高市政権が高支持率をキープしている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「国民からの人気は高い一方で、自民党内での求心力は低下しつつある。
その原因は、『チーム高市』の顔ぶれが決まり切っていることだ」という――。
■外交も内政も「見せ方」がうまい
「地域全体で共に強く豊かになるという共通目標に向け、具体的な協力の推進について一致することができた」
5月4日、オーストラリアの首都、キャンベラで記者団に答えた高市早苗首相は、このように成果を口にした。
ベトナム、オーストリア訪問で、医療物資やLNG(液化天然ガス)、それに重要鉱物の安定供給など具体的な協力関係が進んだことは前進と言っていい。
政権発足後、半年が過ぎても、高市内閣への支持率は、おおむね60%前後と高水準で、今回の2カ国歴訪に加えて、茂木敏充外相をアフリカ、小泉進次郎防衛相を東南アジアに派遣し、それぞれ重要鉱物の安定供給や防衛協力で進展を見せた点も、内閣の高支持率維持にはひと役買うと見ている。
筆者も以下の点は評価している。
① 外交も内政も「頑張っている」という見せ方がうまい
② 良し悪しはさておき、国家情報会議設置法を今国会で成立させ、何としてでも防衛三文書を年内に改定するといった肝いりの政策への執念が感じられる
③ イラン情勢に伴う石油危機に関しても、不安を引き起こさないよう中東以外の国から調達するという姿勢が見える
④ 「党に根回しをしない」等の批判はあるものの、自民党の慣習や旧来の政策立案システムにおもねることなく、「やりたいことをやる」という威勢の良さは健在

■「会食嫌い」を覆すサプライズ登場
今年1月、何の相談もなく衆議院解散に踏み切られ、そして選挙で圧勝後は、「一丁上がり」の名誉職である衆議院議長にまつり上げられそうになった自民党の麻生太郎副総裁ですら、周辺に「まあ、よくやっているじゃないか」(麻生派衆議院議員)と漏らしているほどだ。
4月10日、高市氏が麻生氏や鈴木俊一幹事長らを首相官邸に招き昼食を共にした際には、麻生氏が、振る舞われた「焼き魚定食」に手をつけなかったとの報道も流れたが、筆者の取材では、残さず食べており、両者の亀裂は、少なくとも「子どもの喧嘩」のような事態には至っていない。
それどころか、後で述べるが、高市氏を支え、その政策を推進するために、中心となって議員グループを立ち上げるというから、老獪な政治家の胸の内は、さしずめ「和戦両様」といったところだろうか。
そうした中、高市氏自身も4月21日、今年度予算の成立に尽力した衆議院予算委員会の理事らを招き、慰労会を催したほか、その2日後には、自民党新人議員の集まり「鹿鳴会」にもサプライズ登場して、「会食嫌い」や「孤高」のイメージの払拭にも努めている。
とはいえ、その足元は、各メディアが報じている以上に危うい。
■目玉政策だった消費税減税はどうなる?
その背景には、緊迫した状況が続くイラン情勢がどう転ぶかわからず、エネルギー源の確保、そして円安や債券安に歯止めをかける手立てを迅速に打つという難題がある。
国会では、日本維新の会との連立合意に基づく衆院議員定数削減法案や「副首都構想」関連法案、国旗損壊罪法案といった与野党対決型法案、それに自民党内で対立が表面化した再審制度見直し法案の取り扱いも待ち構えている。

なかでも衆議院選挙で公約の中心に据えた「飲食料品の消費税率0%」は、財務相経験者の麻生氏、慎重姿勢の小林鷹之政調会長、そして小林氏を昨年の総裁選挙で支援した石井準一参議院幹事長らによって骨抜きにされ、「1%にとどめる」あるいは「方針転換する」可能性もあると囁かれるありさまだ。
ただ、筆者がこれら以上に「危うい」と感じるのは、永田町における「高市ワールド」が想像以上に狭いことだ。
■「側近」の顔ぶれがずっと同じ
2021年10月、岸田文雄新総裁から政調会長に起用された高市氏は、会長代行に古屋圭司氏、政調副会長に木原稔氏と小野田紀美氏を置いて党務に当たった。
「首相の周辺にいる人たちは昔も今も変わらないよね」(旧二階派衆議院議員)
まさに、当時、高市政調会長の下、政務調査会を取り仕切った面々が、高市総理・総裁誕生後、古屋氏は党4役の一角、選挙対策委員長(現在は憲法調査会会長)に就任し、木原氏は官房長官、小野田氏も経済安保相に抜擢されている。
「第1次安倍内閣がお仲間だけで構成された内閣と批判されたけど、高市内閣はそれ以上かもね」(同)
官邸の中にあっては、高市氏の信頼が厚い木原氏の脇を、飯田祐二首相秘書官と茂木正官房長官秘書官が固め、その3人で高市氏を支える構図が続いている。これに、尾崎正直氏と佐藤啓氏の官房副長官(政務)と露木康浩官房副長官(事務)を加えれば、「高市ワールド」「チーム高市」の出来上がりだ。
彼らの能力が高いか低いかはともかく、限られた面々だけで重要政策を推し進めるというのはあまりに心もとなく、また自民党内や霞が関(特に財務省)からの反発も受けやすいと言わざるを得ない。
■党内人気を高める「奥の手」とは
国民からは、まだまだ高い支持を得ながら、自民党内での求心力はジリジリと低下中……というのが高市内閣の現在地だ。
高市氏が求心力を回復させるには、通常、9月と見られる自民党役員人事と内閣改造を7月に前倒しするほかない。
自民党を見渡せば、先の衆議院選挙で国政に復帰した武田良太元総務相が、旧二階派のメンバーを集めて「総合安全保障研究会」を発足させ、萩生田光一幹事長代行も、旧安倍派の面々を集めて、人事を見据えた態勢を整えつつある。
この他、前述した参議院自民党の石井氏も40人超の「自由民主党参議院クラブ」を立ち上げ、反高市色を鮮明にしつつある。
また、過去2度、総裁選挙に出馬した小林氏や小泉氏を支持する若手議員らも会合を開くなど、夏の人事ならびに「ポスト高市」を見据えた動きも出始めている。

