彼女はソロ・アーティストとしても素晴らしい作品を発表している。『So Far』(2019年)、『Honey for Wounds』(2020年)、『FIELDNOTES: COMPLETE』(2024年)といったアルバムで、エリカ・バドゥやソランジュなどを引き合いに出される独創的なR&Bを提示し、軒並み高い評価を得た。
そんな彼女の新作『Good Intentions』が3月に発表された。持ち前の柔らかな質感や穏やかなムードはそのままに、悲しみ、葛藤、喜びといった感情をまっすぐに綴り、時には鋭いメッセージを突きつける歌詞の世界観は健在だ。一方で、これまでとは異なるサウンドにも踏み込んだ意欲作に仕上がっている。ここでは彼女のルーツや影響源を手がかりに、『Good Intentions』という作品がどのように生まれ、何を語ろうとしているのかを掘り下げた。
ナイジェリアのルーツと独創性の源泉
―あなたの両親のルーツはナイジェリアですよね。子供のころ、ナイジェリアの文化や風習を感じることはありましたか?
メイ:かなりあったと思う。特に食事と音楽の面が大きかった。家では伝統的なナイジェリア料理をよく食べていて……。
―エズラ・コレクティヴのフェミ・コレオソにインタビューしたとき、彼もナイジェリアにルーツがあって、子どもの頃はナイジェリアのサッカー選手に憧れていたと言っていました。あなたにも、子どもの頃に憧れていたナイジェリアの人物はいますか?
メイ:もちろん、フェラ・クティは外せない! 彼の自伝も読んだことがあって、たしか『This Bitch of a Life』(邦題:フェラ・クティ自伝)というタイトルだったと思うんだけど、とにかく印象的で、彼がどんな人だったのか、なぜ音楽が彼にとってスピリチュアルなギフトだったのかが、とてもよく伝わってくる内容だった。それから、チーフ・スティーヴン・オシタ・オサデベ(Chief Stephen Osita Osadebe)の音楽もすごく好き。この2人は間違いなく自分に大きな影響を与えてくれた。
―僕があなたのことを初めて認識したのは、ジョー・アーモン・ジョーンズのアルバム『Starting Today』(2018年)でした。あなたは世に知られ始めたころから常に優れたアーティストたちの中にいたように思います。どのように今、自分が関わっているシーンの一員になったんですか?
メイ:ジョーとは、すごく仲のいい友だちを通じて知り合った。その人も本当に素晴らしいミュージシャンで、Wu-Luっていうんだけど。
―はい、知ってます(笑)。
メイ:彼もサウスロンドンのコミュニティの人で、私たちはよく、彼が働いていた「Raw Material」っていう場所に夜遅く集まっていた。営業時間が終わったあとにみんなで集まって、ただセッションしたりしていて。そこでジョー・アーモン・ジョーンズに出会ったし、オスカー・ジェロームともその頃に知り合った。それから、みんなで「Church of Sound」でライブをやったときに、ヌバイア・ガルシアとも出会った。当時はみんなまだ音楽業界に入りたてで、とにかく一緒に演奏したり音楽を作るのが楽しくて仕方なかった。サウスロンドンの溜まり場みたいな感じで、ただ集まっては演奏して、っていう場所だった。そういう流れで、今の人たちと知り合っていったんだと思う。
―オーガニックなプロセスだったんですね。
メイ:あとセオ・クロッカーは、たしか13年くらい前にSoundCloudでメッセージをくれて、「君の曲を聴いてるよ、東京で流れてるよ」って言ってくれて。「え?」って感じだったんだけど(笑)。それがきっかけで仲良くなって、一緒に制作もするようになった。
―ここからは音楽性について順番に聞きたいです。あなたはすごく個性的な歌い方のシンガーですよね。歌唱に関して影響を受けたシンガーはいますか?
