■ネトフリドラマで描かれなかった細木の一面
Netflix制作のドラマ『地獄に堕ちるわよ』が大きな反響を呼んでいる。占い師・細木数子の半生を描いたもの。かつて多くのテレビ番組に出演し、時には批判も浴びながら高視聴率の立役者となった細木。そんな“細木現象”の正体はなんだったのか? リアリティショー全盛だった当時のテレビの状況に注目しつつ、改めて考えてみたい。
『地獄に堕ちるわよ』では、1938年生まれである細木数子の17歳から66歳までが描かれている。演じるのは戸田恵梨香。派手で豪快なイメージの細木と見た目や雰囲気は正反対だが、実際に作品を見ると細木を彷彿とさせる表情や仕草、さらに凄みが随所にあり、演技力の高さを改めて感じさせられる。
ここでの細木数子は、劇中のセリフを借りれば終始「強欲」な人間として描かれる。金の匂いがするものをいち早く嗅ぎ分け、策を弄しても自分が欲しいと思ったものは必ず手に入れる。事あるごとに足元をすくわれ、繰り返しどん底に叩き落されるがその都度再起。そして最終的に占い師として巨万の富を得ることになる。
細木については、批判的な声もずっとあった。霊感商法疑惑や暴力団とのつながりなどが取り沙汰され、スター歌手・島倉千代子の借金返済をめぐるゴシップなどもマスコミの格好のネタになった。このあたりは、脚色されている部分もあるだろうが今回のドラマでも描かれている。
■なぜ高視聴率女王になったのか
ただ、ドラマ自体は細木数子の裏の顔を告発しようとするものではなく、「ある日本人の戦後史」になっている。敗戦直後の焼け跡から始まり、1964年の東京オリンピック、1970年代の大阪万博やオイルショックなど当時の世相に絡めて、戦後の混乱から立ち上がるたくましい日本人の代表が細木であるという構図だ。
したがって、タイトルにもなった「地獄に堕ちるわよ」などの歯に衣着せぬトークでテレビを席巻する人気者になったあたりの話は、それほど重点的に描かれるわけではない。そのあたりを期待して見ると、やや肩透かしを食らった感じになるだろう。
とはいえ、多くの人びとが細木数子と聞いて真っ先に思い出すのは、やはりその頃のことだろう。2000年代、『ズバリ言うわよ!』(TBSテレビ系、2004年放送開始)や『幸せって何だっけ ~カズカズの宝話~』(フジテレビ系、2004年放送開始)といった細木の番組は軒並み高視聴率をあげた。一度は見たというひとも少なくないはずだ。
では、当時細木数子はなぜあれほど絶大な人気を博したのか?
■「テレビの常識」を破壊した
まず、細木自身にタレントとしての才があった。単にトークがうまいというだけでなく、「地獄に堕ちるわよ」といった暴言ギリギリの言葉のチョイスもハラハラ感を生み、人気につながっていた。
さらには独自の六星占術に基づく予言もわかりやすく、視聴者の興味を引きやすいものだった。むろん当たったものも外れたものもあるが、有名なところでは1985年の阪神タイガースの21年ぶりのリーグ優勝と日本一を的中させて世間の注目を集めた。
また芸能人に対して結婚や離婚の時期を予言することもよくあった。
結婚はまだしも、離婚についてテレビで予言することは珍しい。テレビは基本的に建前のメディアだ。だから出演者に対してネガティブなことは言わないのが常識。また、世の中を不安にさせるようなことも口にしないものだ。
ところが細木数子は、そのあたりをオブラートに包むことなく断言する。本人にとっては六星占術という根拠があるので動じない。占い師としては当然かもしれない。だが、テレビ番組の出演者としてはお約束を無視するもの。しかし、それが逆に忖度しない破天荒な魅力として映ったことは想像に難くない。
■レイザーラモンHGとの“伝説の放送事故”
テレビのお約束を無視したという意味では、いまも語り草のレイザーラモンHGとの一件がある。
2005年、『ズバリ言うわよ!』に出演した芸人のレイザーラモンHG。当時HGは、全身黒いレザーの衣装に身を包んだハードゲイのキャラクターで大ブレーク。「フォー!」と雄叫びをあげ、「セイセイセイ」などと言いながら、腰を高速で振るのが持ちネタだった。
当然、芸人としては相手がたとえ細木数子であってもやめるわけにはいかない。HGはいつものバラエティのノリで、椅子にもまともに座らず、M字開脚の姿勢にして股間を細木に見せつける。
初対面の細木は真顔になり、「これは芸とは言えない」「こんな慇懃無礼な人は見ない」と占うことを拒否。だがそれをHGは絶好のフリととらえ、「オレの腰の相はどうですか~?」などと言いながら、立ち上がって腰を思い切り振り始める。「気持ち悪いッ!」と顔をそむける細木。完全にその場は凍りついた。
事態を収拾しようとしたディレクターは、HGに「謝ってください」と書いたカンペを出す。ところが、HGはこれも完全に勘違いして「細木さん、謝ってくださいよー」とバラエティのノリでやってしまい、とうとう細木は「なんであたしが謝らなきゃいけないの」と激怒。
