※本稿は、葛西リサ『単身高齢者のリアル――老後ひとりの住宅問題』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。
■賃貸住宅を借りられない高齢者たち
高齢で収入が低く、住宅に窮している――そういった状況にある人も、公的住宅には入居ができず、民間の賃貸住宅に依存するほかないという状態が慢性化している。
民間の賃貸住宅は、全住宅の3割、賃貸住宅市場のおよそ8割を占める。供給のボリュームは大きいが、民間の賃貸住宅は、認知機能や身体機能の低下をリスクとみなして高齢者を排除する。たとえ資産があったとしても、貸し渋られるケースは多い。
ある70代の女性は、熟年離婚を機に、民間の賃貸住宅への入居を希望したが叶わなかった。数千万円の貯蓄を提示しても「オーナーが首を縦に振らない」と、仲介の窓口で断られ続けた。彼女が希望した物件は、いずれも子育て層が好みそうな人気物件だった。
働き盛りの子育て世帯と独居の高齢者。家主が入居者としてどちらを選別するかは一目瞭然だろう。
■高齢期に住み替えが必要になる理由
高齢者向けの見守りサービスなどを展開し、住宅に困る人々の住宅探しを行う居住支援法人格を有するホームネット社によれば、高齢期に住宅の確保が必要となる理由として、世帯構成の変化や立ち退き(建物の取り壊しなどの理由による)という事情が多いことがわかっている。
世帯構成の変化については、先に述べたような離婚や別居のほか、同居親族の死亡等に伴う住宅のダウンサイジングといった理由もあるという。
例えば、配偶者の他界を機に、郊外の持ち家から子と近居するために都心部の民間賃貸住宅への移動を希望するという事例も、ここに含まれるだろう。立ち退きについていえば、高齢者の場合、壮年期から同じ民間賃貸住宅に住み続けていればおのずと家屋も老朽化する。
また、市場から排除されがちな高齢者の場合、入居可能な物件がそもそも老朽化している場合も多い。なお、身体機能の低下にともなって、段差の少ない物件や、エレベーターのない2階以上の階数から1階へ住み替えるケースも少なくないようだ。
しかし、高齢期の民間賃貸住宅への住み替えは簡単ではない。自宅で亡くなる割合は、高齢であるほど高くなる。遺体が放置され、特殊清掃が入る事態となれば、物件の価値は著しく低下する。
■孤独死、意思能力の喪失というリスク
2023年の宅地建物取引業協会連合会(宅地連)の報告によると、単身高齢者への物件のあっせんについて、「行っていない」が19.6%、また、「高齢者世帯の諸状況により判断している」が66.7%であり、「積極的に行う」という回答はわずか13.7%にとどまった。
その理由としては、「オーナーの理解が得られない」という回答が半数を占め、その他、手間やリスクを挙げる事業者が多い。
同調査では、オーナーの理解が得られない理由として、やはり、孤独死(約9割)や認知症の発症など、意思能力を喪失した場合(7割強)の対応の難しさが挙がっていた(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会「高齢者等住宅確保要配慮者の居住支援のあり方に関する研究報告書」2024年)。
そうした中で、単身高齢者向けに紹介される賃貸物件は、リスク回避の側面から、市場では取り引きされにくい狭小で旧耐震基準、断熱性能が低いなど、低質な住宅になる可能性があることも指摘しておかなくてはならない。
■高くなりがちな民間住宅の家賃
にもかかわらず、公営住宅などと比較して、民間賃貸住宅に住まう高齢者の住居費は高くなる。
前掲の総務省の調査によれば、1カ月あたりの平均賃料は、公営住宅で2万4961円、URや公社住宅では7万1831円、民間の賃貸住宅では、非木造が6万8548円、木造でも5万4409円である。さらに1畳当たりの賃料を見ると、公営住宅が1246円、URや公社住宅が3633円であるのに対して、民間の賃貸住宅の非木造は4151円、木造でも2916円と高い。
公的住宅では、国が定める最低居住面積水準(単身者の場合は25平方メートル、2人以上の場合は10平方メートル×世帯人数+10平方メートル)などに準拠して、入居者を選定している。例えば、2024年時点で、大阪の府営住宅の場合には、55平方メートル以上(2DKや3LDK)の住戸は2名以上、69.5平方メートル以上の3LDKは3名以上、4寝室ある住戸は4名以上の世帯向けに供給されている。
なお、単身世帯に対しては、55平方メートル以下の物件が供給される。大阪府営住宅では、1住戸あたり39.65平方メートルが最小延べ床面積であり、これは単身者専用住戸として割り当てられる。
ちなみに、大阪府営住宅の総戸数は11万2000戸であるが、そのうち単身者専用の1寝室住戸は1298戸と少ない。そのため、広い住戸でも、単身者を受け入れることとし、2寝室住戸のうち3万439戸、3寝室住戸のうち1万3953戸、2025年3月末時点で、計約4万5000戸を単身者向けとしている。
一方、民間の賃貸住宅には、住戸と世帯人数をマッチングさせるための最低基準はない。
■民間賃貸住宅を活用した高齢者向け住宅施策
こういった高齢期の住まいの不利を繕うために、2000年代以降、政府は高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)を制定するなど、積極的に民間の住宅を活用した制度を展開するようになる。
