早期化&長期化で学生は4年間就活漬け。売り手市場でコネ採用を増やす企業には大量の「AI製ES (エントリーシート)」が届き、対抗手段として「AI面接官」も導入へ!?
人手不足で、新卒採用は空前の売り手市場! 今の大学生は就職先を選び放題で、さぞいい思いをしてるんだろうな~と思いきや、聞こえてくるのは暗い話ばかり。
キーワードは「早期化」「長期化」「AI」。ダレトクな変化の先にある、グロすぎる格差の実態に迫った!
【超売り手市場の実態とは?】3月末時点で2027年卒学生の内々定率は66%(学情調べ)。つまり、大学3年生のうちに7割近い学生が内定を得ているということになる。さらに、初任給50万円(地主株式会社)といった、管理職ほどの給与を学生に提示する企業も現れた。世はまさに超売り手市場だ。
しかしその裏側で、就職活動は終わりのない競争と化している。今春、帝京大学を卒業し、新社会人になった女性のAさんはこう語る。
「ニュースでは就活が早期化しているといわれますが、同時に長期化も起きています。3年生で内定が出ても、売り手市場の影響で4年生になっても選考を受けつけている優良企業も多い。
そうなると、より良い会社の内定を目指そうと思えば卒業するまで就活ができてしまうんです。だから、真面目な人は2年生から4年生まで2年以上の就活をやり続けることになります」
また、同じく帝京大学に通っていたBさん(男性)はこう言う。
「大学受験なら合格がひとつ出たら終わりですが、今の就活は内定が出ても、もっと良い企業を目指そうと就活業界にあおられる。
ゴールがわからないのに2年以上も走らされるんですよ。評価基準がわからないゲームをずっとやらされてるような学生生活でした」
そもそも、イマドキの就活のスケジュールはどうなっているのだろうか。慶應義塾大学に通う女性のCさんが説明する。
「就活サイトや採用ホームページからエントリーシート(ES)を提出し、筆記試験、オンライン面接、グループディスカッション、対面面接などを経て内定をもらう形が一般的です。
政府が経済界に要請しているルールでは3年生の3月に広報活動が解禁され、4年生の6月から選考がスタートするとされていますが、守る企業はほとんどない。
例えば3年生のときにはインターンシップ(就業体験)があるんですが、参加するには選考を突破しなければなりません。なので、行きたい企業のインターンに参加するためには2年生から準備が必要です」
インターンシップは本来、選考とは無関係の就業体験のはずだったが、形骸化し早期選考の入り口と化している
さらに、インターンシップは事実上の早期選考と化しているという。Cさんが続ける。
「今はインターンで結果を出して、早期選考に進むのが王道。なので、いつ何を人事に見られているか不安で、会社を知ろうなんて軽い気持ちでは参加できませんでした。
実質的には3年生が就活のヤマ場だから、みんな3年次には授業を取らないようにしていますね。
とある大手エンタメ企業に新入社員として入社した男性のDさんは、苦笑交じりにこう吐き捨てた。
「今は優秀な人はインターン経由で入社するのが普通ですから。僕ら本選考で入社した人たちは、大学に推薦ではなく一般入試で入学した人になぞらえて『一般組』と呼ばれていますよ」
【ウェブテストもAIにやらせる】今起きている変化は早期化だけではない。生成AIが就活をゆがめているのだ。東京都立大学に通う男性のEさんが実態を明かす。
「誰もがChatGPTなどの生成AIを使っていますね。ESはもちろん、人事とのメールからOB・OG訪問のお礼まで、すべてAI任せ。選考に応募する際、ESを出すことのハードルがまず高いんですが、今はそれをAIに任せられるから応募数だけは稼げる。だから企業の『弊社は高倍率です!』ってアピールは信用できないですね」
前出のBさんも、就活にAIを使ったひとりだ。
「最初はChatGPTを使わずに就活していたんですが、ESでほとんど落とされてしまって。
筆記試験にもAIが使われてしまっているという。
「在宅で受験する試験方式なら、AIを使えばどうにでもできてしまいます。リクルートが作ったウェブテストでは、AIを使って解いていることがバレると受験資格を剥奪されるという噂も聞きますが、気にせず使っている人も多いでしょうね」
ESもウェブテストも、AIにやらせる就活生が激増。大量の企業にエントリーできるようになった
企業も黙ってはいない。AIを使う学生に対抗してか、「AI面接官」なるものまで登場しているという。例えば、伊藤忠テクノソリューションズでは1次面接にAI面接官を導入。就活生はAIアバターの面接官からの質問に応じて、自己紹介や志望動機のアピールを行なう。その録画をまたAIが分析して、合否を出すようだ。
都内私立大学のキャリアセンターに勤める教員のXさん(30代男性)が実態を語る。
