2026年3月に行われた日米首脳会談では、高市首相の振る舞いやパフォーマンスに対して様々な意見が出た。高市外交をどう評価すべきか。
前駐豪大使の山上信吾さんの書籍『高市外交の正念場 反日勢力との闘い、日本再生の分岐点』(徳間書店)より、紹介する――。(第1回)
■高市外交の滑り出しは順調
昨年(2025年)10月に発足した高市早苗政権。多くの国民の期待を一身に担って誕生した日本初の女性宰相だ。
その外交の滑り出しは予想以上に順調だった。いわば「ロケットスタート」を切るのに見事に成功したといえよう。
最初は、マレーシアで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議。高市総理としての国際会議デビュー戦だった。何よりも見る者の関心と注目を引いたのは、ASEAN各国首脳の心温まる歓迎ぶりだった。
ホスト役のマレーシアのアンワル首相が、高市総理を案内して東南アジア諸国の各首脳に紹介してまわってくれた。日本女性の特権だろうか。東ティモールのグスマン首相のように、初対面の挨拶(あいさつ)にまわる高市総理の手を取ってキスをする御仁もいたくらいだ。
■石破前総理とは「雲泥の差」
翻って、その1年前はどうだったか?
石破茂首相(当時)が臨んだ最初の国際会議は、ペルーでのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議だった。
寄ってくる外国首脳もまばらで、せっかく声をかけてくれたカナダのトルドー首相という先輩首脳に対して座席に座ったまま対応する非礼に及んだ。
次の国際会議では、会議前の議場で他国の首脳と親しく談笑することなく、自席に陣取ってひたすらスマートフォンをいじっていた姿が日本国民の失望と批判を招いた。高市総理の対応は、そんな石破氏とは雲泥の差だった。
そして、トランプ米国大統領の訪日。アメリカとしては新たな日本の総理を品定めしたい意向があったのだろう。高市総理側にとっても、これ以上はない絶妙のタイミングだった。
■トランプ大統領の「温かい言葉」
もともと相性は悪くないと予想されていたトランプ・高市だが、私を含めて多くの外交専門家の度肝を抜いたのは、トランプ大統領のこれ以上はない思いやりと配慮に溢れた温かい言葉の数々だった。
「あなたに質問や疑問があるとき、あなたが頼みごとを必要とするとき、自分として日本を助けられることが何かあるとき、我々はその場にいます」

「あなたは日本で最も偉大な総理大臣の一人になるでしょう」

「親密な友達」
初めての日米首脳会談でここまで歓迎の辞のシャワーを浴びた例を、私は知らない。首脳会談終了後、腕を組んで迎賓館の階段を下りてくる姿が2人の相性、会談の雰囲気を象徴していた。
■高市総理のパフォーマンスは際立っていた
この2つのスタートがあったからこそ、韓国での日韓首脳会談、日中首脳会談の基調が設定されたといえよう。
第2期安倍政権の発足にあたっては、安倍晋三という保守政治家を警戒して遠ざけ、首脳会談では仏頂面で嫌々ながら握手に応じた習近平。さすがにそこまで冷遇できない状況をつくりあげて高市総理が首脳会談を迎えたと評すべきだろう。

今年(2026年)に入っても、外国首脳を迎えての高市総理のパフォーマンスは際立っていた。
まずは、韓国の李在明大統領を故郷の奈良で歓待した。外交慣例を破って総理自ら李在明を相手方宿舎で出迎えて歓迎ぶりを焼きつけただけでなく、共にドラムを叩く姿まで世界に発信した。
歴史問題が生起するたびに日韓の結束を訴えてきたアメリカ政府を黙らせるほど、非の打ちどころがない一手だった。
続いてイタリアのメローニ首相を迎えての歓待ぶり。
トランプの目から見ればか弱い男性指導者が林立している現在のG7にあって、数少ない強いリーダーが高市早苗とジョルジャ・メローニだ。
2人の女性首相が仲睦まじく交流を深めた模様を世界に発信しただけでなく、メローニの誕生日をイタリア語で「ハッピー・バースデー」を唄いながら祝した気配り。これこそ、首脳外交の成功には欠かせないものだった。
■「媚びすぎ」「はしゃぎすぎ」ではない
野党やオールドメディアの一部からは、トランプと腕を取り合って階段を下りた姿や、米軍空母ジョージ・ワシントンの上でこぶしを突き上げたり、親指を突き立てる「サムズアップ」をしたことに対して、「媚びすぎ」「はしゃぎすぎ」といった批判を浴びるとともに、共産党の元衆議院議員から「現地妻」などという心ない批判が寄せられた。
「現地妻」などという侮辱は論外として、「媚びすぎ」「はしゃぎすぎ」は本当にそうだろうか?
あの程度の仕草に対してやいのやいのと騒ぐところに、国際場裡での立ち居振る舞いに慣れていない一部日本人の未熟さと歪んだコンプレックスを感じざるをえない。
たとえば、ハイヒールを履いた女性が階段を下りる際にはバランスを失いがちになるので、一緒に歩く男性が手や腕を差し出すのは欧米では紳士の嗜みだ。
あの場面で差し出された手や腕を拒絶する無粋者などいないだろう。

