予約したホテルが実在しない。実在してもトコジラミだらけの部屋に通される。
世界最大級の宿泊予約サイト「ブッキング・ドットコム」をめぐり、こうした被害が世界各地で相次いでいる。ガーディアンやニューヨーク・タイムズなど複数の海外メディアが報じた、予約サイトの構造的な欠陥とは――。
■高級ホテルを目指した先で見た光景
旅先での楽しい一日が終われば、ホテルや旅館での快適なステイで疲れを癒やしたいところ。しかし、予約方法によっては思わぬ落とし穴が待っているようだ。
一部のネット予約サイトで、宿泊料金を払ったのに施設自体が存在しなかったなどの被害が生じている。こうした被害は海外を中心に複数発生しており、日本国内の施設も例外ではない。
少し前の報道となるが、まずはフジテレビ系列ニュースサイトのFNNプライムオンラインが報じた日本の被害例を振り返りたい。
千葉県一宮町。2023年夏、友人との旅行に胸を躍らせた19歳の男性が、ネット予約大手のブッキング・ドットコムで予約した「高級ホテル」の住所にたどり着いたところ、目の前にあったのは雑草に埋もれた空き家だった。
詐欺だと、男性はすぐに確信したという。FNNプライムオンラインの取材に、「田んぼと小さい家と草……。本当にショックで悲しかった」と振り返る。

返金を申請した末に、宿泊費の約3万3000円は戻ってきた。だが、レンタカー代を含む旅費の総額は約10万円にのぼった。台無しになった旅行ムードとは裏腹に、返金された額はその3分の1に過ぎない。
■届かなかった被害者の声
注意深く見返せば、偽ホテルのページには不自然な日本語の表記が見られた。連絡先も一切記載がない。掲載写真にいたっては、実在する別の貸別荘から盗用されたものだったが、予約時点では知る由もなかった。
口コミの一部にはすでに、「このホテルは詐欺です」との投稿が残っていた。それでも物件は掲載され続けたという。近隣住民は、同じ住所に「10人くらい来ている」と証言している。
本件は香港のオンラインニュースサイト「ディムサム・デイリー」など一部の海外メディアでも、「豪華ホテルが廃屋であることが判明」「人気の旅行サイトに『偽ホテル』が出現するという不穏な傾向」「憂慮すべき詐欺の事例」として報じられた。
なぜ架空のホテルが、そのまま予約できてしまうのか。千葉の空き家の一件から見えてくるのは、ネット予約サイトが抱える影の一面だ。

検証なく物件を掲載し、危険だと告げるレビューを目立たない位置に隠し、場合によっては顧客サポートも満足に対応しない。
こうした欠陥を抱えたまま営業し、今日も世界中で同種の被害を生み続けている。
ブッキング・ドットコムはオランダに本社を置くOTA(オンライン旅行代理店/ネット予約サイト)で、海外では広く利用されている。日本の物件の掲載も豊富で、日本のユーザーが国内旅行で利用することももちろん可能だ。
OTAには、ホテル公式サイトでの予約よりも割引料金で宿泊できることが多いほか、旅行先地域のホテルを一括して検索・比較できる強みがある。国内のサービスとしては「Yahoo!トラベル」や「楽天トラベル」が挙げられる。
■わずか15分で偽物件を掲載できた
なぜ架空の物件がプラットフォームに掲載され、旅行者はそれと知らず予約してしまうのか。英消費者情報誌『ウィッチ?』が、独自の実験でその答えを突き止めた。
同誌は架空の貸し別荘をブッキング・ドットコムに登録してみた。身分証の提示は一切求められなかったという。わずか15分足らずの作業で、掲載は完了した。
同じホテル・民泊予約サイトでも、大手エアビーアンドビー(Airbnb)やエクスペディア(Expedia)傘下のバーボ(Vrbo)で同誌が登録を試みた際には、運転免許証やパスポートの提示が求められた。
ブッキング・ドットコムの場合は、事業者の身元をチェックせずに掲載しているということだ。
しかも同社では、物件の説明文がアルゴリズムで自動生成され、25言語に翻訳される。正規の物件も詐欺的な物件も同じアルゴリズムで説明文が作成されるため、外見だけでは本物と偽物を見分けるのは難しい。
■低評価レビューに気づきにくい設計
掲載自体を防げなかったとしても、実際の予約者の声がレビューに反映されていれば、危険な物件を見抜きやすいはずだ。だが、なぜ悪質なホテルに次々と予約が入ってしまうのか。