例えば、2001年には、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅を高齢者円滑入居住宅(高円賃)と称し、貸主がこれを都道府県に登録、物件情報を公開する制度が創設された。2005年からは、高円賃のうち、高齢者に特化して供給される物件を高齢者専用賃貸住宅(高専賃)として登録する仕組みが追加されている。
さらに、2009年には、高齢者優良賃貸住宅制度(高優賃)がスタートする。バリアフリー化、緊急時の対応サービスが利用可能な同住宅は、入居者の収入に応じて家賃助成の仕組みが整えられたことが特徴である。
とはいえ、これら、高齢者向けの住宅において、入居者に対する生活支援等のサービスの提供は任意とされていたため、その質が担保されづらく、介護が必要になった場合、結局はそこに住み続けることができないなどの課題があった。
そこで2011年には、先の法律上に位置づけられる、高円賃や高専賃を廃止、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に一本化されることとなった。
■供給が不足している「サ高住」
サービス付き高齢者向け住宅とは、バリアフリー構造のほか、一定の面積、設備基準を満たした住宅で、そこにケアの専門家による見守りサービスがセットされたものを指す。政府は、これを運営する事業者に建設費を補助するなどして、供給量を増やす方針である。
2025年3月末時点で、サービス付き高齢者向け住宅は、全国に29万戸強存在するが、この供給量では、今後増大する高齢者人口の受け皿にはなりえない(図表2–1)。
なお、2023年8月末時点におけるサービス付き高齢者向け住宅の登録状況から国土交通省が集計した結果によれば、その入居費用(月額)は、全国で平均11万円、大都市圏では12.7万円、地方圏でも9.2万円となっている(国土交通省資料「サービス付き高齢者向け住宅について――高齢者の住まいについて」2023年)。
同住宅は、支払い能力がある層への対応としては有効な部分もあるが、充分な蓄えもなく、年金のみで生活する中低所得層の高齢者にとっては手が届きにくいという問題がある。
■家賃高騰の余波を受ける沖縄の高齢者
沖縄県が高齢者の生活状況調査を実施した際、筆者は住宅事情の分析を担当した。その調査結果を、参考までに概観してみよう。
沖縄県の持ち家率は4割台であり、全国で最も低い。つまり、賃貸住宅依存度の高い地域である。ここ数年は、リゾート開発などに伴い県外からの住宅投資が過熱し、民間賃貸住宅の賃料が急騰している。
人口が集中する那覇市内では、かねてより慢性的な住宅不足が続いているが、最近では、離島である宮古島の地価が高騰し、ワンルームマンションの月額の家賃相場が10万円を超えたことが大きな話題となった。
さらに、名護市では、2025年に大型テーマパークが開業した影響から賃貸住宅需要が高まり、家賃が上昇、手ごろな物件が市場から消えた。そのため、近隣大学に進学予定の30名もの学生が下宿先を確保できないことがニュースとなった。
こういった市場であるため、調査では、特に民間賃貸住宅に暮らす高齢者の不利が目を引いた。民間の賃貸住宅居住者では、「住まいが古くなりかなり傷んでいる」という回答のほか、「家賃等住宅に関する経済的負担が重い」という回答が持ち家や公的住宅居住者よりも多かった。
月収「5~10万円未満」の半数以上が、さらに「貯蓄がない」世帯の6割以上が月額3万円以上の家賃を負担しているという実態も確認された。
こういった結果に対しては、沖縄の住宅事情に詳しい調査検討会のメンバーからも、「どうやって家賃を工面しているのか」などと驚きの声が上がっていた。
■高齢者が常に抱えている「退去の不安」
民間の賃貸住宅に暮らす高齢者は、持ち家や公営住宅居住者と比較して、仕事に就いている割合が高かった。ここから、家賃を含めた生活費の獲得のための就労を余儀なくされる人々の実態が浮かび上がる。
本調査では、身体機能が低下したり、健康状態が悪くなったりした場合にどこで暮らすかという問いを設定した。持ち家や公営住宅では、サポート等を受けながら住み続けるという回答が6割と高くなっているのに対し、民間の賃貸住宅では「住み続ける」という回答は3割に留まり、その多くが「介護保険で入所できる施設」を選択していた。
とはいえ、それは消極的な選択、つまり、住み続けたくても住み続けられないことを予想しての判断であると筆者は推測している。
オーナー側が入居する高齢者の孤独死などを懸念すれば、次回の更新はできないかもしれない。また、身体機能が低下しても、民間の賃貸住宅でバリアフリー工事などをする場合には、オーナーの承諾が必要になる。しかし、その理解が得られない、あるいは、改修の相談をすることで、かえってオーナーが入居者の虚弱化を問題視する可能性もある。
いずれにしても、民間の賃貸住宅に暮らす高齢者は、常に退去の不安を抱えながら生活しているのだ。
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葛西 リサ(くずにし・りさ)
追手門学院大学 地域創造学部教授
1975年大阪府生まれ。
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(追手門学院大学 地域創造学部教授 葛西 リサ)

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