日本が世界に真に評価される外交とは何か。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「日本国内には、高市首相は海外首脳・高官にそこそこ人気といった楽観的な見方もあるが、そう見ていない国は少なくない。
高市首相は中国を筆頭とした権威主義国に対抗するためにも、東南アジアなどミドルパワーの国へ訪問すべき。その連携が、“台湾有事”の際にも効果を発揮するはずだ」という――。
■高市首相の「海外評」本当のところ
「外交問題を見事に処理しており、外国の首脳や高官といったVIPの間でかなりの人気を博している」。高市早苗首相への海外からの評価に関して、霞が関や永田町界隈にはそうした認識が一部にある。
だが、それは根本的に欠陥のある「物語」かもしれない。一歩東京の外に出てみれば、まったく異なる厳しい現実が浮かび上がる。
海外メディアや識者、国際的なオブザーバー、各国の政策立案者、そしてミドルパワー(超大国・大国ではないが、一定の国際的影響力を持つ中堅国)の外交官たちの間では、日本には「グローバルな存在感」が決定的に欠如しているという、静かなコンセンサスが広がりつつあるのだ。
今後10年間の波乱に満ちた地政学的な荒波を無事に乗り切るためには、高市首相は日本のトップリーダーとして自ら世界中を飛び回り、握手を交わし、交渉のテーブルに着き、そして具体的な公共財をそのテーブルに提供しなければならない。
そうでなければ、日本は米中二極体制という構造的現実の中に完全に埋没し、何十年もかけて築き上げてきた深い信頼の泉を無駄にしてしまう危険性がある。
これほどリスクの高い局面はない。
■相対的な国力低下危機に瀕する日本
兼原信克・元国家安全保障局次長が最近指摘したように、日本は前例のない複合的な地政学的危機の中で、自国の相対的な国力低下を乗り越えるという二重の課題に直面している。
米国は依然として日本にとって不可欠な条約同盟国であるが、かつてのような一極集中の影響力はもはや持っていない。
そんな中、際立つのが中国の強硬な姿勢と経済的強制(エコノミック・コースション)の行使であり、これはルールに基づく国際秩序に対する直接的な挑戦である。
この環境を乗り切るために、高市首相はワシントンと北京のずっと先を見据えなければならない。日本が取るべき戦略はミドルパワーを結び付け連合させるリーダーになることである。これは、私が「ネオ・ミドルパワー外交」と呼ぶものである。
■「ネオ・ミドルパワー外交」とは何か
これを実行に移すために、首相は各国への訪問を早急に拡大すべきだ。東南アジアは、この外交的至上命題の「グラウンド・ゼロ(爆心地)」である。ISEASユソフ・イサク研究所が発表した権威ある『東南アジアの現状2025年調査』によれば、日本は依然としてこの地域で最も信頼されている主要国であり、回答者の66.8%の信任を得ている。
ただ、調査を注意深く読み解くと、この地域が日本の最大の戦略的資産であるのと同時に、最も差し迫った脆弱性も持っていることも明らかになる。地政学的な地殻変動に関する厳しい警告も含まれているのだ。
鍵は中国だ。同国はこの地域で最も影響力のある経済的・政治的・戦略的勢力であり続けているが、南シナ海における攻撃的な行動への不安(ASEANの回答者の51.6%が地政学的懸念のトップに挙げている)が主な要因となり、高いレベルの不信感(41.2%)に直面している。
さらに、欧州連合(EU、51.9%)が米国(47.2%)を抜き、2番目に信頼される勢力となったように、回答者のかなりの部分が、ワシントンの予測不可能性を理由に、この地域への米国の関与は今後変動すると予想している。

このデータは明確な構図を描き出している。
■他国との信頼は生鮮食品のようなもの
ASEANは中国の侵食と米国の変動性に深く不安を抱いており、リスクをヘッジするための信頼できる、ルールを守るパートナーを積極的に探しているのだ。
しかし、信頼とは生鮮食品のようなものである。そこで、高市首相はジャカルタ、ハノイ、マニラ、シンガポールを訪問し、具体的な成果(デリバラブル)をもたらさなければならない。これは、従来のインフラ支援を超えて、この地域の最大の課題に取り組むことを意味する。
日本は、デジタル経済とグリーン経済のための枠組み、海洋状況把握(MDA)のための能力構築、そして何よりも重要な「サプライチェーンの強靭化」のための戦略を提供しなければならない。
東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)の最近の調査でも強調されているように、競争力のある国際的な生産ネットワークを構築するには、デジタル統合と規制の調和が不可欠である。
さらに、日本はミドルパワーが中国への集団的な「対抗的強制(カウンター・コースション)」能力を開発するのを支援しなければならない。以前、リトアニアが台湾に代表所の開設を認めたことで中国から厳しい経済的報復を受けた。
これは北京の圧力の治外法権的な側面を浮き彫りにした。北京は、単なる二国間貿易ではなくサプライチェーンを標的にすることで、直接的な貿易量がわずかであっても小国にダメージを与える能力があることを証明した。
高市首相は、ASEAN、EU、QUAD(日米豪印)のパートナーと協力し、EUの中国への「反強制手段(Anti-Coercion Instrument)」と同様の枠組みを構築したい。
この集団的な対応は、中国からの標的が1国に絞られないようにする効果が期待できる。
同時に、高市首相は他の先進民主主義国との関係を強固にすることで、戦略的リスクヘッジを行わなければならない。
つまり、ブリュッセル、オタワ、キャンベラ、ウェリントン、ソウルを訪問することで、高市首相は日本を「ルールに基づく国際秩序の信頼できる擁護者」としてアピールすることができる。インド太平洋に対する日本とEUの同期したアプローチは、中国を中心とした権威主義的な強制に対する強力な外交的カウンターウェイト(対抗力)となるだろう。
■「台湾有事」で直面する4つの難題
この積極的で世界を飛び回る外交は、単に経済や貿易に貢献するが、それだけではない。それは根本的に「ハードな安全保障」と、台湾有事というすぐそこにある危機に関するものだ。中山泰秀・元防衛副大臣が最近警告したように、中国とロシアの戦略的協力の深化は、この地域に深刻かつ差し迫った脅威をもたらしている。
私たちは、大国間の二項対立という時代遅れのモデルや、永遠の平和という幻想を捨て去らなければならない。経済的相互依存が大規模な武力紛争を防ぐという思い込みは、権威主義者のリスク計算に対する根本的な誤読である。台湾海峡で抑止力が崩壊すれば、最初の物理的な攻撃が沖縄に着弾するずっと前に、経済的な衝撃波が東京を直撃するだろう。
そのような悪夢のシナリオにおいて、日本は「地理と法律の4つの難題」に直面する。
第一に、同盟への依存は、在日米軍がいかなる米国の対応においても絶対的な重心であることを決定づけており、日本領土が標的になる可能性が高い。