メイ:たくさんいるけど、特にジャズのボーカリストが多いかな。好きなのは、もちろんエラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン、ニーナ・シモン。もう少し新しいところだとエイミー・ワインハウスやローリン・ヒルも好きだし、コリーヌ・ベイリー・レイやリアン・ラ・ハヴァスも大好き。他にはホイットニー・ヒューストンも大好きだけど、あんなふうには歌えない(笑)。彼女は本当にパワフルなシンガーだから。セリーヌ・ディオンもそうだよね。
―コリーヌ・ベイリー・レイやリアン・ラ・ハヴァスは二人ともイギリスのシンガーですけど、どんなところがお好きですか?
メイ:2人とも本当に個性的な声を持っていると思う。彼女たちの声のトーンがすごく好き。
―時にささやくような、やさしく繊細な声の使い方が印象的です。そういう歌唱スタイルを築くうえで、研究してきたシンガーはいますか?
メイ:たとえばビリー・ホリデイは、より柔らかいトーンを持ったシンガーだと思う。あとは、ムーンチャイルドのアンバー・ナヴランもそうかな。彼女の声もすごくやさしくて、ささやくような質感がある。歌を学び始めた頃は、パワフルなシンガーにも惹かれていたんだけど、それと同じくらい、柔らかく歌うタイプのシンガーにも魅力を感じていた。やさしく歌うことにもちゃんとした技術があるし、そのダイナミクスには特別なものがあると思う。それから、アリーヤもよく聴いていて、彼女の声もすごく柔らかい印象がある。そういうタイプの声に、自然と惹かれていったんだと思う。
―あなたは歌だけでなく、ポエトリーリーディングやスポークンワードに近いような表現もしますよね?
メイ:昔から本を読むのが大好きで、読書に夢中だった。小説や本が大好きだから、それが自然とソングライティングにも影響していると思うし、歌の中で物語をどう語るかという部分にも繋がっている。言葉そのものがすごく好きで、言葉を組み合わせることも好きだし、何度も語られてきたことを、どうやったら違う形で表現できるかを考えるのも好き。そういうことを考えるのが、すごく楽しいし、自分にとってはひとつの挑戦でもあると思ってる。
―ポエトリーリーディングやスポークンワードのアーティストでこれまでに研究してきた人はいますか?
メイ:アジャ・モネ(aja monet)がすごく好き。彼女は本当に素晴らしいと思う。それからワルサン・シャイアもそうで、子どもの頃から彼女の作品が大好きで、すごく素敵な詩人だと思っている。ニキータ・ギルもそうだし、もちろんマヤ・アンジェロウも。あと、ジル・スコットも好き! 彼女の曲にはスポークンワード的な要素が入っているものもあって、それがすごく美しいなと思う。
―リリックの面で、特に影響を受けた歌手やラッパーは?
メイ:まず、エイミー・ワインハウスからは間違いなく影響を受けている。本当に優れたストーリーテラーだと思う。それからケンドリック・ラマーも大好き。
―さっきから何度も名前が出てるエイミー・ワインハウスは、ストーリーテラーとしてどんなところが素晴らしいと思いますか?
メイ:正直に物語を語るところ。彼女は色々な問題も抱えていたけど……「Rehab」みたいな曲でも、「私をリハビリに行かせようとしているの?」っていう、そのままの気持ちをすごく率直に表現していて。そういう意味で、すごく正直な人だったと思う。最初のアルバムでも扱っているテーマのいくつかは、「そこまで言うんだ」って思うような内容もあって。でも、それが見事に表現されていると思う。
―ソングライターの側面での影響に関してはどうですか?
メイ:やっぱりエイミー・ワインハウスは大きいと思う。それからスティーヴィー・ワンダー。アレンジや曲の構成という意味では、スティーヴィーから多くを学んでいる。あとクインシー・ジョーンズも同じく、アレンジや音楽的な部分に関しては大きな影響を受けている。この3人が、自分の中では特に大きな存在。
―あなたのギターのサウンドには、独自の音色や響きがあります。あなたらしさを生んでいる秘密を聞かせてもらえますか?
