネガティブなイメージが強いのは、メディアの伝え方もよくないのではないでしょうか。有名な俳優さんなどが自宅で亡くなった時、発覚が死後何日か経っていたからといって、それを「孤独死」と断じて報じるのは失礼だと思います。家にいて一人で立派に亡くなったのですから、「孤高死」と呼ぶべきですよね。
一人で亡くなっていった方は、身寄りがない「天涯孤独型」、子どもとの同居を拒む「孤高型」、身内や友人が通う「支援型」などさまざまですが、いずれにしても尊敬すべき「孤高死」だと思います。
■“モノ屋敷”で最期を迎えた女性
50代の女性で、捨てられない「モノ屋敷」に住んでいた方もいました。とにかく物が多く、あらゆる物が目の高さまで積みあがっていて、風呂場も物だらけ、狭い廊下も体を横にして通るのがやっと。彼女は2DKのアパートの奥のリビングにいるのだけれど、自分が動く最小限のスペースしか残されていない。ただ、ホコリはすごかったけれど、たくさんの物は一応崩れないように積みあがっているんです。

彼女はやがて下半身麻痺になり、リビングから動けなくなったので、入院するって言うかなと思ったら、「入院したくない」と言う。ならばベッドを入れなきゃいけないけれど、モノ屋敷でどうする? と……。結局、「もうしょうがない、やるしかない!」と訪問看護師とヘルパーさんたちと決意して、みんなで長靴を履いて部屋に入り、まずは道を作って(笑)、ゴミを出し、2日間かけて部屋をキレイにして、ベッドを入れた。彼女は入院したいとは一度も言わずに、そこで亡くなりました。
■地元で看取り医を見つける方法
こうして、自宅で最期を迎えたくても、環境的になかなかできない場合もありますが、私のような在宅緩和ケア医は、どこの地域でも捜せば見つかるはずです。僕の診療所にも、週に1人か2人、群馬県外からの方がみえて、そのうちの何分の1かは「ここに通いたい」と言うけれど、「地元で見つけましょうよ」と言って全部お断りしています。「体力がなくなってからでは探せないから、今ここに来られる元気があるうちに、あなたの生き方を支援してくれる医師を探しましょう」と言って、地元での見つけ方を30分かけて教えています。
見つけ方を大まかに言うと、まず「緩和ケア」を掲げている病院や医院を探して電話をしてみる。大抵は、元気なうちは診てくれません。でも時々、元気な間から通院で診てくれ、「治療したくないなら、あなたの好きなやり方でいいですよ」と言ってくれる医者がいるので、そういう医師を丹念に探しましょう。もう1つは、訪問診療のリストが地域にあるので、自宅から近い順に電話をして、あなたの生き方を支援してくれる、あなたに合った在宅緩和ケア医を探すしかないです。
断られてもめげずに、少なくとも"十中八九"は断られるつもりで探してください。
群馬県内にも、そういう医者が僕の周辺だけで5、6人いるので、たとえば東京なら100人以上いるんじゃないでしょうか。県外から来た方に探し方を教えたら、「見つかったらハガキちょうだいね」と言って帰します。そうすると、見つかるとハガキが送られてきたり、まんじゅうが送られてきたりするので(笑)、きっと見つかるのではないかなと思います。

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萬田 緑平(まんだ・りょくへい)

医師

「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)など。

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(医師 萬田 緑平 取材・構成=浜野雪江)
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