西表島トロピカルフルーツ生産組合のみなさま

私たち、西表島ホテルは「日本初のエコツーリズムリゾート」を目指しています。環境負荷が少ないホテル運営を行うことはもちろん、地域のみなさまにも観光の利益を還元する。
そのために地域の方々と一緒に魅力あるコンテンツを作り、お客様にそのコンテンツを楽しんでいただく。それが私たちが考える持続的なエコツーリズムです。

その西表島ホテルの春を彩る恒例行事、「春のピーチパイン祭り」。

主役となるのは、産地であるこの島だからこそ味わえる「樹上完熟」のピーチパインです。西表島の畑でギリギリまで甘みを蓄えたピーチパインは、切った瞬間に驚くほど芳醇な桃の香りを放ちます。

島内では名産品として以前より扱われていましたが、近年ではその知名度は島外まで飛び出し、希少で上質なパイナップルとして広く認知され始めています。この華やかな取り組みの裏側には、農家さんとホテルスタッフが本音でぶつかり合い、時に激論を交わしながら築き上げてきた、泥臭くも熱い物語がありました。

パイン畑ではじまった「農家さんとの対話」

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


西表島ホテル スタッフの西野和幸さん

2019年、西表島ホテルのスタッフ・西野和幸は、軽トラックを走らせては農家の畑へ通い始めました。目的は、ホテルの生ごみを資源化した「液肥(えきひ)」を島の農地に還元すること。元々は施設内で活用されていなかった液肥を、無料でも地域に配り、地域の人たちの役に立てないか、という想いから走り出していました。

しかし、農家の方々にとって、ホテルは観光客を連れてくる場所であっても、共に土を耕す相手ではありません。西野は作業の邪魔にならないよう、収穫や手入れの合間を縫って言葉を交わしました。数字やデータで液肥のメリットを語るよりも先に、農家の方々がパインにどれほどの情熱を注いでいるか、その一端に触れることを何よりも優先したのです。


そんな中で出会ったのが、パイン農家の池村一輝(いけむらかずき)さんと平井伯享(ひらいのりゆき)さんでした。新しい挑戦に意欲的な彼らに心を動かされ、西野は「この熱い人たちと一緒に何かしたい!」と興奮してホテルに戻りました。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー

お世話になっているパイン農家の池村一輝さん

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


お世話になっているパイン農家の平井伯享さん

しかし、関係が動き始めた矢先、世界はコロナ禍に飲み込まれていきました。

「パイン部」誕生 ── 止まらない畑、止まったホテル

2020年。観光客が消え、ホテルは静まり返りました。スタッフたちは、予期せず生まれた空白の時間に所在のなさを抱えていました。

一方、パイン畑に休みはありません。収穫、植え付け、そして果実を強烈な日差しから守るネット掛け。

「この機会に島のことをもっと知りたい」と思い、同じくホテルスタッフの伊藤久未がパイン農家に声をかけました。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


西表島ホテル スタッフの伊藤久未さん

学生時代、沖縄本島のパイン畑で泥まみれになって働いた経験を持つ彼女は、農作業がいかに過酷であるかを身をもって知っていました。伊藤と西野は休館中のスタッフに呼びかけ、有志による「パイン部」を立ち上げました。

ただひたすらに汗を流す、泥臭い日々が始まったのです。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


コンポスト作業に奮闘する様子

鋭利な葉に刻まれた信頼

パイン畑は、まさに闘いの場です。剣のように鋭く硬い葉が容赦なく突き刺さる中、長袖・長ズボンでかき分けながら進みます。5月の西表島は、むせ返るような湿気と熱気に包まれていました。


伊藤は経験者として仲間をリードし、西野も不慣れな手つきで重いコンテナを担ぎました。農家さんと同じ目線で、じっと土を見つめる日々が続きました。

ある日、ひたすら加工用のパインを切った後、農家さんが出してくれた冷えたパインとビールが「最高に美味しかった」と伊藤は振り返ります。そこには確かに、新しい信頼が芽生えていました。傷だらけになりながら毎日畑に現れるスタッフたちの姿を見て、農家の方々は島の仲間として迎え入れてくださったのです。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


農作業の合間には、農家さんたちと談笑も

「夕張メロンみたいにしたいんだ」

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


光に照らされた姿が美しいピーチパイン

2021年、パイン農家での活動は「パイン祭り」に繋がっていきます。この本当においしい西表島のパイナップルをお客様にもぜひ伝えたい!という気持ちで伊藤や西野が走り回ります。館内を彩る様々なパインの装飾、パインを飾る棚作り、パイン買取価格の相談、パイン納品のフロー、農家の取り組みを紹介する「パインの学校」の内容作りなど、すべてゼロイチで構築していきました。

2022年にはさらなる転換期を迎えました。それは、対話を重ねる中で見えてきた生産組合の皆さんの想いがきっかけでした

「西表島のピーチパインを、夕張メロンのような、全国に轟くブランドにしたいんだ」

長年この地で農業を続けてきた人間の、誇りと執念が宿った言葉でした。西表島独自の赤土が育む、芯まで食べられる甘いピーチパイン。しかしその価値は、まだ十分に世の中に伝わっていませんでした。

「その夢、一緒に追いかけさせてください」

西野と伊藤は誓いました。
農家さんの想いをゲストに届ける「ステージ」を、ホテルの中に作ろうと。それまで「パイン」と一括りにしていたものを、希少な「ピーチパイン」に特化して発信することを決めたのです。

しかし、そこからが本当の意味での「共創」でした。農家さんにホテルへお越しいただき開催する「パインの学校」の企画では、激しい議論も交わされました。

「もっとパイン農業のプロセスや苦労を伝えたい」という農家さんと、「お客様には、なぜこのパインがおいしいのかをシンプルに伝えたい」というホテル側。

西野は農家さんの懸念を一つひとつ聞き、スタッフが責任を持って現場を管理する体制を整えました。そして伊藤は、生産組合の皆さん想いを100%伝えるための展示やストーリーを丁寧に練り上げたのです。

農家さんが直接ゲストの前でパインをカットし、自らの言葉で情熱を語る。その光景がホテルで実現したとき、生産組合メンバーの瞳にも、スタッフたちの瞳にも、確かな手応えが宿っていました。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


小学生を招待してピーチパインについて教えることも

循環は、止まらない

いまや、この物語は西表島の土に深く根づいています。

農家さんと繋がるきっかけとなった液肥は、より栄養価の高い完熟たい肥に転換しています。そのたい肥を使用したパイナップルを育成して、2年。
今年初めて収穫を迎えます。私たちが目指していた循環型農業「環(かん)パインプロジェクト」の循環の輪がついに繋がります。今はどういった形でお客様に提供するか、スタッフたちが考えている真っ最中です。

「パイン部」としての集中的な活動は一つの区切りを迎えましたが、今でも新入社員が配属されると、まずは畑へと向かいます。農家さんの熱い想いを知る。それが、西表島ホテルが目指すエコツーリズムリゾートの原点だからです。

「コロナ禍のあの時間があったからこそ、このプロジェクトは実現しました。むしろ、あの時間がなければ、今の深い繋がりはなかったと思います」

この取り組みは現在「環パインプロジェクト」として継承され、より強固な地域連携へと育っています。パインの根が大地をしっかりと掴むように、西表島の未来を切り拓く歩みは、これからも力強く続いていきます。

なぜホテルスタッフの腕は傷だらけだったのか? 「全国に轟くブランドへ」西表島のパイン農家と挑んだ泥臭い共創ストーリー


初代パイン部集合写真
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