同誌が検証したのは、モンテネグロの首都ポドゴリツァにある貸し別荘だ。総合スコアは10点中の6.4点で、これはずいぶんと低い数字だが、ブッキング・ドットコムは「快適」に分類している。
この貸別荘をデフォルトの「最も関連性が高い」順で見れば、まず「素晴らしい(9点)」「良い(7点)」という好意的な2件のレビューが目に入る。
ところが「新しい順」に切り替えた途端、直近12件中10件が「詐欺」「悪夢」という酷評だった。残りの2件は不自然な満点(10点)を付けており、同誌は(施設関係者が書き込んだなど)不審なレビューの可能性があると指摘している。
指摘に対しブッキング・ドットコムは当初、「並び替えればよい」と取り合わなかった。利用者に責任を押しつける対応だ。
同誌の働きかけを受け、ようやく表示の改善を約束した。
ところが、約束は果たされていない。昨年12月時点でもレビューはデフォルトで「最も関連性が高い」順のままだと、欧州のニュース専門放送局のユーロニュースが確認している。偽物件の掲載を防ぐ審査も、利用者に警告を届けるレビューも、どちらも機能していない。
■通されたのはトコジラミだらけの部屋
物件が実在していたとしても、そこには悪夢が待っていることがある。
昨年8月、出張でロンドンを訪れたフリーランスのMFさんは、深夜、ブッキング・ドットコムで予約したホステルの部屋に足を踏み入れた。そこで目に飛び込んできたのは、マットレスの上を這い回るトコジラミ。枕にも、壁にもいたという。
スタッフに被害を訴えると、別棟の部屋へ案内された。だが、移された先にもトコジラミがそこここに這っている。MFさんはフロントで夜を明かし、夜明けの列車を待って帰宅を余儀なくされた。
この一件を報じた英日刊紙のガーディアンによれば、交通費や衣類の買い替えなど損失は計265ポンド(約5万6800円。
5月26日現在のレート、1ポンド214.39円で換算、以下同)。出張が潰れ、フリーランスとしての収入も失われた。
立地するケンジントン・アンド・チェルシー区はホステルに対し、害虫の駆除を命じた。ホステル側はMFさんに250ポンド(約5万3600円)の補償を申し出たが、未払いのままだ。
肝心のブッキング・ドットコムは、MFさんの苦情に返答すらしなかった。その間も、トコジラミが確認された同じホステルの部屋に、他の客が泊まり続けていたことになる。
ガーディアンが同社に問い合わせると、事態は一変した。ブッキング・ドットコムは即座にMFさんへ返金し、ホステルの掲載を停止した。客の訴えには取り合わなかったが、メディアが動いたことで対応を変えた形だ。
このホステルではトコジラミの被害報告が、2022年からすでにレビューサイトに上がっていたという。イギリス国内の系列施設全6カ所のうち3カ所でも、同様の苦情が確認されている。
■「ホームレスの宿泊所」をホテルとして登録
アメリカでは、妊婦が被害に遭った。

2022年9月のある土曜の夜。妊娠5カ月のアンナさんは友人の結婚式を終え、翌朝の早朝便に備えてニューヨーク・ロングアイランドシティのホテルへ向かった。
ところが、予約したはずの「ホテル」の実態は、ホームレスシェルター(支援団体などが運営するホームレス向け宿泊所)だったという。ニューヨーク・タイムズが報じている。
アンナさんはウーバーで空港へと一時避難し、ブッキング・ドットコムに電話した。対応した担当者は、「ホテルにメールを送り30分待つ」と告げた。妊娠中の身で深夜に行き場を失ったアンナさんだが、それ以上の対応を受けることはなかった。
代わりの宿すら手配されなかったという。折しも全米オープンテニスの開催期間中で、周辺はどこも満室だった。空港のロビーで一夜を明かせればまだ良かったが、向かったニューヨークのラガーディア空港は夜間に閉鎖される。作業員から借りた車椅子に身を預け、アンナさんは午前4時に空港の門が開くのをただ待ったという。
被害者はアンナさんだけではなかった。同ホテルのブッキング・ドットコムページにはすでに英語・スペイン語・フランス語で計6件の苦情レビューが残されており、アンナさんを含めて少なくとも7人が同じ目に遭ったとみられる。
■お得意さまでも優遇なし