「選挙であれだけ勝ったんだから倒閣の動きなんてないよ。でもね、消費税や定数削減で反高市色が強まれば、来年春の統一地方選挙後に、秋の総裁選挙に向けた動きが出てくるんじゃないか」(旧安倍派衆議院議員)
■国民民主がちらつかせる「茂木カード」
次の人事の焦点は、麻生氏の義弟で財務族の鈴木幹事長を交代させるかどうか、である。
「少し前、国民民主党の榛葉さん(榛葉賀津也幹事長)が会見で茂木さん(茂木外相)を高く評価したよね。あれは、榛葉さんに近い麻生さんの差し金かなあ。『幹事長を代えるなよ。もし交代させたら、いつでも茂木カードを切るぞ』っていう」(同)
人事で言えば、数少ない側近である尾崎、佐藤両官房副長官を続投させるのか、それとも交代させるのかにも注目したい。
外交面で言えば、前述したように、高市氏のベトナムとオーストラリア歴訪は、エネルギーの安定供給やサプライチェーンの強靱化に向けてプラスとなるものだった。
ただ、その一方で、「日本は助けてくれない」を繰り返すアメリカのトランプ大統領、そして、2025年11月7日の国会答弁以降、関係が悪化したままの中国・習近平国家主席とのはざまで、外交的にも綱渡りの状況が続いている。
■窮地の立つトランプ、余裕の習近平
5月14日と15日に予定される米中首脳会談は、会談に先がけ、中国がアメリカにパンダ2頭を貸与すると発表したことで、米中の2大国が手を握る会談になる可能性が高くなってきた。
中国からすれば、エネルギー源全体に占める石油への依存度は18.6%と少なく、イランの原油が中国のエネルギー源に占める比率はわずか1.6%に過ぎない。
その意味で、中国は、アジア各国の中では、イラン情勢を、比較的余裕を持って見られる立場にあるが、習近平が王毅外相に指示し各国外相と会談させ、早期停戦へと動いたのは、イランが中国と友好国であることに加え、トランプとの直接会談を有利に運ぶ材料にする意図があるからだ。
トランプは今、想像を超えるイランの抵抗で、短期決戦の青写真が崩壊し、停戦への道筋を見いだせていない。

そこで習近平は助け舟を出し、これまで幾度となく繰り返してきたアメリカとの関税戦争に区切りをつけたうえで、「中国の夢」と位置づける台湾統一について、トランプに、「これ以上、台湾に武器を売るな」「台湾は中国の一部。自国の問題に口を出さないでくれ」と譲歩を迫ろうとしているのだ。
■「世界の新盟主」へ虎視眈々
同時に、ウクライナに対するロシア、イランに対するアメリカという軍事力に勝る大国の苦戦を「他山の石」として、台湾統一に動く前に、短期決戦で勝利するための準備にも全力を挙げているのである。
2月28日、アメリカがイランへの攻撃を開始して2カ月余り、中国は一貫して、早期停戦を求めながら、トランプを名指して批判することは避けてきた。そこには、国際社会に向け「世界の新盟主は中国」と印象づけるとともに、トランプから、中国の台湾統一に有利となるような言質を取りたいとする思惑も透けて見える。
その注目の首脳会談の前に、パンダの貸与が決まったことは、中国側が「この会談は中国にとってうまくいく」と値踏みしているからにほかならない。
■「ドナルド―サナエ」は盤石ではない
哀しいのは、米中首脳会談の成り行きを、高市氏はただ見ているしかできないという点だ。
政府は、トランプに訪中に合わせて日本への立ち寄りを求めてきたが、これが実現でもしない限り、ただ注視するしかない。
日中関係が冷え切っている現状では、フランスのマクロン大統領やイギリスのスターマー首相のように「北京詣で」もできない。
トランプとは「ドナルド―サナエ」関係を構築できているものの、3月の日米首脳会談以降も、トランプが日本を名指しで批判していることを思えば、2人の蜜月関係には、トランプの気分ひとつで壊れかねない脆さがある。
■まずは永田町での孤独から抜け出せるか
高市首相が就任以来ずっと言い続けてきた「日本列島を強く、豊かに」の実現は、アメリカや中国抜きに語れない。しかし、それが十分にできない以上、まず、自民党や霞が関など足元を固めるしかない。

高市氏をめぐっては、高市氏を支える議員グループ「国力研究会」を立ち上げる準備が進んでいる。麻生氏を中心に、小林氏や小泉氏も発起人に名を連ねるところが興味深い。5月21日に予定される設立総会にどのような面々が出席するのか、高市氏の政治基盤の現状と今後を占う試金石となるのは間違いない。
高市氏は今、これまでスローガンに掲げてきた「世界の真ん中で咲き誇る外交」が米中のはざまで厳しい中、せめて「自民党の真ん中で咲き誇れるか」が問われている。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)

政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授

愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。文化放送入社後、政治・外信記者。ベルリン特派員や米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。現在、TBSラジオ「BRAND-NEW MORNING」コメンテーターも務める。専門分野は現代政治と国際関係論。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『知って得する、すごい法則77』ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)
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