メイ:たぶんテクニックによる部分はあると思う。ただ、そもそも独学でギターを覚えたから、もし何か独特に聴こえる部分があるとしたら、それは単純に「ちゃんとした弾き方を知らないから」かもしれない(笑)。というのも、基本的には曲を書くためのツールとして使っているだけで、ギタリストとして演奏しようとしているわけではないから。オスカー・ジェロームみたいな本当に素晴らしいギタリストも周りにいるし、弾いてもらおうと思えばお願いできるけど、自分にとってはあくまで曲作りの入り口として使っている感じ。自分の曲を自分で弾けるようにするためだったり、アイデアを形にするための手段として使っている。だから、もし少し違って聴こえるとしたら、その場で感覚的に作りながら弾いているからだと思う。
―響きが面白かったりするから、チューニングとか奏法に秘密があるのかもと思ったんですが。
メイ:ううん、ほとんどは普通のチューニングで弾いている。もしかしたら……本来の弾き方とは少し違う弾き方をしているのかもしれない。あとはエフェクトを使っているからかも。
(C) Ego Ella May
―自分の声を多重録音して「ひとりクワイア」のようなことをしていますよね。初期作『So Far』の頃から教科書的なハーモニーとは異なる独自のやり方で声を重ねてるのが面白いです。その手法はどうやって発見したんですか?
メイ:もともとハーモニーがすごく好きで、他のシンガーを聴くときも、ボーカルそのものやボーカル・プロダクション、コーラスの入り方とか、そういうところばかり気にしてしまうの。それで、自分でボーカルを録音するようになってから、全部Logicで録っているんだけど、その環境ができたことで、曲を作りながらもっと自由に試せるようになったと思う。レコーディングしているときも、常にバック・ボーカルのことを考えていて、結局は「できるからやってみる」という感じで、いろいろ試している感じ。パジャマのままヘッドフォンをつけて、同じフレーズを何度も歌い直したりしていて(笑)。だからこれはもう、自分の性格というか……ちょっとオタクっぽいところなのかな。何時間も座って、いろんなボーカル・メロディやハーモニーを考えたり、揺らし方を変えてみたり、音の配置を左右に動かしてみたりして。そういうのがただ好きでやってる感じ。
―そのアイデアに影響を与えた人っていたりしますか?
メイ:90年代に育ったことが影響しているかも。当時はボーカルグループ、特にガールズグループがすごく多くて、エン・ヴォーグとかデスティニーズ・チャイルドをよく聴いていた。そういうグループのハーモニー、特に4声のハーモニーを聴いて「すごくいいな」って思って、それぞれのパートを一つずつ聴き分けようとしてた。そういう体験が、今の自分の作り方にもつながっていると思うし、ひとつの音に対してできるだけ多くのハーモニーを重ねようとする感覚にも影響していると思う。
『Good Intentions』に込めた祈りの力
―ここからは最新アルバムの話を。まずは『Good Intentions』のコンセプトを教えてください。
メイ: 『Good Intentions』は自分にとって、2作目のフルアルバムという位置付け。最初に『So Far』があったけど、あれは過去の曲をまとめたような作品。そのあとの『Honey for Wounds』が実質的な1stアルバム。そして『FIELDNOTES: COMPLETE』は3つのEPをまとめたものだった。そういう流れがあって、『Good Intentions』が本当の意味での2作目のアルバムという感じ。
―あ、4作目じゃないんですね。
メイ:そう。制作を始めたのは2023年なんだけど、最初はなかなかうまく流れに入れなくて。というのも、その頃は『Honey for Wounds』の続編みたいなものを作ろうとしていたところがあって。あのアルバムはすごく評価されたし、「こういうものが求められているのかな」と思っていたから。でも、どうしてもそれができなくて、すごく時間がかかってしまった。たぶんあのアルバムは、あのときにしか作れないものだったから、それをそのまま繰り返すべきじゃないと思っていたんだと思う。
そこから、「自分の音楽における意図(Intention)って何だろう」と考えるようになって、「自分が本当に誇れるものを作ること」と「自分自身を押し広げていくこと」だと思えたときに、やっと流れができてきた。「今の自分はこうなんだ」と受け入れて、そこから音楽を作ろうとしたときに、自然といろんなものが流れ出てきた感じがあった。今回も、前のアルバムのときと同じ仲間たちと一緒に制作していて、それが自分にとってすごく大事なことだった。みんなで一緒に成長してきたし、お互いに弱さも見せ合ってきたし、信頼関係もある。だからこのアルバムは、「自分が誇れるものを作ること」、そして「仲間と一緒に作ること」、それだけを大切にして生まれた作品。再生数は考えずに、とにかく自分が納得できるものを作ること。そのための作品だった。
―どこかポジティブな印象を受けた理由がわかった気がします。タイトル曲「Good Intentions」の歌詞を通じて、ひたすら「~でありますように」と祈りを捧げているような印象を受けました。なぜ、このタイトルで「祈り」という形を採ったのでしょうか?