HGの芸風が気に入らなかったのも事実だろう。だが、細木はこの場面でも、変に場を収めたりせず、バラエティのお約束などに従わない破天荒なキャラクターを貫いたとも言える。ハプニングこそがテレビの醍醐味だとすれば、これほど視聴者の期待に応えた場面もなかった。
■「電波少年」「ガチンコ」との類似点
ただ、細木数子の番組の人気は、細木個人のタレント力だけによるものではなかっただろう。細木の番組には時代をとらえたリアリティショーとしての面白さがあった。
2000年代のテレビバラエティにおいて主流となったのがリアリティショーである。リアリティショーとは、さまざまな設定を通じて人間のリアルな素の姿をドキュメンタリータッチのエンタメとして見せるものだ。
日本では、1980年代から1990年代にかけて『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』、『進め!電波少年』(ともに日本テレビ系)といった番組から人気に火がつき、さらに2000年代には『ガチンコ!』(TBSテレビ系)なども人気になった。細木の番組も、その流れのなかにある。
ただ、「ファイトクラブ」のコーナーなどが人気だった『ガチンコ!』が若者向けだったとすれば、細木の番組は親世代の視聴者を主にターゲットにしていた。
細木数子の番組は、人生相談のリアリティショーだった。
■「モンキッキー」で最高視聴率
人生相談は、かつては主婦層がよく見ているワイドショーの定番だった。視聴者と電話でつなぎ、お悩みを聞いて番組出演者がアドバイスを送る。みのもんたのお昼のワイドショーなどを思い出すひともいるだろう。
細木数子の番組も、有名人ゲストなどを相手にした人生相談をショーとして見せるもの。そこに細木ならではのストレートすぎるほどの語り口や細木独自の占いが加味され、真剣とはいえ、ほかにないエンタメになっていた。
いまも時々話題になる、お笑い芸人の改名企画などは典型的だろう。
2004年に『史上最大の占いバトル ウンナンVS細木数子!』(TBSテレビ系)に出演したお笑い芸人のおさるは、このままだと「地獄に堕ちるわよ」と言われ、「モンキッキー」への改名を助言される。おさるもこの提案を受け入れ、正式に芸名を「モンキッキー」に変えた。
この改名がインパクト十分だったことは明らかだろう。その証拠に、この番組は34.1%(関東地区世帯視聴率。
■番組が映した2000年代の日本
当時人気になったもうひとつのリアリティショーとして、『¥マネーの虎』(日本テレビ系、2001年放送開始)がある。
「マネーの虎」と呼ばれる一代で成功した経営者たちを前に、一獲千金を狙う若者たちが、希望金額を掲げ自ら考えた事業計画をプレゼンする。その計画に見込みがあると思えば、マネーの虎は自腹で出資する。
だが現実を知るマネーの虎の目は当然ながら厳しく、簡単には出資しない。時には若者とマネーの虎の意見がぶつかり、一触即発となる。しかし、そんな張り詰めたリアルな空気感が魅力となり、マネーの虎の強烈なキャラクターも相まって人気になった。
2000年代になると、バブル崩壊以降の経済の停滞によって高度経済成長期以来の「一億総中流」の神話も崩れ始めていた。
■憧れの対象であり、救いを求めていた
そして弱肉強食の競争社会の様相を呈するなか、切羽詰まった状況に置かれた人びとがテレビにも続々登場するようになる。『¥マネーの虎』はその象徴であり、細木数子の番組もまたそうだった。
『地獄に堕ちるわよ』のなかで、細木数子が自分をモデルにした小説を書くことになっている作家(伊藤沙莉)に、欲望とお金の関係を説く場面がある。
お金は欲望の対価として支払われるもの。欲望とは無限のものだ。だから欲望の奴隷にならずに主人になるためには、どれだけお金があっても困ることはない。そんな意味合いのことを細木は確信した態度で口にする。
劇中、細木数子がどん底に落ちながらも、大きな借金を抱えつつ自らのアイデアと努力で経済的成功を収める姿は、まさに『¥マネーの虎』に出てくる若者たちと同じだ。そんな浮き沈みを繰り返した細木の半生は、2000年代に日本人が味わった苦境を生き抜く術を先取りして示したものと言えなくもない。その限りでは、細木の番組の人気は必然だった。
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太田 省一(おおた・しょういち)
社会学者
1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。著書に『社会は笑う』『ニッポン男性アイドル史』(以上、青弓社ライブラリー)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)などがある。
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(社会学者 太田 省一)

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