※本稿は、河村泰貴『どうしたらバイトから社長になれたんですか?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです
■自分が煮込んだ牛丼が一番うまい! という誇り
今も昔も、吉野家の牛丼は牛肉から店内調理をしてお客様にご提供している。工場で加工調理されたものを温めて出しているわけではない。だからこそ、ある一定の基準を守りながらも、調理者の技量や気配りが味のニュアンスを生み出している。
つまり、技術介入の余地が現場に残されている、店舗によって美味しさが違うということだ。
それがあるから、吉野家の牛丼の価値は守られてきたのだと、僕は考えている。「うまいものを作りたい」、そのために技術を磨くというモチベーションにつながっている。それがお客様にも伝わっているんだと僕は信じている。
だから、吉野家の社員たちは、皆、口を揃えていう。「自分が煮込んだ牛丼が一番うまい」と。
かくいう僕も同じ思いだ。現場のアルバイト時代も、今も。
現場からトップまでが、「自分の牛丼が一番」と思っているチェーンなんて、世界中どこを探しても類を見ないのではないだろうか。
これが、もし、ただ工場で加工調理された商品を加熱してご提供するだけだったら、誰もそんな誇りを持てなかったはずだ。
■とんかつ? ステーキ? そして
吉野家の歴史は、牛肉に左右され続けた歴史といっても過言ではない。1980年の会社更生法、そこから奇跡の復活、1990年代の急成長、そしてBSE……。
牛丼専門店の吉野家は、いい時も、悪い時も、牛肉相場に左右され続けてきた。
だから、「第2の柱」を創ることは、リスクマネジメントの観点からも必要なことだった。
そして、この「第2の柱」も、自分たちが誇りに思えるモノづくりでなければならない。
そこで、店内調理でこそ価値が高まる商品設計、「自分が作った○○が一番」と思えるような商品の開発を目指した。加えて、テイクアウト適性があるかどうかも重要だ。
「とんかつ」や「ステーキ」も試したが、専門店に勝てるバリューを創り上げることができなかったり、テイクアウトが低調だったりして、販売数も顧客評価も期待した水準には届かなかった。
最後に残った有力候補が「から揚げ」だ。
■「自分のから揚げが一番」とするための研究
から揚げは、食事にもおやつにも、晩酌のおともにもなる。テイクアウトとの相性もいい。中食でも人気のお惣菜だ。
しかも、コンビニやスーパーで揚げたてを提供することはできない。居酒屋や定食チェーンなどでも必ずから揚げはメニューはあるが、その多くは冷凍のから揚げを揚げているだけで、お店で生肉から粉打ちをしてあげているチェーン店は、専門店を除いてほぼないだろう。だから、店内調理をすることで、明確に品質の差別化ができる。
僕たちは徹底的にから揚げを研究した。
鶏肉の品種、調味液、粉の吸湿性、フライヤーの温度や揚げ時間などのオペレーション。どこまでをセントラルキッチン化して、どこを店舗作業として残すのか。その結果、から揚げの調理工程の中で、最終品質を大きく左右する要素は調味液を漬け込んだ鶏肉に「粉打ち」する工程だとわかった。
この作業を店舗ですることで、従業員の技術介入の余地が残る。つまり「自分のから揚げが一番」と思える要素が残るのだ。
この手仕事が、吉野家にしかない「現場」の味を生み出す。
牛丼の魂を受け継ぐ、から揚げが誕生した。
■オーダーから4分以内に提供せよ
しかし、発売当初のから揚げには大きな問題があった。
ご注文いただいてから揚げるという店内調理にこだわったため、提供時間が10分近くかかってしまっていたのだ。商品のクオリティには自信があったり、召し上がっていただいたお客様の評価も高かったのだが、それだけ提供時間がかかる商品を持ってしまうと、他の商品の提供時間にも影響を与えてしまう。
現場にとっては、お客様にお勧めしづらい、どうにも扱いづらいアイテムとなってしまっていた。特にランチタイムでは、僕自身も一度も店舗でお勧めされた記憶がないのだ。
訴求しなければ、どんなにクオリティに自信があっても、「吉野家にから揚げがある」ということを知っていただけない。時間を「満足」水準である4分以内にするよう、調味液、打ち粉、調理機器……すべてを一から見直した。
こういうときの吉野家は強い。
「4分以内に提供する」という明確な目標に、全員が一点集中した。
とても高いハードルだったと思うが、ランチタイムにから揚げを4分以内に提供できる体制を整えることができた。
■「から揚げ日本一のチェーン」規模までに成長
出来立て、アツアツのから揚げを提供できるようになると、店舗の空気が変わった。
「ご一緒にから揚げはいかがですか?」
現場が自信をもって勧められるようになった。
吉野家「第2の柱」の誕生だった。
数字は正直だ。自信をもってお勧めし始めると、月を追うごとに、構成比が伸びていった。
そのため、当初はC&C(Cooking & Comfort)型の店舗だけの限定メニューの予定だったが、あまりの好調さに、フライヤー設置可能な店舗には導入していくことになった。
チェーンのおよそ7割でから揚げ販売が始まると、テレビCMも作成。
ついに、から揚げの販売数は15%にまで達した。
2025年には、から揚げ販売店舗数は1058店(およそ82%)、年間の販売数は5263万個に達した。
正確なデータが取れないので、明確なことは言えないが、外食チェーンとしてはおそらく日本一に近い規模であることは間違いないと思う。
最近では、ご家庭で揚げ物をしなくなったと言われるようになって久しい。
今後、ますますから揚げは家で揚げるのではなく、「買って帰って食べるもの」として定着していくだろう。専門店はふえるだろうが、中食としてのから揚げが定着すれば、僕たちにとっても追い風となるはずだ。よいもの、美味しいものをご提供し、最後に、吉野家が残存者利益を得ることができるはずだ。
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河村 泰貴(からむら・やすたか)
吉野家名誉会長
1968年11月18日生まれ、大阪府出身。1988年に吉野家にアルバイトとして採用、1993年に吉野家ディー・アンド・シー(現・吉野家ホールディングス)の正社員に。店長としてさまざまな店舗を任されたのち、2001年に企画本部経営企画部に異動。2004年に讃岐うどんチェーンのはなまるに出向して再建に尽力。2007年に同社代表取締役社長を経て2012年に吉野家ホールディングスの社長に。2014年に吉野家の社長も兼務となり、2025年5月、吉野家ホールディングス取締役会長に就任。
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(吉野家名誉会長 河村 泰貴)

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