■「ピースサイン」をしてはならない
米海軍空母は数百人もの海軍兵士が参列し、日米同盟の結束をアピールする絶好の機会だった。トランプから「勝者」「たちまち親密な友人になった」とまで熱のこもった賛辞を贈られておきながら、石破茂前総理のように仏頂面をしてしゃちほこばっているわけにはいくまい。
世界標準では、あの場にふさわしいジェスチャーをとったといえよう。
個人的には、サムズアップをしてくれて、日本人がよくやる軽薄な「ピースサイン」でなかったことに安堵した。
なぜなら、「ピースサイン」とは大東亜戦争中の敵国であった英国首相のチャーチルが日独伊の枢軸国に絶対勝つぞという決意を示した、「勝利(victory)」のVを表したボディランゲージであるからだ。
そんな歴史や由来も知らず、無批判に「ピース」「ピース」などと口走って写真に納まる「お馬鹿」が引きも切らない日本だけに、高市氏の仕草は新鮮かつ賢明なものに映った。
■「高市・トランプ」は相性がいい
では、高市氏のトランプとの相性のよさはどこからくるのか?
掘り下げてみよう。
第一は、真正保守の政治家である点だ。
自由民主党(自民党)には「保守」の看板を安易に掲げたがる政治家がしばしば見受けられるが、国際社会の物差しを当てはめれば、石破茂、林芳正、小泉進次郎といった政治家を「保守」と位置付けることには到底無理がある。
また、弱い政治家を軽侮するトランプ。政治信条を共有し、確固とした歴史観、国家観をもち、国民の絶大な支持を得ているリーダーに一目置くのは当然ともいえる。
第二は、盟友・安倍晋三の後継者と見られている点だ。

安倍氏が愛用していたゴルフクラブを高市総理から贈られたトランプが、相好を崩したことは想像に難くない。実に気の利いた選定でもあった。
■高市総理は際立っている
第三は、女性である点。
もちろん、媚びを売りおもねるタイプではない。だが、日本女性が世界中で一種のブランドであることは間違いない。優しさ、慎み、献身、思慮深さといったイメージは追い風だ。
第四に、最も大事な要素は愛嬌だ。
日本の政治家で、初対面の外国人相手に胸襟を開いて接することができる人間は多くないが、高市総理はトランプの懐にうまく飛び込むことができた。
このように見てくると、彼女は「前任者に恵まれた」ともいえよう。
以上の要素をまったくといってよいほど持ち合わせていない総理が、菅義偉、岸田文雄、石破茂と三代も続いたからこそ、際立つことができた。
トランプ大統領をはじめとするアメリカ側からすれば、気脈を通じていた安倍晋三以来、ようやく丁々発止の話ができ、リソース(時間、予算、体力など)をつぎ込んで信頼関係を構築するのにふさわしい総理が誕生したと捉えているはずだ。

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山上 信吾(やまがみ・しんご)

前駐オーストラリア特命全権大使

1961年東京都生まれ。
東京大学法学部卒業後、1984年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2000年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官、その後同参事官。北米二課長、条約課長を務めた後、07年茨城県警本部警務部長という異色の経歴を経て、09年には在英国日本国大使館政務担当公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官(政策企画・国際安全保障担当大使)、日本国際問題研究所所長代行を歴任。その後、17年国際情報統括官、18年経済局長、20年駐オーストラリア日本国特命全権大使に就任。23年末に退官し、現在はTMI総合法律事務所特別顧問等を務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に、駐豪大使時代の見聞をまとめた『南半球便り』(文藝春秋企画出版部)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『拝米という病』(ワック)、『国家衰退を招いた日本外交の闇』『高市外交の正念場』(いずれも徳間書店)などがある。

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(前駐オーストラリア特命全権大使 山上 信吾)
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