メイ:私は普段からよく祈るほうで、実際かなり頻繁に祈っている。だからこのアルバムは、本当に自分そのものというか、普段の自分がそのまま表れている作品なんだと思う。実際にやっていることをそのまま音楽にしている感覚に近くて、「これのために祈って、あれのために祈って」といった感じで、音楽そのものがちゃんと成立すること、それだけで十分なものになることを願っていた。つまり、私が前に出て、たとえばTikTokで「これ見てねー!」などと発信することよりも、音楽そのものがちゃんと届いてほしいと思っていて、「この音楽が誰かの耳に届きますように」と祈っていたし、制作に集中していてなかなか友だちに会えない時期でもあったから、「どうかみんなが待っていてくれますように」とも祈っていた。そういう祈りの気持ちがそのまま曲になっていって、この曲がいちばん正直な自分を表していると感じたから、タイトル曲になった。「すべてがうまくいきますように」と、ただ祈っている。そんな感覚。
―その祈りって宗教とか関係あったりするんですか? それとも、そういうものと切り離されたパーソナルなものですか?
メイ:どちらもあると思う。私はかなり厳格なキリスト教の家庭で育ったから、今でも自分の中に「祈ることの力」みたいなものが残っているんだと思う。今は教会に通っているわけでもないし、いわゆる宗教的な意味で信仰しているわけではないんだけど、それでも祈るという行為そのものはずっと自分の中にあって、自然と続いている。祈ることで、自分の中にある問題や感情を外に出して、手放すことができる感覚があって、「あとは委ねるのみ」という気持ちになれる。そうやって祈ることで、自分が少し強くなれるというか、守られているような感覚にもなれるから。
―今のお話にも通じる部分かもしれませんが、前作までのリリックにはメンタルヘルスやセルフケア、ヒーリングといったテーマが色濃く反映されていたように思います。今作『Good Intentions』においても、そうした視点は引き継がれているのでしょうか?
メイ:うん。そういう要素はちゃんと残っていると思うし、特にタイトル曲にはそれがよく表れている。あの曲がすべてを象徴しているというか、セルフケアでもあるし、ヒーリングでもあると思う。
ただ、このアルバムではもう少し楽しんでいる自分もいる。たとえば「What We Do」は夫に会えなくて寂しい気持ちを歌った曲なんだけど、すごく軽やかで楽しい雰囲気になっているし、「What You Waiting For」ももっとアップビートで、「人生は一度きりなんだから思いきり生きようよ、みんなそれぞれ輝けるんだから」っていう前向きな気持ちがある。全体的に、「もっと自由にやってみよう」「自分らしく生きよう」「少しふざけてもいいし、楽しんでもいいし、誰かに恋してもいい」みたいな、遊び心のある感覚があると思う。『Honey for Wounds』の頃は、まだ癒しの真っ只中にいた。何かから抜け出そうとしている状態で、あの作品の曲たちは本当に自分を支えてくれたものだった。でも今の私はその状態を乗り越えている。もちろん今でもメンタルが揺らぐ日はあるけど、以前よりずっと強くなれたと感じているし、その分、もっと自由に、遊び心を持って表現できるようになった。そこが大きな違いかな。
―Spotifyで「YOGA」というプレイリストを公開していますよね。あなたの音楽には、ヨガのための音楽にも通じるようなメディテーションを感じさせる部分もあると思います。あと歌詞を見ていても、東洋の哲学とか、マインドフルネスに通じるものがありそうな気がしました。
メイ:ヨガは日々の習慣としてやっている。朝は10分くらい瞑想もしているし、ジャーナリング(頭に浮かんだ思考や感情を制限なしに紙へ書き出す、メンタルヘルス向上のための習慣)もしている。あとはマインドフルネスに関する本もよく読んでいて、ティク・ナット・ハンやディーパック・チョプラ、ペマ・チョドロンの本なんかも読んだ。そういう影響もあって、特定の宗教を信じているわけではないんだけど、「自分を支えてくれる何かがある」という感覚は大切にしていて、それに意識を向けるようにしている。それに、そういうことをすると気持ちも落ち着くし、純粋に自分にとって心地いいものでもある。心のあり方や、やさしさの力、マインドフルネスの力、自分のために時間を取ることの大切さみたいなものにすごく興味があって、ただ身体を伸ばしたり、深く呼吸したりするような、一見小さなことでも、日常の中でとても大きな意味を持つものだと思うから。
―歌詞だけじゃなくて、あなたの音楽にも瞑想やマインドフルネスの影響が入ってるんじゃないかなと思ったんですけど、どうですか?
