「青春18きっぷ」の販売枚数が、2024年度の約42万枚から2025年度は約24万枚へと大きく落ち込んだことが、今年度の幹事社を務めているJR九州への取材で判明した。経済ジャーナリストの櫛田泉さんは「JRグループがニーズだと認識しているものと、実際の利用者のニーズとの間に大きな乖離があったことの表れだ」という――。

■コロナ禍を下回る24万枚に急減
2026年7月3日から夏季期間の青春18きっぷの販売が始まった。販売価格と期間は3日間用が1万円で9月6日まで、5日間用が1万2050円で9月4日までとなる。なお、利用期間は、7月18日から9月8日までだ。
いまや春・夏・冬のJRグループの定番商品となっている青春18きっぷは、乗車自体を楽しむディープな鉄道ファンのみならず、目的地まで安く移動したい旅行好きなどにも広く愛されてきた。
2015年度からコロナ前の2018年度までは70万枚程度の販売枚数を維持しており、コロナ禍に突入した2020年度は25万枚まで大きく数を減らした。そして、未曽有の事態が落ち着いた2023年度には再び62万枚まで持ち直したものの、2024年度には42万枚、2025年度は、コロナ禍の2020年度よりもさらに少ない24万枚と利用者離れが加速している。
では、人気のきっぷにいったい何が起きているのか。
利用者離れを引き起こした最大の要因と考えられるのが、2024年冬季分の販売から適用された利用条件の大幅な変更だ。
■青春18きっぷが愛されていた理由
条件変更前の青春18きっぷは、春・夏・冬の休暇シーズン中の、期間内の任意の5日間、全国のJRの普通列車が乗り放題だった。販売価格は1万2050円で、1日当たりの金額は2410円と元を取りやすかった。
さらに、複数人での利用を認めていたのも大きな特徴で、例えば、2人で2日分を利用して残りを1人で使用できるなど、自由度が非常に高かった。
例えば、東京―大阪を利用しようとした場合、東海道新幹線の「のぞみ」では、1万4720円(通常期指定席)かかる。
新幹線の2時間半に対して青春18きっぷでは9時間程度の所要時間がかかるものの、2410円相当での移動が可能だった。
1枚の青春18きっぷを2人で使用して東京―大阪間を往復する、あるいは5人で片道使用するということもできたのだ。
■「日本最北端→最南端」の旅も可能
近年では鉄道系YouTuberの台頭により、青春18きっぷを活用したチャレンジ動画なども多くみられるようになり、中には100万再生を超えている動画もある。制度変更前の青春18きっぷを使い、日本最北端の稚内駅(北海道)から日本最南端の西大山駅(鹿児島県)まで、5日間をかけて移動する動画などはその一例だ。
こうしたYouTuberの影響により、青春18きっぷに興味を持ち、鉄道旅行の沼に引きずり込まれていった方も少なくないだろう。
また、全国のJR線が乗り放題になるきっぷが手ごろな価格で手に入るコストパフォーマンスの高さや、「任意の5日間」でも「最大5人」でも使える自由度の高さは、鉄道旅行初心者や移動費を安く済ませたい旅行好きにもウケていた。関連書籍も多く発売されていたことから、鉄道旅行の登竜門的な存在となっていた側面もあったと筆者は認識している。
「青春18きっぷ」「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」の発売について
■突然の改悪、理由は「自動改札機」
しかし、2024年10月24日、青春18きっぷ愛好家の間に衝撃が走る。突如としてこの年の冬季分から利用条件が大きく変更されることがJR各社から発表されたのだ。
これまで、「期間内の任意の5日間」利用できた青春18きっぷは、「連続する5日間または3日間」利用可能なきっぷへとリニューアルされ、従来の販売価格と同じ1万2050円の「連続する5日間用」のきっぷに加え、1万円の「連続する3日間用」のきっぷが新設された。さらに、複数人利用はできなくなった。
この利用条件の変更についてメディアに問われたJR東日本は、「時代や駅の体制などの変化に対応するのが狙いで、自動改札機を通せるようにリニューアルした」と回答。
一方で、利用日が「連続」することになったことについては、「自動改札機では利用日の感覚が空くと判定できないため連続するものにする必要があった」「きっぷを分割して利用する人が多く、ニーズに沿えるように5日間用に加えて3日間用も用意した」と説明した。
しかし、この予想外の変革を巡っては、SNSを中心に利用者からは戸惑いの声が多く上がった。
■「従来の制度に戻して」署名が3万を突破
青春18きっぷの利用条件の変更を発表したJR東日本の公式X(旧ツイッター)には、「改悪だ!」「家族やグループで利用できなくなった。これ以上、鉄道需要を減らしてどうするのか」「現代社会ではそんな簡単に連休を取れない」など、厳しい意見が殺到した。
JR各社が利用条件の変更を発表した当日の夜からは、「JR旅客6社に対し、青春18きっぷを従来の制度に戻すように要望する」オンライン署名活動も始まった。この署名活動は、SNSを中心に広く拡散され、新聞やテレビでも大きく報道。12月2日までに3万3946筆を集めて終了した。
しかし、12月5日になり、この署名の主催者はJR東日本から「直接ご提出いただく窓口の用意がございません」として、署名の受け取りを拒否されたことを明らかにした。
■鉄道より飛行機を選ぶ若者たち
こうした現状に対して、国内旅行好きという20代男性会社員のJRグループに対する見方は厳しい。
「制度変更前は青春18きっぷもよく使っていましたが、最近では、日本航空が、スカイメイトをより安い価格帯で期間限定のセールを定期的に始めるようになり、国内旅行では飛行機を使う機会がかなり増えました。
今の若い人が将来的に鉄道を移動手段として選んでもらえるような手を打たないと、本来、JRが得意とする分野である都市間輸送についても、鉄道離れが進んでいくと思っています。今のJRグループは将来の顧客をどう育成していくのかという視点が足りないと思いますし、魅力的なきっぷの打ち出し方もうまくないと思います」
青春18きっぷが登場したのは、国鉄末期となった1982年のこと。
当時の名称は「青春18のびのびきっぷ」だった。このきっぷの登場には、国鉄が抱える膨大な赤字の解消が社会問題となっていた背景があり、その増収策の一環として企画された。
学校の長期休暇期間中には、定期券の売上が減る一方で、国内各地では輸送力を持て余した普通列車が運行されていたことから、既存列車の輸送力を活用しながら、新たな需要を喚起することが狙われたのである。
そうした当初の狙いは見事成功し、青春18きっぷは国鉄分割民営化後もJRグループを代表する看板商品となった。
■「みんなが憧れる旅」なのに売れない
2024年冬の制度変更により、大幅な販売数の減少を招いている青春18きっぷであるが、興味深いのは青春18きっぷそのものへの関心が薄れたわけではないということだ。
YouTube上では制度変更後でも、鉄道系や旅系YouTuberによる青春18きっぷの関連動画は人気を集めている。いずれも3日間用を活用して54時間列車に乗り続けるチャレンジをする動画や、年末に夜行バスの価格が高騰していることへの対策として東京から普通列車で実家への帰省にチャレンジする動画などは、数十万回再生されている。
つまり、人々が憧れる旅のスタイルそのものは今も変わってはいないのである。それにもかかわらず、青春18きっぷが売れなくなっていることは、JRグループがニーズだと認識しているものと、実際の利用者のニーズとの間に大きな乖離があったことに他ならない。制度変更は、青春18きっぷが持っていたブランド価値そのものを弱めてしまった可能性がある。
■「数十年後の鉄道利用者」への先行投資
青春18きっぷは40年以上にわたり、日本の鉄道旅行文化を支えてきた。学生時代に青春18きっぷで全国を旅した経験は、多くの人にとって忘れられない思い出となっている。