第二に、日本の法的・政治的制約は依然として迷宮のようであり、ミサイルが飛び交う中で、政府は政治的に議論を呼ぶ決定を下すことが求められる。
第三に、兵站上の地理的条件は残酷である。南西諸島が近接しているということは、日本領土が必然的に「戦場」に引き込まれることを意味する。
第四に、ミドルパワーの環境が東京のリスク許容度を形成する。それは、オーストラリア、韓国、欧州諸国などのパートナーをどれだけうまく動員できるかにかかっている。
■日本にゆっくり考える時間はない
日本には、抑止力が崩壊したその日に台湾有事における自国の役割を決定するような贅沢な時間はない。日本は、「槍の穂先(スピアヘッド)」「支援者(イネイブラー)」「聖域(サンクチュアリ)」「仲介者(ブローカー)」という4つの戦略的役割の組み合わせを事前に決定し、事前にシグナルを送り、それに備えなければならない。4つの役割のあらましはこうだ。
「槍の穂先」とは、日本は最前線の戦闘員として行動し、統合防空ミサイル防衛と反撃作戦を実施すること。これは同盟の結束を最大化するが、中国の報復を確実にする。
「支援者」とは、日本は後方支援、情報共有、後方地域の保護を通じて同盟国の作戦を可能にする役割を指す。これは国内的には受け入れやすい役割だが、北京の目から見れば直接戦闘との区別は極めて曖昧である。

「聖域」とは、日本は避難、人道支援、経済的レジリエンスのための安全な後方地域としての役割を強調し、壊滅的なサプライチェーンのショックを吸収しようとする地域経済のアンカーとして機能を指す。
最後の「仲介者」とは、日本は外交ネットワークとネオ・ミドルパワーのアイデンティティを活用して国際的な影響を管理し、緊張緩和のためのチャネルを維持することを意味する。
これらの役割、特に「仲介者」として成功するためには、日本は最初の銃撃戦が始まってからではなく、今すぐミドルパワー連合を組織しなければならない。
■台湾有事の「選択」を国民に語れ
さらに高市首相は、オーストラリア、カナダ、主要な欧州諸国、そしておそらく韓国やインドと、危機対応、制裁計画、軍事支援の選択肢について定期的な協議を制度化する必要がある。政府はまた、党派的な分断を乗り越える国家的なレジリエンスの仕組みを構築し、上記に挙げた台湾海峡を巡るリスクでの「選択」について、日本国民に社会化(認識の共有)を図るべきだろう。
もうひとつ重要な戦略がある。それは中国を完全に孤立させないことである。そして、もし北京が建設的に関与し、海洋における強制をトーンダウンさせる意思を示すのであれば、高市首相は中国での首脳会談をためらうべきではない。
各国と構築した連携に裏打ちされた北京訪問は、責任あるステークホルダーとしての日本の役割を世界に示すことになる。それは、日本の戦略が敵対的な封じ込めではなく、すべての国が強制の恐怖なしに繁栄できる、安定したルールに基づく均衡を確立することであるというシグナルを送ることにもなる。
高市首相が東京の快適な場所から外交問題をうまく管理しているという国内の認識は、戦略立案上も危険な幻想である。21世紀において、国家の影響力は、国際舞台における積極的かつ物理的な関与に正比例する。

日本は計り知れない潜在的な力を持っている。高度に洗練された経済、高度な技術力、極めてプロフェッショナルな自衛隊、そして世界的な親善(グッドウィル)の深い蓄積である。
しかし、これらの資産は、ステイトクラフトを通じて積極的に展開されなければ事実上無用である。もし高市首相が世界の舞台に足を踏み出すことを怠れば、つまりASEAN、ヨーロッパ、そしてインド太平洋の国々のテーブルに着くことを怠れば、日本はこの地域で最も信頼されるパートナーとして苦労して得た地位を失うことになるだろう。
この多極的な複雑さの時代に勝利するためには、高市首相はネオ・ミドルパワーのリーダーシップの役割を引き受け、日本のビジョン、資源、そして安定への揺るぎないコミットメントを、世界の首都に直接もたらさなければならない。
絶え間ない対面での外交を通じてのみ、日本は国益を確保し、民主的な隣国を保護し、不安定な地政学的状況において日本が指針となる力であり続けることを保証できるのである。

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スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学 政治学・国際関係学教授

東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。

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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)
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