仕事のデキる人はどこが違うのか。人材教育コンサルタントの橋本拓也さんは「部下やチームメンバーに対する『ほめ方』が違う。
単に表面的なほめ言葉を羅列して言うのではなく、事実として本人の努力や行動による好影響を言葉にして『承認すること』が大切だ」という――。
※本稿は、橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む伝え方の本』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■「ほめてコントロール」はリーダー失格
フィードバックは大きく2つに分かれます。ポジティブ・フィードバックとギャップ・フィードバックです。ポジティブ・フィードバックとは、世に言う「承認すること」を意味します。注意してもらいたいのは、承認を報酬にして相手をコントロールしようとしないことです。
「ほめてあげるからもっと頑張れ」「承認してあげるからやる気を出せよ」のように“承認したんだから○○してほしい”という意識は、外的コントロールにつながります。
だからこそ、事実に基づいて承認することが重要です。本人が自分で気づいていること/気づいていないことも含めて、客観視できる「事実」をもとに情報提供することが、ポジティブ・フィードバックにおいて大切です。
単に表面的なほめ言葉を羅列して言うのではなく、事実として本人の努力や行動による好影響を言葉にする。これが相手の自信を最も高め、強みを強化し、前向きな願望を持つきっかけになります。
そして、承認(ポジティブ・フィードバック)には次の4種類があります。

①結果承認

②プロセス承認

③存在承認

④大切にしている価値観や背景への理解と共感
それぞれについて解説します。
■結果だけでなく、過程も承認する
1つ目の結果承認は、「このような結果をつくったから、あなたはすごいね」という結果に対する承認です。例えば、
「今回、この目標達成をしたことはあなたにとっての偉業ですね。チームはもちろん、会社にとってもすごく大きな成果ですよ」
など、結果そのものに対する承認を伝えることです。これも1つの立派なポジティブ・フィードバックです。
ただしいつも結果承認だけだと、「結果を出していないときはダメ」というメッセージになってしまうこともあります。そのため、承認には、多様なレパートリーが大切です。
2つ目のプロセス承認は、取り組んでいる行動のプロセス(過程や取り組み)に対する承認です。例えば、
「今回の目標を達成するために、あなたが毎朝、繰り返しトレーニングをしていた取り組みを見ていましたよ」

「毎回の顧客面談後に振り返りをして、次回の改善につなげている取り組みが、今回の達成や成長につながったんですね」
といったフィードバックができるでしょう。結果のみならず、結果につながった背景にあること、もしくは現時点では結果が出ていなくても、効果的な取り組みやプロセスを承認します。
■相手の「存在そのもの」に感謝
3つ目は本人の存在そのものへの承認です。
存在承認とは、相手の存在そのものに対する感謝、相手の存在によって周囲に良い影響が出ていることを承認することです。

「私のチームにあなたがいてくれて助かりました」

「あなたがいることで、いつも私は前向きな気持ちになれています」

「あなたがいることでチームや組織全体に『チャレンジする』という風土が生まれていますよ」
そして4つ目は、本人が大切にしている価値観や背景への理解、共感を示します。例えば「今回の目標を達成するために、あなたが毎朝、繰り返しトレーニングをしていた取り組みを見ていましたよ」というプロセスには、「なぜそこまでしてそのことに取り組んだか」という何かしらの価値観や本人が大切にしているこだわり・背景があるものです。
■部下が「よく見てくれている」と思う上司とは
もしかしたら、そのメンバーは「お客様に絶対に喜んでもらえる仕事をしたい」という価値観や「妥協せずに仕事をする」というこだわりがあったのかもしれません。「新人のときにメンターの先輩が大事にしていた『常に期待を上回る』という指導をずっと胸に秘めて再現している」のかもしれません。マネジャーはそれを想像したり、本人に直接尋ねます。すると、ポジティブ・フィードバックもより深いものになっていきます。
「今回の目標のために、あなたが毎朝早く来て準備をしていたのを見てきました。以前、入社したばかりのときに先輩から指導されたことを今でも大切にしているからだと話してくれました。あなたの『お客様に喜んでもらいたい』という思いがきっとそうした行動につながっているんですね。そういう姿勢が信頼できると私は思っています」
結果やプロセス承認は多くのマネジャーがしています。さらに一歩踏み込んで、努力の背景にある本人のこだわりや職業観まで承認できると、「この上司はよく見てくれている」「私のことをわかってくれている」と、メンバーは感じると思います。
その結果、マネジャーが上質世界(※)に入り、言葉を受け取ってくれるかもしれません。

