※本稿は、星友啓『スタンフォード大学オンライン高校の校長が教える 世界の研究に基づいた 勉強法大全』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■脳はマルチタスクができない
音楽を聴きながら、LINEの通知を気にしつつ、数学の問題を解く。「自分はマルチタスクができるから大丈夫」と思っていませんか? 残念ながら、それは脳科学的には最大の勘違いです。
実は、人間の脳は高度な作業を同時に処理することはできません。できているように見えるのは、ただ高速でタスク(作業)の切り替えをしている(タスク・スイッチング)だけなのです。
そして、この切り替えには大きなコストがかかります。タスクを切り替えるたびに脳は「切り替えの時間」を必要とし、反応速度が遅くなり、ミスが増えることがわかっています。これを「スイッチング・コスト」と呼びます。
つまり、一つのことだけに集中する「シングルタスク」に徹底した環境を作ると、あなたの偏差値が激変するかもしれないのです。
■メールやスマホは要注意
ロンドン大学の研究によると、メールや電話で頻繁に注意を削がれる環境(マルチタスク状態)にある人は、IQ(知能指数)が一時的に10ポイントも低下しました。
これは、徹夜明けの状態と同じか、それ以上に脳の機能が落ちていることを意味します。
実践ステップ
① 机の上から、今やる科目以外のものをすべて片付ける。
② スマホは機内モードにするか電源を切り、視界に入らない場所に置く。
③ パソコンを使う場合は、関係ないブラウザのタブをすべて閉じる。
④ 「今から30分は数学だけやる」と声に出して宣言してから始める。
アドバイス
勉強中にふと「あ、あれやらなきゃ」と別の用事を思い出すことがありますよね。その時は「やることリスト」のメモ用紙に書き留めて、すぐに勉強に戻りましょう。脳のワーキングメモリからその用事を追い出すことで、集中力を維持できます。
■スマホという名のスロットマシン
勉強しようと机に向かったのに、ふとした瞬間に通知音が鳴り、気づけば1時間もSNSを眺めていた……。そんな経験は誰にでもあるでしょう。
アプリ開発者たちは脳の「報酬系(ドーパミン)」の仕組みを巧みに利用し、ユーザーが画面に釘付けになるような心理的な仕掛けを設計しています。
無限に続くスクロールや、不定期に届く「いいね」の通知は、脳を絶えず刺激し、「もう少しだけ」と思わせる欲求を生み出すのです。
この「注意の奪い合い」が起きている現代社会において、個人の意志の力だけで戦おうとするのは、もはや無謀。テクノロジーによる誘惑には、テクノロジーを賢く使い、対抗するしかないのです。
そこで重要となるのが、「意図的に遮断すること」と「環境を整えること」です。「デジタル・ウェルビーイング」とは、デジタル機器と健全な距離をとって、自分の意思でテクノロジーを使いこなせている状態を指します。
特に学習においては、スマホの通知を物理的にオフにして、集中できる環境作りが不可欠です。一方で、音楽を聴きながら、あるいはSNSを気にしながらの「マルチタスク(ながら勉強)」は、脳に過度な負荷をかけ、学習効率を低下させることが研究でも明らかになっています。
■誘惑をあらかじめ「無効化」する
最新の研究が勧めるのは、精神力で誘惑に勝とうとするのではなく、アプリブロッカーなどのツールを使って、誘惑をあらかじめシステム的に「無効化」しておくことです。
「物理的に見られない状態」を先に作っておけば、脳のエネルギーは無駄な葛藤に使われることなく、すべて知識の吸収へと注がれるはずです。
実践ステップ
① 物理的に遮断する:スマホは別の部屋に置くか、タイムロッキングコンテナ(設定した時間まで開かない箱)に入れる。
② デジタル自制ツールを活用する:PCでは「Forest」や「Freedom」などのアプリを使い、勉強に関係ないサイトへのアクセスを強制的に遮断する。
アドバイス
「ちょっとだけ見る」は不可能です。
■脳に「集中モード」のスイッチを入れる
多くの学習者が陥る罠があります。それは「やる気が出たら勉強を始めよう」と、感情の波を待ってしまうこと。しかし、脳科学の視点から見れば、これは順序が逆です。
想像してみてください。朝起きて顔を洗う時、あなたは「さあ、今から顔を洗うぞ!」という強い意志やモチベーションが必要ですか? おそらく無意識のうちに洗面所へ向かっているはずです。
これは脳が慣れ親しんだ状況に、自動的に反応している状態です。勉強においても、この「自動化」の仕組みを取り入れることで、精神的なエネルギーを一切消耗せずに集中状態へ入り込むことが可能になります。
これは心理学でいう「古典的条件付け(パブロフの条件付け)」の応用です。「ベルが鳴ると餌がもらえる」と学習した犬が、ベルの音だけで唾液を出すように、私たちも「特定の動作」と「集中状態」をセットで脳に覚え込ませることができます。
習慣化において最も重要なのは、「いつ、どこで、何をするか」という行動の「引き金」となる条件、つまり「トリガー」を固定することです。自分が身につけたい習慣の「意図」を生活の中に「実装」することは、心理学で「実装意図」と呼ばれています。
■習慣化の繰り返しで脳を「低燃費モードに」
脳は変化を嫌い、一定の状態を保とうとする性質があります。
しかし、一度「特定の場所で、特定の香りを嗅ぎ、特定のペンを握る」といった一連の流れをルーティンとして脳に覚え込ませると、脳はそのプロセスを「低燃費モード」で実行できるようになります。同じ条件下で繰り返される行動は、脳の基底核に定着し、努力なしに行える「習慣」へと昇格するのです。
実践ステップ
① 自分だけの「開始の儀式」を決める。
(例:コーヒーを飲む、特定の曲を1曲聴く、目薬をさす、特定のアロマを嗅ぐ)
② 勉強を始める直前に、必ずその儀式を行う。
③ 儀式の後は、すぐに勉強に取り掛かる。(スマホを見たりしない)
④ これを毎日繰り返し、脳に条件付けする。
アドバイス
ルーティンは単純でどこでもできるものがおすすめです。「指パッチンをする」「深呼吸をする」など、身体動作を伴うものは、試験会場でも再現できるので最強のスイッチになります。
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星 友啓(ほし・ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
1977年生まれ。2001年東京大学卒業。2008年Stanford大学修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとり、 2016年よりスタンフォード・オンライン・ハイスクールの校長に就任。
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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)

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