ブッキング・ドットコムはニューヨーク・タイムズ紙に対し、「代替宿を案内したがゲストが断った」と説明したが、アンナさんの説明と食い違う同紙の追及を受け、同社はようやく謝罪に転じた。
このホテルのオーナーのカウシク・パテル氏とチャンドレシュ・パテル氏には、米労働省から残業代未払いおよび給与記録の不保持を理由に提訴され、同意審判で83人の従業員に72万ドル(約1億1400万円)超の未払い賃金・損害賠償を支払うよう命じられた過去がある。
ブッキング・ドットコムには、常連客を厚遇するロイヤルティプログラム「ジーニアス」がある。
最上位のジーニアス・レベル3にまで到達したリピーターなら、いざという時も手厚い対応を期待できるだろうか。現実はまるで違うようだ。
テレグラフによると、イングランド北部の都市リーズで4泊543ポンド(約11万6000円)のアパートを予約した利用者が、到着後にキーコードを受け取れず、部屋に入室できずに立ち往生した。
コードが届いたのは、もうすぐ日付も変わろうという午後11時になってのこと。これ以前にやむなく別の宿を手配したことから、約109ポンド(約2万3400円)の持ち出しになった。
翌朝、利用者がようやく部屋に入ると、シーツやタオルは汚れたまま。ゴミ箱は前の利用者のゴミが残ったままで、部屋には食べ残しが放置されていた。
■メディアが報じるまで動かない
その利用者は惨状の写真を同紙のコラムニストに送り、部屋を去ったという。「ジーニアス」の最上位会員だったが、当初は補償を得られなかった。
コラムニストが介入すると、ブッキング・ドットコムは対応を一変させた。宿泊費543ポンドを全額返金し、預かり金100ポンド(約2万1400円)の返還もオーナーに求めると回答した。
ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、テレグラフの3紙報道から、同じパターンが見えてくる。個人が訴えても放置されるが、記者が介入して初めて、返金や掲載の一時停止に動く構図だ。
ブッキング・ドットコム自体は物件の出品者ではなく、仲介者を自任する。責任の所在が曖昧になりやすく、外部の圧力なしには動かないことがある。
■「私たちは物件を所有しているわけではない」
「自分たちは仲介者にすぎない」との論理が、なぜまかり通るのか。同社のビジネスモデルに目を向ければ、その理由が見えてくる。
ブッキング・ドットコムのオランダ本社でシニア・リレーションズ・スペシャリストを務めるマリオ・エラン・ムーロ氏は、ニューヨーク・タイムズの取材に対し、「私たちは物件を所有しているわけではない。物件を案内する方法はいくつか考えられるが、最終的にはすべての情報は物件側から提供される必要がある」と語った。掲載された情報に関する責任はすべて物件側にある、とも取れるコメントだ。
ニューヨーク・タイムズは、同社などOTAのビジネスモデルには欠陥があると指摘する。世界的な大手仲介業者でありながら、自らが売るサービスの中身をろくに把握していない、との指摘だ。また、問題が起きても、介入する仕組みすら整っていない。
同社が主張する免責の姿勢は、契約書の中にも仕込まれている。テレグラフは、契約上、利用者が契約を結ぶ相手はブッキング・ドットコム自体ではなく、物件のオーナーだと注意を促す。
仲介手数料はブッキング・ドットコムに入るが、責任は物件オーナーが負う。利益は受け取るが、利用者への責任は負わない構図だ。
■偽物件の次は個人情報流出
ブッキング・ドットコムをめぐっては、利用者の個人情報の流出も報じられている。
ユーロニュースの記者が、ジャカルタの空港ホテルを予約したときのこと。出発の1週間前になって、メッセージングアプリのワッツアップ(WhatsApp)に、1通のメッセージが届いた。
送信者は宿泊先ホテルを名乗っており、本文には記者のフルネーム、予約番号、滞在日程がすべて正確に記されている。そのうえでメッセージは、24時間以内に支払い情報を入力するよう求める内容だった。
記者はブッキング・ドットコムのガイドラインに従い、不審なメッセージが届いたと報告。翌日になってから電話が入り、そのメッセージはホテルから送られたものではないので削除するよう指示された。
では、これほど詳しい予約情報は、どこから流出したのか。