メイ:そう言ってもらえてうれしいし、ちゃんとそういう部分が伝わっているならよかった。自分が信じていることや、自分の内面の部分が作品に表れていることがすごく大事だと思ってるから。だからそれが正直に、そしてちゃんと本当のものとして届いているのは、すごく嬉しいこと。
―『Good Intentions』はこれまでのあなたの作品とは異なっていて、プロダクションよりもかなりバンドのサウンドの要素が多いと思います。そして、曲によっては即興演奏もかなり入っていますよね。
メイ:それははっきりと意図したことだった。これまではいわゆるプロデューサー主体のビート寄りの制作をやってきたけど、今回はミュージシャンとして、そして共同プロデューサーとしての自分をもっと押し広げたいと思っていて、自分の音楽性そのものをしっかり表現したかった。ひとりのプロデューサーとビート中心で作る場合って、どうしてもできることに限界があるというか、ある種の枠の中で作ることになるけど、今回はライブでも一緒にやっているバンドのメンバーを制作にも参加させて、録音の段階からみんなで関わる形にしたかった。だから泊まり込みで制作できるスタジオに全員で集まって、最初に音楽を始めた頃みたいに、とにかくセッションしながら作っていった。そうすることでみんなが自由に実験できるし、「ここをこうしてみたらどうなるかな」とか、まだ形になっていないものを一緒に作っていく感覚があって、それがすごく大きかった。
―なるほど。チームとして作っていった。
メイ:その中で自分自身もプロデューサーとして主導していく意識が強くなった。「ここにインストのブレイクを入れたらどうなるかな」「ここで一度ドラムを抜いて、そこからまた展開させてみよう」とか、そういう判断も自分から積極的にできるようになった。これまでもそういう役割を担ってきたことはあったけど、どこか遠慮していた部分があって。でも今回は「自分はこういう音を作りたい」とはっきり言おうと思えたし、そこに対してしっかり踏み込めたのが大きかった。信頼しているミュージシャンたちとやっているからこそ、「それは違う」と否定されることもなくて、「じゃあ一度やってみよう」と受け止めてもらえる環境だったし、たとえうまくいかなかったとしても、それは自分で試して辿り着いた結果だった。それも含めて、このアルバムの制作は本当に有意義な経験だった。
―個別の曲についても聞かせてください。新作では「Pot Luck Baby」「What You Waiting For」「Sister」などで、アフリカの音楽を思わせるリズムが使われていますね。
メイ:その3曲に関して言うと、ココロコのアヨ・サラウが叩いているドラムが、すべてをつなぐ軸になっていると思う。あのリズム感をもたらしたのも、彼の演奏による部分が大きい。彼は信じられないくらい凄いドラマーだから。
―ココロコはアフロビートを中心にやってるグループですよね。そのドラマーを迎えたということは、アフロビートやナイジェリア的な要素を入れようという意図もあった?
