460万人もの顧客を抱える脱毛サロン最大手・ミュゼプラチナムが破産したのは、2025年8月18日のことだった。その数ヶ月前には、経営陣が本社への入館を物理的に阻まれるという前代未聞の「乗っ取り」事件が勃発。
東京地裁での攻防、年間50億円超にのぼるファクタリング地獄。重なり合う危機の中で再建へ挑み続けた代表取締役・高橋英樹氏が、激動の1年を初めて語った。
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代表取締役就任後は無給だった

ーーまず、高橋さんとミュゼプラチナムの関わりから教えてください。

高橋英樹(以下、高橋): GBFというファンドのオーナーとして、2024年6月からミュゼプラチナムに投資していたんです。会社の経営が混乱する中、2025年3月31日に代表取締役に就任しました。累計で64億円を投じてきた一方で、就任後の給料はゼロ。交通費すらもらったことがないです。

もともとは香港の投資会社・KOCが2024年3月に船井電機グループからミュゼプラチナムを買収しました。これには、私が紹介した出資者たちも関わっていたのですが、買収からたった3ヶ月で「民事再生する」と言い出した。すでに20億円ものお金を投資していたにもかかわらずです。

さすがにそのまま潰すわけにはいかない。お客様も社員もいる。だから「継続してくれるなら、MPHを設立してGBFに経営権を渡す」という話になって、2024年6月末に経営権を取得しました。
そこからは月15億円を我々が拠出し、ミュゼプラチナムの運営を支え続けた。徐々に積み上がって64億円になりました。

発生した金利は「年間50億円以上」

ーーとんでもない額を投じていながら、なぜ破産という結果になったのですか。

高橋: 原因はいくつか重なっています。まずビジネスモデルの構造問題。ミュゼに限らず、エステ業界は「前受金」が当たり前なんです。わかりやすく例えると、仮に30万円で30回のコースを契約してもらったとして、そのお金で広告費や人件費を賄いながら事業を回す。コロナで客足が途絶えてもその構造は変わらなかった。

さらに深刻だったのがファクタリングの問題です。信販会社経由で入金される売上を、10~15%の手数料で「明日の現金」に換えるファクタリングを大量に使っていた。帳簿に載っているだけで、発生した金利は年間50億円以上。

追い打ちをかけたのが、社会保険料の滞納問題です。GBFが経営権を取得する前、船井電機グループ傘下だった時代の旧運営会社・株式会社MITがコロナ禍の猶予期間になっていた社会保険料の支払いを滞納していた。
その未納分の回収のため、社会保険庁が信販会社からの入金口座を差し押さえた。ミュゼの月の売上は最大10億円規模あったのに、その入金が全額押さえられ、手元に1円も残らない状態が続いた。

また、コロナ前から始まった「通い放題プラン」も重荷になっていました。一生使えると思ったお客様が多くいらっしゃり、それが慢性的なコスト増につながっていた。さらに、そこへ2025年2月に会社の「乗っ取り」が起きたんです。

社員証が使えず、SPに止められる事態に

ーー「乗っ取り」ですか。その日、何が起きたのですか。

高橋: 2025年2月10日(月)の朝9時に、「あなたたちに経営権はございません。私たちが経営者です」というファクスが届きました。2月7日(金)の取締役会で決議されたのだと。

私が会長に選んだ大島正人氏が、臨時株主総会を開いて当時の社長・三原孔明氏を含む全役員を解任し、新しい経営陣を送り込んでいたんです。同日10時にお台場の本社に行ったら社員証は使えず、SPに止められる始末。警察を4日連続で呼びましたが、中には入ることができませんでした。


その後、東京地裁で1ヶ月半争って、3月26日に「グローバルブリッジファンドが適法な株主である」という決定が出ました。私たちが勝ったんです。

ーー乗っ取りの「証拠」は残っていたのでしょうか。

高橋: これが驚くことに、全部残っていたんです。乗っ取り側が社内のチャットワーク(ビジネスチャットツール)を使って連絡を取り合っていて、「高橋さんにバレないようにしろ」「気づかれないように進めろ」という記録がそのまま残っていた。正直、バカだなと思いましたよ(笑)。

しかも彼らは会社の実印や重要書類が入った金庫まで持ち去っていた。これは盗難届として受理されましたが、今でもまだ金庫は戻ってきていません。乗っ取りに関与した9名は刑事告発していて、すでに受理されています。どこかのタイミングで事件化されると思います。