ただ、そうならないかもしれない。そこは「人は変えられない」のです。
※上質世界:「生存」「愛・所属」「力」「自由」「楽しみ」という5つの基本的欲求を1つ以上満たす人・モノ・状況・価値観などのこと
■改善点より「強み」を伝える
マネジャーはポジティブ・フィードバックをできるだけ積極的に行うべきだと私は思っています。
その情報提供によって、メンバーの上質世界に「仕事は楽しいものだ」という価値観と「成長実感」が育まれていくからです。何度も言いますが、人は変えられないので仕事が楽しいと感じるかどうかは本人が決めることです。上司はコントロールできません。
ただ、外的コントロール型の上司ほど「結果を出すのは当たり前」と考えて、改善点を探して相手に「もっと改善すべきところ」をたくさん伝えることが“指導・教育”だと捉えてしまいがちです。しかし大切なことは、人には「5つの基本的欲求」があるということです。その中には、愛し愛されたいという愛・所属の欲求や、承認因子の力の欲求、また成長したいという楽しみの欲求があります。
メンバーは、完璧な人ではありませんが、最善を尽くしています。そして上司の私たちも同じく完璧な人はいません。人は、認められ、成長を実感できると嬉しいものです。
ですから、改善点以上に「できているところ」「素晴らしいところ」「強み」「取り組み」を情報提供してあげてください。特に、影響力のあるあなたからのポジティブ・フィードバックには、力があります。上司から陰の努力を認められて嫌な気分になる人はいません。そうやって会社が、上司が、仕事が上質世界に入っていくのです。
■表面的にほめるのは「逆効果」
読者の中には、かつての私のように「メンバーへの興味よりも目標達成への興味が強い人」や「基本的に他人にはあまり興味がない人」もいるかもしれません。
それでもメンバーの立場に立つと、自分への興味関心を持ってくれている上司からの言葉をより受け取るものです。
私の失敗談と改善したことを1つお話しさせてください。
今でこそ私は後天的に能力開発をしてメンバーに興味を持つことができるようになりました。しかし、かつてはただ「素晴らしいね~」を連呼するだけの上司でした。とても表面的な承認にとどまっていたのです。
これはフィードバックにおけるご法度の行為でした。私の本心ではないし、事実にも基づいていなかったからです。
目の前のメンバーは全然嬉しくなさそうでしたし、言葉はメンバーの心に届いていませんでした。「軽く扱われている」「自分のことを全然見てくれていない」「おだてて何とかしようとしている」と逆効果になっていたときもありました。
■デキる上司が「毎朝15分」やっていること
メンバーに興味を持つために当時から私が現在も継続しているのが「毎朝、メンバーのことを想像する時間をつくること」です。
オフィスにある私の個室のホワイトボードには組織図があり、そこにはメンバーそれぞれの顔写真が貼られています。130人全員の顔写真です。
そしてオフィスに出社したら、朝一番に顔写真のボードを見ながら「彼は今どんな願望があるかな? 彼女は元気に働けているかな? 私に何かできることはないかな?」と一人考えます。眺めている時間は、15分程度です。
日頃、プロジェクトや数字の進捗管理、業務の割り振り、自分のタスクなどマネジャーに課せられた仕事は山積みです。その日1日のスケジュールを立てるときに、メンバーに対して「どうしてこれを実行していないんだ」「この連絡を返していないんだ」「あの仕事の進捗はどうなっていたかな」などの業務・タスクべースの思考が頭に浮かんできてしまいます。
ですから、あえてメンバーが仕事に意欲的に向かえているか、強みは何か、力になれることはないかと、人としてメンバーのことを想像します。私はそうするとメンバーに対する感謝が湧き上がってくるのです。メンバーの働きに対して、当たり前と思い感謝がなくなってしまえば、マネジャー失格だと思っています。
メンバーの顔を見ると感謝やパワーが湧いてくる。繰り返している中でそんな自分に変化してきました。
ホワイトボードに貼らなくても組織図のファイルをつくって毎朝、めくりながら眺めるのでもいいと思います。
■「本心から出た言葉」を大切にする
ポジティブ・フィードバックは事実に基づいて行うことをお伝えしました。それだけではなく、上司の本心からの言葉であることが必須です。メンバーを観察し、事実を確認した上で本音で思ったことを伝えます。
次のシチュエーションを読みながらあなた自身の感情の動きに目を向けてみてください。
【シチュエーション】