メイ:ええ。それは意図していたことだった。彼はナイジェリアにルーツがあるということもあって、自分が思い描いていたサウンドを実現してくれる存在だと感じていた。私が描いたイメージを体現できるのが彼だったという感じかな。
―〈Wheres my home〉と歌う「Pot Luck Baby」では、Igbo(ナイジェリアの言語のイボ語)が出てきます。この曲がどんなコンセプトなのか聞かせてください。
メイ:私はイギリスで生まれて、両親はナイジェリア出身。ナイジェリアにも家族がいるし、こっちにも家族がいる。そういう二重のルーツを持っている中で、「自分はどこに属しているんだろう?」って感じることがある。イギリスにいても、自分は完全にここ出身という感覚ではない。でもほとんどの時間をここで過ごしてきた。一方でナイジェリアに行くと、そこで育ったわけではないから、やっぱりどこか外の人間のように感じることもある。イギリス訛りもあるし、イボ語も少ししかわからない。親戚からは「この子はイギリス人ね」って言われたりもする。でも自分としては「私はイギリス人ではない」と感じるところもあって、その間で揺れてしまうというか、すごく混乱することがある。だから「じゃあ自分の本当の居場所ってどこなんだろう?」って考えてしまう。ここでもない、あそこでもないとしたら、いったいどこなんだろうって。そういう感覚や、自分のルーツに対する戸惑いみたいなものが、この曲のコンセプトになっている。
―あなたは自身のナイジェリアのルーツにすごく意識的ですよね。例えば、資料にあなたが影響を受けた作家についての記述がありましたが、そこにはチママンダ・ンゴズィ・アディーチェやチヌア・アチェベのようなナイジェリアの作家も含まれていました。彼らがどんな作家で、あなたにどんな影響を与えたのか聞かせてもらえますか?
メイ:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェは素晴らしい小説家で、『アメリカーナ』は人生で読んできた本の中でもトップ5に入るくらい大切な一冊。とにかく言葉の使い方がすごくて、何度も語られてきたようなことでも、まったく違う形で表現できる人だと思う。まさに、言葉の選び方や語り方そのものに影響を受けている存在で、彼女の本はどれも大好き。チヌア・アチェベはナイジェリア文学の世界では伝説的な存在で、それ以上言う必要がないくらい偉大な作家。2人とも本当に大好きだし、ナイジェリアには他にも素晴らしい作家がたくさんいて、そのことにすごく刺激を受けているし、同時に誇りにも思っている。そういう流れを、自分もこれから先につないでいけたらいいなと思ってる。
―影響源にジョーン・ディディオンを挙げているのも興味深いです。彼女は小説家でもありますが、自身の視点や主観を大胆に持ち込んだジャーナリストとしても知られていますよね。
メイ:やっぱり一番大きいのは、彼女の正直さだと思う。私は正直に表現している人に強く惹かれるところがある。自分の言葉を世界に向けて発信するって、それだけでとても勇気のいることだと思うし、読まれるものや聴かれるものとして外に出す以上、その正直さを保つのは簡単なことではないと思う。それでもジョーン・ディディオンは一切引くことなく、自分の視点や感情をそのまま言葉にしていた人で、本当に率直な作家でありジャーナリストだったと思う。そういう姿勢にずっと影響を受けてきたし、彼女の言葉や語っている内容には、人を引き込む力があると感じている。
―今日、何度も「正直さ」って言葉が出てきましたね。あなたにとってのキーワードなのかなと。でも、今みたいなSNSがある環境で、アーティストが正直でいるのは大変なことだと思います。かなり意識的に取り組まなければ正直ではいられないのではないかと。
メイ:まさにそれが難しさだと思う。SNSではリールなどでハイライトだけを切り取ったようなものがたくさん見えていたり、実際とは違う自分を演じている人も多いなかで、どうやって自分らしさや本当の自分を保ち続けるかは、すごく大きな課題。でもだからこそ、ただそのままを見せてくれる人に惹かれるのもある。きれいに整ったものじゃなくてもいいし、ときには辛かったり、見苦しかったりする部分があったとしても、それがその人にとって本当のものであれば、そこに価値がある。だから自分も、特に音楽においては、ちゃんと真実を語る人でありたいと思っている。
エゴ・エラ・メイ
『Good Intentions』
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