若い女性のローン債権を狙う捕食者たち

ーー乗っ取りの「真の目的」は何だったと見ていますか。

高橋: 表向きは「新たな資金調達で会社を救う」ということでしたが、本質は違うと思っています。ミュゼプラチナムというブランドは460万人以上の顧客を持ち、信販会社を通じて20~30代の日本人女性のローン債権が毎月積み上がっていく。
年利換算で36~40%の利回りになるような金融商品として非常に魅力的なんです。

私の見立てでは、銀行や金融機関のOBが絡んだ勢力が、脱毛サービスではなくその「債権」を狙っていた。普通の銀行業務なら数%の利回りしか取れない。でもミュゼなら若い女性の安定的なローン債権が大量に積み上がる。要するにビジネスとして「おいしい」んですよ。

ーー乗っ取りが発覚した後、破産申請が出された経緯は?

高橋: 裁判で私たちが勝ったことで、乗っ取り側は「自分たちが刑事訴追される」リスクが高まった。そこで彼らは逆に旧会社・MPHを破産させることで、訴えている当事者を消滅させようとした。破産申請を出せば裁判の当事者であるMPHに管財人がつき、私たちが追及しにくくなるという計算だったと思っています。破産申請を実際に起こした元従業員たちは、おそらくその構図を知らずに“使われた”側なのでしょう。

ーー破産決定から約1年、現在のミュゼはどんな状態ですか。

高橋: 正直に言えば、まだ道半ばです。ただ、着実に進んでいる。
昨年(2025年)4月からフランチャイズ展開を始めて、1週間で350件の応募があった。今は約200店舗規模まで戻っています。未消化役務(お金は払ったがまだ施術を受けていない分)については、今年1月までに約10万人分・60億円相当を無償で対応しました。残りの分も施術の材料費と人件費だけいただいて施術を続けています。

また、支払い方式も前受金から都度払いに切り替えました。お客さんが安心して施術を受けられるだけでなく、これがエステ業界全体の新しい基準になってほしいと思っています。

元従業員の給与未払い分については、国の立替制度で8割は支給済みです。現在の社員数は約500人。新卒採用も今年は10人入っています。

悪役になればなるほど「客足が戻ってくる」

ーー「炎上するたびに予約が増えた」という話を聞きました。

高橋: そうなんですよ(笑)。Yahooニュースに1日3回載るような日もあった。
テレビに出た翌日は予約が倍以上になる。私が悪役になればなるほど、「ミュゼはまだやってる」という認知が広がって、客足が戻ってくる。ある意味、炎上がマーケティングになっていた。だから途中から「全部説明してもカットされるし、むしろ悪役のままでいい」と割り切った部分はあります。目的は私の名誉じゃなくて、ミュゼプラチナムの再生ですから。

ーー乗っ取りに加わった元幹部たちはいま何をしているのですか。

高橋: 面白いことに、元幹部の約8割がミュゼの模倣サービスを立ち上げて脱毛事業をやっています。でも全然売れていない。彼らは自分たちの実力でミュゼが成り立っていたと思っているけど、それはブランドの力なんです。そのブランドは24年かけて積み上げてきたもので、おじさんたちが勝手にやって簡単に作れるものじゃない。

ーー今後の展望を教えてください。

高橋: 3年後にアメリカのNASDAQに上場することを目標にしています。海外展開はすでに始まっていて、7月にはニューヨーク・ブルックリンに1店舗オープンする予定です。もともとシンガポール、マレーシア、インドネシアなどアジアに30店舗ほどフランチャイズがあるので、その流れを加速させたい。脱毛の需要は国内だけで1億人、世界には70億人いる。日本の脱毛技術のレベルは世界でも高い。ミュゼプラチナムが24年かけて磨いてきた技術と教育を、世界に持っていく余地は十分あると思っています。

ーー最後に、この1年を振り返って一言。

高橋: 正直、1日も「やれない」と思ったことはないです。ミュゼで施術を楽しみにしているお客様がいて、毎日頑張って働いてくれている社員がいる。みんなのためにやるしかない。ミュゼは、はじめて美容に踏み出す人が安心して来られる場所でないと。働く人も、施術を受ける人も、ここに来て「自分史上一番輝いた」と感じてもらえる場所を、世界中に広げていきたい。そこだけは1年前も今も、何も変わっていません。

<取材・文/菅原春二>

【菅原春二】
東京都出身。フリーライター。6歳の頃から名刺交換をする環境に育ち、人と対話を通して世界を知る喜びを学んだ。人の歩んできた人生を通して、その人を形づくる背景や思想を探ることをライフワークとしている。
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