朝7時台に会社へ来たところ、若いメンバーが先に出社していました。メンバーは、その日1日の行動計画づくり、手帳やパソコンに段取りをつける行動を自主的に行っていました。
どう思いましたか? もし「そうなんだ」としか感じなければ、まだ承認するタイミングではありません。心から感情が湧いてきていないのに、表面的な言葉で承認しようと焦る必要は、まったくないのです。
■大切なのは「ほめ」でも「おだて」でもない
例えば、マネジャー自身が「どんな理由で朝早く来ているの?」と質問してみるとどうでしょうか。するとメンバーから、
「今年どうしてもリーダーに上がりたいんで、頑張ってるんです」

「朝イチで段取りをつけておかないと、先輩として示しがつきませんので」

「自分が今、成果を出すことがチームのためになると思ったので」

「実は、新たな家族ができたので今年は頑張ろうと決めたんです」
といった返答がありました。
それを聞いて、自然と湧き上がる感情があるかもしれません。
「素晴らしい」「すごいな」「偉いな」「そう思ってくれて嬉しいな」など、純粋に湧いた感情をIメッセージ(“私”を主語とした言い回し)で伝えるのです。
「そうか、リーダーに上がるために朝早くから頑張ってるんだね。努力家の君ならきっといいリーダーになれると思う。私も協力するよ」

「偉いなぁ。会社の仲間のためにそういうことをしている動機に感動した。とても嬉しい」

「家族のために頑張るっていうのは、もし私が家族なら、とても嬉しいと思うだろうな。そんな君を私も応援したい。力になれることがあればなんでも言ってね」
「朝早く来て活動している事実」「その理由、動機、背景」を知ると、マネジャーの心にさまざまなプラスの気持ちが芽生えてきます。その気持ちを率直に伝えます。
承認は表面的なテクニックではありません。人は誰だって頑張っていることを認められれば嬉しい。でも、ほめやおだてとは区別が必要です。そのため、事実を踏まえて労う、素直な気持ちで承認するのです。承認はやり方の問題ではありません。あり方が大切です。

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橋本 拓也(はしもと・たくや)

アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー

千葉大学卒業後、2006年アチーブメントに入社。入社1年目で新規事業の責任者に抜擢され家庭教師派遣事業を立ち上げるも、5年で事業閉鎖。2008年よりメンバーマネジメントに携わるが、異動・退職などが多く、7年間マネジメントの無免許運転期間を過ごす。その後、世界60カ国以上で学ばれる「選択理論心理学」を土台にしたマネジメントに取り組み、マネジメントが激変。メンバーおよび組織の飛躍的な成長を創り出し、2021年に新卒初の執行役員、2022年に取締役に就任。現在は130人以上のメンバーマネジメントに携わる。2023年に開講したマネジメント講座は1年でシリーズ累計1000人以上が受講。また、企業経営者や管理職、ビジネスパーソンらが年間1.8万人以上受講するセミナー『頂点への道』講座シリーズのメイン講師を務める。これまでに研修を担当した受講生は3万人に上る。

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(アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー 橋本 拓也)
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