実はブッキング・ドットコムは、ハッキングの標的になっている。英公共放送のBBCによると、顧客の氏名、メールアドレス、電話番号、予約詳細がハッカーに盗まれた。どれだけの利用者が影響を受けたのか、同社は明らかにしていない。
サイバーセキュリティ企業ノートンは、この手口を「予約ハイジャック(予約の乗っ取り)」と名付けている。犯罪者は、本物の予約データを掌握。利用者の氏名や宿泊日を記したメールが届けば、正規のホテルからの連絡だと信じてしまいやすい。
同社のセキュリティ・エバンジェリスト、ルイス・コロンズ氏は、「まるで通常のカスタマーサービスのように詐欺を演じることができる」と警告する。
■パキスタンから届いたメールの正体
詐欺被害は、世界各地で報告されている。
カナダ国営公共放送のカナダ放送協会によると、トルコ・イスタンブール在住のメルト・アクタスさんはギリシャのホテルを予約して3カ月も経ってから、パキスタン発の不審なワッツアップのメッセージを受信した。
ブッキング・ドットコムは当初、ホテル側の問題だと片づけた。数日後にようやく個人情報の流出を認めている。「透明性がまったくない」とアクタスさんは憤る。
一方、カナダ・マニトバ州在住のエイミー・ウォームズさんが受け取ったのは、カタルーニャ語で書かれたデータ侵害の通知だった。自分の情報がなぜスペインと結びつくのか、心当たりすらない。
BBCは2023年3月以降、この種の詐欺を繰り返し報じてきた。今年4月15日の報道時点でも、なおも数十人という被害者たちが同局に連絡を寄せているという。
キーパー・セキュリティのダレン・グッチョーネCEOは、データ流出からわずか数日でフィッシングキャンペーン(詐欺メールの連続送信)が始まった点に注目。「便乗ではなく、計画的な意図がある」と分析する。盗んだデータをすぐさま悪用できる態勢が、あらかじめ整えられていたということだ。
■英誌が指摘する対応の遅さ
もっとも、ブッキング・ドットコムは前年に比べ安全性を高めた。掲載審査の甘さを報じた英消費者情報誌『ウィッチ?』も、その点は認めている。
だが同誌は、対応が遅すぎた、とも辛辣な見解を述べる。悪意あるリンクを遮断し、詐欺が疑われるリスティングを削除し、掲載事業者に対して二段階認証を義務化する。このうち掲載事業者への二段階認証義務化は、ごく最近まで手つかずだった。
返金対応についても、現在でも著しく遅いという。改善を進めてはいるが、発生し続ける被害を常に後追いする構図が続く。
同誌の上級研究者トレヴァー・ベイカー氏は、ブッキング・ドットコムが講じるべき具体策を列挙する。掲載前に事業者の本人確認を実施すること。詐欺被害のレビューが集中する物件を積極的に監視すること。全ユーザーに対しても二段階認証を義務化すること。やるべきことは明白だが、実際には対応が追いついていない。
「予約のたびにブッキング・ドットコムは約15%を手数料として取っている。その総額は数十億ドルに上る。それだけの資金があれば、はるかに安全なサイトにできるはずだ」とベイカー氏は言い切る。
■「ただの仲介者」ではいられない
ブッキング・ドットコムは昨年、12億泊を超える予約を仲介した。
2010年以降の累計利用者は、約70億人にのぼる。世界の総人口に迫る規模だ。カナダ放送協会によると、掲載物件は200以上の国と地域で3100万件を超える。
途方もない規模で事業を展開する一方で、そこから生まれる揺るぎない利益に執着するかのように、報道に押されなければ動かない体質が目立つ。
これだけの規模で利益を上げながら、ブッキング・ドットコムは「物件を所有しない仲介者」であることを盾に、最も重視すべき宿泊者の安全確保という責任を十分に果たしてこなかった。
偽物件の掲載、トコジラミの害虫被害、個人情報の流出によるとみられる詐欺メールなど、いずれにおいても、代償を払わされるのは常に利用者側だ。
詐欺的な物件を掴まされる心配がなくなれば、同サイトは間違いなく世界の旅行者の心強い味方となるだろう。それだけに、大手予約サイトの名に恥じない責任ある対応が求められる。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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