「AIが書いたESは似たようなものばかり。差がつかないので落とせないんです。
まさしく毒をもって毒を制す、である。
【「学生時代の後悔は就活をしすぎたこと」】優良企業を目指す〝ガチ勢〟の間では、1年生から就活を意識することが常識となっている。東京大学に通うFさん(男性)が明かす。
「東京大学の経済学部や慶應大学の商学部は、ゼミによって入れる企業のランクが変わってきます。だから就活に有利なゼミの選考に受かるためには、1年生の第2外国語の授業でも良い成績を取りにいく。入学直後から競争は始まっているのです」
こうしたエリートたちが目指すのは、コンサルや広告代理店といった人気企業。その中で働く人は、現状をどう見ているのか。広告代理店に勤務するYさん(30代男性)が語る。
「以前よりも、コネ採用が強まっていると感じます。最近の若手は離職率が高いので、その対策ですね。
また、上位校に通うエリート家系の間では、海外インターンに行くことが浸透してきました。それが親の財力と勤勉さの証明書になっていて、採用の際に重視されるポイントにもなっています」
外資系企業で学生の面接も担当しているZさん(50代男性)は、結局は東大・京大の学生で採用枠が埋まると言う。
「外資は実力主義なので大学名は見ない、というのが建前。しかし、ふたを開けると東大・京大の学生ばかり。優秀であることはもちろん、高い英語力も必要なので海外在留・留学経験者が有利。そして、実力主義の世界に飛び込むほどの自信家......。そんな人は東大・京大の学生ばかりなんですよ」
外国での生活や留学といった海外経験を積める大学生はごく一部で、家が裕福な学生が多いだろう。つまり就活のトレンド変化は、格差をいっそう広げているわけだ。
前出のCさんは、「競争の激しい今の就活にはついていけなかった」という。
「まさか、1年生のときから就活に向けた努力が必要だなんて考えていませんでしたよ。
選考では『学生時代に力を入れたこと』(通称ガクチカ)が問われます。
だから長期インターンに早くから行っておくのが定石。1年生や2年生から長期インターンに行って何かエピソードをこしらえておくんです。みんな、『学生時代に力を入れたことは就活です』って状態ですよ」
早期化が極まった結果、「ガクチカ」の定番はバイトやサークルではなく、インターンなどの就活話になりつつあるとか?
インターンは無給のケースも多い。大学生の33・2%が無給でも長期インターンに参加したいと答えた調査結果(就活総合研究所)もあるが......。
「苦学生には無給のインターンは厳しいですね。実家暮らしだったり仕送りをもらったりしてないと、そもそも就活優先のインターン選びなんかできないですよ」(Cさん)
前出の大学教員・Xさんも現在の異常事態に警鐘を鳴らす。
「早期化や競争激化、生成AIの浸透にキャリアセンターが対応できていないので、学生が使ってくれないんです。売り手市場といってもトップ層に内定が集中しているだけで、一般学生は以前より人気企業に入りにくくなっているんじゃないかと。
損保ジャパンが海外枠や理系枠をつくっている例に象徴されますが、もともと海外経験や特別なスキルを持つ学生でかなりの枠が埋まり、残りの一般枠は少なくなっているんです。
私はイギリスの有名大学でも働きましたが、向こうは青田買いが加速して2年生で内定が出るのが普通になりつつあります。日本もそれに近づいていますね」
前出のCさんは、就活を終えてこうつぶやいた。
「就活ガチ勢は外資系しか見てなかったり、海外留学生や帰国子女だけが参加できる『ボストンキャリアフォーラム』というイベントで内定をもらっていたりします。土俵が違いすぎて、逆に格差を感じませんね。もう住んでいる世界が違うのかなって」
冒頭のAさんは就活を終えて、現状を疑問視するようになった。
「私も最初はChatGPTでESを作ったりと、AIを使って就活を進めていました。ただそれだと、自分の個性が奪われたような気がしてきて。それで、AIを使わずに自力で就活をやり切りました。
AIを使ったら人気企業に入れたのかもしれないけど、ありのままで評価してくれる会社のほうがいいかなって。だから、後悔はしていません」
一部の企業は「AI面接官」を導入。24時間365日いつでも面接でき、人がいらないので大量の志望者を選考できるという
一方で、こうもこぼした。
「学生時代の後悔は、就活ばかりやりすぎたこと。もっと学生生活を楽しみたかったです」
Aさんに取材したのは、彼女が卒業式に出席した帰路だった。「売り手市場で恵まれている」といわれるイマドキ就活生も、実態を見れば時代に翻弄される被害者かもしれない。
取材・文/茂木響平 イラスト/服部元信
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