2023年1月9日。世界卓球選手権ダーバン大会(個人戦)アジア大陸予選会・男子ダブルスのアジア代表決定戦がカタール・ドーハで行われ、張本智和・篠塚大登ペアがカザフスタンペアを4-0で退けてグループ1位で通過。

来年開催される世界卓球選手権の出場を決めた。この実力者同士の新しいペアには、これまでにない大きな期待が高まっている。同級生の日本の大エース・張本が、シングルスで競うライバルとしても警戒する、篠塚大登とはいったいどのような選手なのか?

(文=本島修司、写真=Getty Images)

同期に、あの張本智和がいた。異例の戦績を持つ背景

1月7日に開幕した世界卓球ダーバン大会(個人戦)アジア大陸予選会の3日目に、初結成となる男子ダブルスの張本智和・篠塚大登ペアが登場。世界卓球出場を懸けてカザフスタンペアと対戦した。

この試合で一際注目を集めたのがサウスポーの篠塚大登。序盤は、チキータ(ボールに横回転や縦回転をかけて返球する技術)から張本へ渡すリレーのような、丁寧な仕掛けが目立った。後半になると、試合にならないほどの圧倒ぶり。ハの字を描くように動ける左利きとのペア。そして手の内を知る盟友ということもあり、張本のやりやすそうな姿も印象的だった。

篠塚大登は、現在19歳。5歳のときから卓球を始め、小学1年生のころからクラブで練習を開始。

そのまま卓球の名門、愛知工業大学付属中学校、愛工大名電高校へと進学している。

この経歴を見ると、セオリー通りの卓球エリートの道をたどっているといえるだろう。しかし篠塚は、過去の戦歴が少し異例な選手でもある。

戦績を見ると、2017年までの主に小学生の期間に、大きな大会での優勝経験がないのだ。将来を嘱望されたエリート選手の実績としては、少し物足りなくも感じられる空白に近い小学生時代を送っている。日本代表になる選手たちは、ホープス・カブ・バンビという小学生の部で日本一になるような戦歴を持つ者が多い。しかし、篠塚にはそれがないことになる。

その理由はとてもわかりやすい。同期に、あの張本智和がいたからだ。ホープス、カブ、バンビの部では、何度も張本と当たり敗れている。その間、張本は、小学校1~6年生まで、同世代の全農杯で6連覇を達成している。

世界のトップで戦う選手へと成長を遂げた2022年

2017年。全日本卓球選手権大会・カデットの部で、篠塚はついに全国優勝を果たす。

のちに篠塚自身が、愛知工業大学付属中学校という名門に入ったことで、この頃から練習に対する意識が良い方向に変わったと語っている。この優勝により、「篠塚大登」という名前は一気に全国区となる。

繊細にボールを“つかむ”ような天才肌のプレーは、この時期からより一層磨きがかかってくる。ボールタッチの柔らかさとともに、もう一つ強調したいのは、「わからなさ」だ。台上プレーにしても、次のプレーが打つ瞬間までわからない。それを仕掛けているというより、無意識にも感じられる雰囲気が、相手のタイミングをどんどんズラしてしまう。一気に頭角を現したのは、2022年。その才能が遂に解き放たれた。

2022年5月、WTTフィーダー・フリーモント。男子シングルス優勝、男子ダブルス準優勝。同年10月、WTTコンテンダー ノバ・ゴリツァ。男子シングルス優勝、男子ダブルス優勝の2冠。

特に10月の大会では、シングルスで韓国の李尚洙(イ・サンス)、及川瑞基、スロベニアのダルコ・ヨルギッチと、国内&世界の強豪を次々と撃破。この2つの大会で、幼少期から張本の陰に隠れていた実力者が、世界のトップで戦う選手へと成長を遂げたことを印象づけた。

篠塚大登が持つ世界でもトップクラスの技術とは?

篠塚のプレースタイルを見ると、まず「変幻自在な台上」に目が行く。

左利きが、ものすごい速度で左右に動き、レシーブからチキータをする。このチキータが抜群の精度を誇る。また、特徴的なのは自分のサーブからのパターン。小さなサーブを出したあと、相手にストップされたボールを、3球目でチキータしてしまう台上技術だ。

小学生時代から「ボールタッチの柔らかさ」をクローズアップされてきた選手だが、それ以上に、「台と、構える位置の距離感に抜群のセンス」を感じさせる。このセンスが、もしフリック(主にレシーブの際に使われるボールを払う技術)やツッツキ(下回転のボールを、同じ下回転で返球する技術)をされた場合、台と自分が詰まってしまう恐れがある「3球目の台上チキータ」を華麗に成立させてしまう。

3球目チキータからは、両ハンドで打っていく前陣速攻で勝負を決めていく。レシーブでチキータがうまい名手は世界中に数多くいるが、この、3球目での台上チキータのうまさと強烈さでは、篠塚はすでに世界でもトップの位置にいるかもしれない。

パリ五輪選考ポイント2位。今シーズンの男子卓球界の台風の目に

2022年11月のパリ五輪日本代表選考会を兼ねた全農CUP TOP32では、男子シングルス準決勝で張本と激突。

ここでは、盟友を追い詰めるシーンが何度もあった。試合の序盤。篠塚はロングサーブを軸にして張本のチキータを封じていく。これを張本に警戒させることにより、短いサーブからの展開も簡単にチキータをさせない効果が生まれていく。すべてが噛み合い、「小学校時代は1セットも取れなかった」という張本から1セットを奪取。そのまま、どちらが勝つかわからないほどの大激戦となった。

その姿は、まさに試合巧者。サウスポーから繰り出されるサーブは、短いサーブなのか、ロングサーブなのか、出す瞬間まで読みにくい。また、サーブをミドルの立ち位置からも出すようになった。こうした、出し方、出す位置にバリエーションが増えたサーブの技術に磨きがかかった篠塚の前に、張本も最初から最後まで戸惑いを見せる試合に。

結果はフルセットの末、4-3で張本の勝利に終わったが、11-9、7-11、6-11、6-11、11-8、12-10、11-13という点差が示すとおり、終始どちらに転ぶかわからない展開が続いた。接戦を制した張本が、試合後に机をたたきながら感情を爆発させて勝利を喜んだ姿がこの試合がいかに緊張感のある激戦であったかを物語っていた。

これほどまで、同期の盟友・張本を追い詰めることができたのは、篠塚にとってもおそらく初めてのことだろう。

見る者すべてが「どちらも強い」と唸るような攻防。この試合を経て、張本の陰に隠れた実力者というイメージは払拭され、張本のライバル、そしてお互いが、新時代の最高のダブルスパートナーになった。

篠塚自身が「怪物」と語る張本が、世界卓球の舞台で、一般的に有利といわれる「卓球のダブルスでのサウスポー」である篠塚の良さをどう生かし切っていくのか。この点にも注目が集まりそうだ。

まさに今、大ブレイク寸前。2024年に行われるパリ五輪の選考ポイントでも、張本に次ぐ2位につけている。間違いなく、今シーズンの男子卓球界の台風の目となるのはこの選手。

篠塚大登から、目が離せなくなってきた。

<了>

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