Jリーグ復帰後初のフル出場で王者撃破の原動力に　香川真司の現在地

2021、2022年とYBCルヴァンカップで2年連続ファイナリストとなり、今季は悲願のJリーグ初タイトルを目指しているセレッソ大阪。横浜F・マリノスで2シーズン連続二桁ゴールを奪っているレオ・セアラ、アビスパ福岡で実績を残したジョルディ・クルークスらを効果的に補強した今季は「十分優勝を狙える」と前評判が高かった。 だが、開幕からアルビレックス新潟、福岡、浦和レッズに勝ち切れず、スタートダッシュは叶わなかった。3月12日のサガン鳥栖戦でようやく今季リーグ初白星を挙げたものの、続く18日の川崎フロンターレ戦はスコアレスドロー。小菊昭雄監督も「ここから浮上するためにも4月がヤマ。1日の横浜FM戦は非常に重要な試合」と気合を入れていた。 その一戦でレオ・セアラが古巣相手に2ゴールを挙げ、勝利の原動力になったのだから、指揮官も満足感を得たはず。6節終了時点で2勝2分2敗と戦績を五分に戻したことで、先々に向けて弾みがついたと言っていい。 昨季王者を撃破した大一番で、もう一つ大きかったのが、香川真司の今季初のフル出場だろう。12年半ぶりに古巣復帰を果たした背番号8だが、昨年11月に手術した左足首の状態がなかなか回復せず、フル稼働できない状態が長く続いていたのだ。 それでも、セレッソが今季初勝利を挙げた鳥栖戦で初先発し、テクニカルなゴールもゲット。完全復活の狼煙を上げた。そこから着実に出場時間を増やし、プレー強度も向上。本人もようやく日本での新たな一歩を踏み出したという実感を持てている様子だ。「毎週しっかりコンディションを整えてやるっていうのはヨーロッパにいた時と変わらないけど、今はすごく集中できています。やっぱり日本はケアとかメディカルの体制がしっかりしている。すごく感謝してますね」と本人もしみじみ語る。 香川はドルトムント、マンチェスター・Uなどのビッグクラブで過ごした印象が強いが、必ずしも恵まれた環境ばかりではなかった。特にレアル・サラゴサ時代はコロナ禍ということもあり、練習がまともにできず、近所に住んでいた岡崎慎司と自宅を行き来しながらトレーニングに励んだという。苦しい時代を知る岡崎は香川の日本復帰に「自分が帰る時のように感慨深かった」と話したほど。「オカちゃんとはスペインで本当に苦をともにしましたからね」と香川も神妙な面持ちで言う。 そんな頃に比べれば、言葉が通じて、フィジカル面を維持できるスタッフや設備などが揃うC大阪は最高の環境。そのおかげで、予想以上に早く状態が上がっているのだ。 横浜FM戦でも攻守両面でチームを支え、要所要所で顔を出していた。とりわけ光ったのが、井上健太から奪ったボールをダイレクトでレオ・セアラに出した66分のスーパーパス。惜しくもゴールには至らなかったが、見る者の度肝を抜いたのは間違いない。さすがの「違い」を示したと言っていい。 小菊監督は「今の真司が一番生きるのはインサイドハーフ。そこがベストポジション」と太鼓判を押す。少し下がり目の位置からゲームメイクに参加するスタイルが34歳になった香川には最適な役割なのだろう。「最終的には自分もゴールに絡みたいし、組み立てというものはいかに前に侵入できるかということ。自分も前での仕事を捨てるわけではなく、前で仕留めるためにいかにゲームコントロールやビルドアップに関与できるかを考えてやっています」と、彼自身も「前矢印」を強く意識しながら、攻撃のスイッチ役を担うべくチャレンジしている。 とはいえ、香川はつねに得点を期待される選手。そのことは本人が誰よりもよく分かっている。「どうしても周りからは『香川が何をするのか』という目で見られると思うし、プレッシャーも期待も感じている。もちろんゴールは取りたいと思っています。でも、一番いいのは、一人ひとりがプラスアルファを生み出して強いチームを作っていくこと。僕も長くヨーロッパでやってきて、チームによってはベストプレーになったし、チームによっては『全然ダメじゃないか』と言われてきた。それがサッカーの面白いところなんです。今も個人とチームのバランスには難しさを感じているけど、やりがいもメチャクチャある。チームメイトもいいやつばかりだし、みんなでコミュニケーションを取って、勝つ確率を上げるサッカーを確立させていきたい」と復帰した背番号8はタイトル請負人として力強くＣ大阪をけん引する覚悟だ。「真司にはJリーグを盛り上げてほしい」と長友佑都や吉田麻也も口を揃えていた。30代半ばになり、怖いもの知らずでゴールに突き進んだ10年前とは異なるプレーヤーになったが、百戦錬磨の経験値は代えがたい武器だ。周りを動かし、自らも輝くという統率力や戦術感にも磨きがかかった。そういった傑出した能力をここからより発揮できれば、Ｃ大阪の快進撃は大いにあり得るのだ。「自分が積極的にアクションを起こして、チームが勝つためのトライをしたい。今のセレッソはそういうものを求めている。僕は後悔したくないんで、やりますよ」と目を輝かせる香川。その老獪なボールさばきと駆け引きはまさに必見だ。 早ければ今月末にも清武弘嗣との共演も実現する。稀代のテクニシャン2人がＣ大阪を勝たせ、日本サッカー界全体に新たな刺激をもたらす日も近そうだ。取材・文＝元川悦子