学校に持っていく水筒によって子どもが内臓を損傷するという恐ろしい事故が繰り返し起きている。小児科医の森戸やすみさんは「水筒はどう持たせるかが非常に大事。
子どもが内臓を損傷しやすい理由、腹部を強打したらどうすべきかについても知っておいてほしい」という――。
■何度も繰り返される水筒による事故
ゴールデンウィーク以降は日ごとに日差しが強まり、時間帯によっては汗をかくほどの暑さを感じる季節がやってきます。
これからの季節、子どもたちの健康を守るうえで、熱中症や脱水を防ぐためのこまめな水分補給は欠かせません。そのため、保護者にとって水筒は子どもに必ず持たせる必須アイテムの一つになっていると思います。
しかし、その水筒が実は一歩間違えると子どもの命を脅かす重大事故につながることがあるのをご存じでしょうか。
近年、学校生活や登下校中の何気ない行動の中で、水筒による深刻な内蔵損傷事故が相次いで報告されています。本稿では小児科医の視点から、なぜ水筒が危険なものに変わってしまうのか、そのメカニズムと具体的な対策について解説します。
■実際に重篤な内臓損傷を負った事例
さて、消費者庁や日本小児科学会からは、首に下げたり斜めがけにしたりした水筒が子どもの転倒時に腹部を強打し、重篤な内臓損傷を負ったケースがいくつも報告されています(※1、2)。例えば、典型例として紹介されているのは、以下のようなケースです。
7歳の子どもが登校中に校内の硬い土の上でつまずき、走っていて勢いがついていたために回転するように転倒しました。そのときに地面とお腹のあいだに首から提げていた水筒が挟まって腹部を強打。受傷後はぐったりして腹痛を訴え、嘔吐が続いたために近くの医療機関を受診し、そこで内臓損傷の可能性を疑われ、大きな病院を受診したそうです。
実際、このケースでは、入院して膵臓と脾臓の一部を切除する大きな手術を受けることになりました(※3)。
このほかにも、入院して保存的な治療を受けてよくなった例、小腸や膵臓を損傷し緊急手術が必要となった例、そこまでには至らなくても内臓の損傷のために入院し絶食して保存療法が必要だった例などがあります。

※1 消費者庁「みんなの消費安全ナビfrom消費者庁

※2 日本小児科学会「Injury Alert(障害速報)

※3 日本小児科学会「Injury Alert(障害速報)No.059 水筒による膵外傷(PDF)
■子どもが腹部を損傷しやすい理由
このような重症例は氷山の一角で、実際には子どもが腹部にダメージを受けるケガは、病院を救急受診するほどではないとしても、たくさん起きています。しかも、高いところから転落したなど、特別な場面で起きているのではありません。登下校中に走り出して転んでしまったとか、休み時間に友達と追いかけっこをしていてバランスを崩したなど、日常の中で起きているのです。
では、なぜ子どもは水筒によって内臓を損傷しやすいかというと、一つは体の構造に理由があります。子どもは大人に比べて筋肉が未発達で、クッションの役割を果たす皮下脂肪が少なく腹壁が薄いため、外からの衝撃がダイレクトに内臓に伝わりやすいのです。
二つ目は、子どもは通学に大きくて重いランドセルやリュックを背負っていることで、重心が後ろ寄りになっています。この状態ではバランスを崩しやすいうえ、とっさに手をついて体を守ることも難しいのです。その結果、硬い水筒のようなものが体の一点に当たることで、大人には起こりにくい重篤な外傷につながるのです。
これらに加えて、子どもは衝動的に走り出す、大人の予測を超えた動きをするといった行動特性も、転倒のリスクをさらに高める要因となっています。
■「水筒による事故」の3つの共通点
水筒による事故には、3つの共通点があります。


まず、「体の前側に硬いものがある状態」であること。斜め掛けにして水筒が腹部の前、ちょうどみぞおちやおへそのあたりにきていると、転倒時に自分の体重と走っていた勢いが一点に集中してしまいます。
次に「固定されていないこと」。水筒をぶら下げていると子どもが動くたびに大きく揺れます。この揺れが、転倒時に勢いを加速させて衝撃をさらに強くします。
そして「転倒の場面が日常的であること」。特別な場面ではなく、通学中や休み時間、ちょっと走ったときなどありふれた状況で起きているのが特徴。「危ないから走らないで」という注意が届かないような、登下校や遊びの最中に起きやすいのです。
同様のことは、水筒以外でも起こっています。防犯ブザーや鍵ケース、携帯電話など首から下げた硬いものが体の前側にあるとき、同じような事故を引き起こすリスクがあるので注意が必要です。
■嘔吐などの症状があれば早めに受診
こうした事故の後の対処が難しいのは、たとえ重症でも見た目はそう見えないという点にあります。転んでお腹を打っても、その場でちょっと泣いておさまったという印象で、しばらくするとなんでもないように見受けられることも少なくありません。

そのため、周囲の大人も「大丈夫だろう」と判断しがちですが、腹腔内での出血や臓器の損傷はじわじわと進行している可能性があります。
以下のような症状がみられた場合には、速やかに医療機関を受診してください。
①通常の打撲なら痛みが徐々に引いていくはずなのに、むしろ時間が経つにつれて腹痛が強くなる場合、②吐き気がしたり、実際に嘔吐する場合、③顔色が悪くなり、ぐったりとして元気がなくなる場合、④尿の色がいつもと違って濃かったり褐色だったりする場合です。
医療機関では、症状だけでなく、腹部を打ったときの状況も詳しく話しましょう。
■体の前側に硬いものを持たせない
では、どうすればこういった事故を防ぐことができるでしょうか。もっとも重要なのは、体の前側に硬いものを配置しないことです。水筒は首にかけたり、体に斜めがけにしたりしないようにしましょう。ランドセルやリュックや手提げ袋に入れるか、ランドセルやリュックのサイドに装着できる補助バッグを活用したりしてください。
水筒を体にかけるしかない場合は、ランドセルやリュックのショルダーストラップと水筒のストラップをクリップやバンドでしっかり連結・固定して、水筒が体の前側に来ないように工夫するのがおすすめです。防犯ブザーや鍵ケース、携帯電話などを首から下げるものも同様です。
また、あらかじめ子どもに「肩から何かをかけている場合は走らない、必ず下ろしてから遊ぶ」といったルールを伝えておくといいでしょう。そういったことを登校前に確認すれば、子どもの安全意識が高まり、事故予防につながります。
転倒防止のために足のサイズに合った靴を履く、ほどけて踏んでしまう危険性のある靴紐がない靴にするというのも有効です。
子どもの事故の多くは「危険なことをしたから起きる」のではなく、「日常の中で自然と起きてしまう」もの。だからこそ、「気をつけよう」という抽象的な声かけだけでは十分とは言えません。
子どもの発達段階を踏まえたうえで、具体的な行動ルールを教えること、そして環境を整えること。この2つを積み重ねることが、事故を減らすもっとも確実な方法です。水筒は子どもの命を守るための道具です。その一方で、使い方によっては危険にもなりえます。「何を持つか」だけでなく、「どう持つか」まで意識することが、安全な学校生活につながります。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。


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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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