ローカル線に揺られ、途中下車を繰り返し、駅前商店街を歩き、駅弁を食べ、地方の風景に触れる。そうした体験を通じて、「鉄道で旅をする楽しさ」を知った人は少なくないだろう。そして社会人になると、新幹線を利用し、家族旅行でも鉄道を選ぶ。
青春18きっぷは、将来の鉄道利用者を育てる「入り口商品」としての役割も果たしてきたのである。企業経営の言葉でいえば、長期的な顧客育成への投資だったと言える。
短期的な収益だけを見れば採算性に課題があったとしても、その先に生まれる顧客生涯価値(LTV)は決して小さくなかったはずだ。
■JRは青春18きっぷ自体を廃止したい?
2024年冬の制度変更は、それまで自動改札機に対応していなかった青春18きっぷの自動改札機への対応など、JR側からすれば業務の省力化という狙いがあったと考えられる。
しかし、省力化を狙いとするのであれば、電子チケットによる使用回数のカウントなど、これまでの本質を損なわない形での改善をする方法はあったはずである。
青春18きっぷの今後については、「『ご利用されるお客様の減少』を理由として、青春18きっぷそのものが廃止に追い込まれるのではないか」という利用者の不安の声も根強いようだ。
■省力化のみを目的にした「改悪」の代償
ローカル線の廃線問題など、JRグループが廃止したいサービスについては、数年前からサービスレベルを低下させ、需要そのものを減らす既成事実を積み上げたうえで廃止に追い込む事例が散見される。
今回の青春18きっぷのケースでは、青春18きっぷが40年以上にわたって蓄積してきたブランドの本質を無視し、目先の省力化のみを目的としたことが販売数の激減に繋がったものと考えられる。こうした、将来の顧客を育成する役割を果たしていた商品の価値を自ら毀損させたことは、JRグループの顧客をじわじわと減少させる結果につながりかねないのではないだろうか。


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櫛田 泉(くしだ・せん)

経済ジャーナリスト

1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。BSフジサンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組監修。

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(経済ジャーナリスト 櫛田 泉)
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