卓球女子のパリ五輪選考ポイントで、伊藤美誠や平野美宇をおさえて現在首位をキープしている、早田ひな。1月17日に更新された世界ランキングでも日本人トップの5位となった。
(文=本島修司、写真=Getty Images)
強烈さと精度を増した、バックハンドの“連動”
世界卓球選手権ダーバン大会(個人戦)アジア大陸予選会・女子シングルス。日本女子卓球界の期待を背負った早田ひなが、圧倒的な強さでインドのリース・リシャ・テニソンに勝利。女子ダブルス、混合ダブルスと合わせて出場3種目での世界選手権への出場を決めた。早田の実力を思えば当然の勝利ともいえるこの試合には、“結果”以上に“内容”の面でも大きな収穫が浮き彫りになった。
テニソンとの決勝。序盤の1ゲーム目は4-4からもつれあうような展開に。ここから早田はいつも通りに、リーチの長さを生かしたフォアハンドで、圧倒していく。そのまま11-7でこのセットを勝ち切る。2セット目も、早田が主導権を握る攻防。
しかし、このあたりから変化が見え始める。特に9-5からの1本が、とてもわかりやすい。バークミートの打ち合いとなったこの展開。
3ゲーム目は、バックハンドのドライブもさえわたる。テニソンのミスも目立ったが、このあたりも、早田のバックドライブの質が明らかに良くなっていた。もともと、リーチの長い天性のフォアハンドが特徴ではあったが、ここにきてバックハンドのドライブも、さらに“しなる”ような動きと迫力が増してきた。
6-3の場面では、台から少し離されて、バックを振る形に。そこも精度の良さと、右利きの相手の台の角へしっかりと入れていくコース取りの良さでポイントを取り切っている。10-4となり、今度はバックドライブからのバックミート連打の形で打ち抜いた。ここでは華麗な「動きの連動」が目を引いた。
「体勢が崩れても入るバックハンド」で決まった勝負
打ち方に切れ間がなく、単発にならない、しなやかな動き。
4ゲーム目の最初の1本も、難しいボールだった。ここは、フォアドライブをテニソンが、うまく早田のバックへ返球。これが、ややカウンター気味に入ってきたため、“食い込まれる”ような形になったが、食い込まれながらも、バックハンドのスイングが乱れない。
すでに勝負が決まりかけた3-0で迎えた4ゲーム目なだけに、この1球は見逃されがちだが、このプレーは「体勢が崩れても入るバックハンド」「打点にズレが生じても入ってしまうバックハンド」に仕上がっていることを感じさせた。
8-2からは、バックドライブをストレートに。これで相手を動かしてから、バックミートをクロスに決めた。これは卓球において王道のコンビネーションではあるが、早田ひなの動きはここでも、“華麗に連動”しており、まるでミスする気配がない凄味を感じる。
そのまま4ゲーム目を取って勝負が決まった。
全農CUP決勝、平野戦でも見せていた進化したバックハンドの片鱗
早田が手に入れた新しい武器。それは、今まで以上に磨かれた「バックハンドの連打と強さ」だ。
さかのぼること、2カ月前。2022年11月に行われた全農CUP TOP32 船橋大会。ここでも、その片鱗はすでに見られていた。
この大会の決勝戦は、早田ひな対平野美宇の対決となり、平野の劇的な復活で幕を閉じた。高速連打による「ハリケーン平野」の復調と、久々に見せた前陣両ハンドの強烈な切り返しによる、“入り出すと止められないかつて平野の姿”が見られた一方で、早田ひなもまた、バージョンアップした姿を見せていた。
絶好調だった平野を相手に、厳しくなったこの試合、2ゲーム目。2-2から、平野が速攻で攻め込んでくる中でも、バックブロックとバックミートで得点する姿があった。また、バックドライブ一発で相手のミドルを打ち抜くようなボールも見られた。これは今までの早田にはあまり見られなかったコース取りだ。
熾烈な日本代表争いを繰り広げる連戦が続き、両選手ともに疲労の色を感じさせたこの試合の中でも、早田には新たな可能性を感じさせる、光るボールがたくさんあった。その多くは、これまでにないバックハンド強打だったように感じる。
そして、全日本選手権へ。役者がそろった大会での真価
1月23日から、国内戦の大一番、全日本卓球選手権大会が行われている。特に女子は、本当に「熾烈」としかいいようがないパリ五輪代表争いの過密スケジュールの中で、多くの選手が疲労の蓄積と戦っていると思われる。年末年始にかけては、早田もそれを感じさせるシーンが何度もあった。伊藤美誠もインタビューで「卓球が嫌いになりそう」とまで口にし、涙を流したシーンもあった。
何事も、煮詰まると噴きこぼれてしまう。
その中で、連戦の疲労と戦い、世界選手権では出場機会が減るほどのケガとも向き合いながら、早田は確実な進化を遂げてきた。
最大のライバル伊藤美誠。完全復調の平野美宇。若手成長株のコンビ、長﨑美柚と木原美悠。ベテランの石川佳純。超新星の張本美和。役者がそろった、2023年度全日本選手権。
早田にとっても、本来の力が出せれば優勝が約束されるような大会ではない。それでも、昨年から安定した強さを見せ始めた早田が、新たな武器も駆使しながら、全日本選手権でも決勝進出を果たすような勝負強さを見せれば、パリ五輪へと続く道は確実に見えてくる。
早田ひなが繰り出す、新しい武器。今まで以上に強烈なバックハンドの、速い連打に注目だ。
<了>