◆JERA セ・リーグ 巨人5―2ヤクルト(25日・東京ドーム)

 巨人の戸郷翔征投手(25)が待ちに待った今季初勝利をつかんだ。ヤクルト戦で今季7度目の先発。

中4日ながら6回7安打2失点と粘って、ウィニングボールを手にした。打線も2回に浅野と増田陸の適時打で3点を先行するなど5点を援護。今季初の5連勝で2位に浮上した。一時は2軍落ちも経験し、「長かった」と本音を漏らしたエース。苦しんだ分は、ここから取り返していく。27日からは広島との北陸2連戦に臨む。

 東京Dが大歓声に包まれ、大きな1勝を手にした戸郷は顔を真っ赤に染めた。抑えきれない高揚感に浸りながら、喜びを全身で感じた。「長かったですね。本当に、使ってくれた首脳陣の方にも感謝ですし、本当にたくさんの方に支えられてここまで来られたので最高です!」。お立ち台からスタンドを見渡しながら、苦闘の日々を振り返った。

 開幕戦から約2か月。

7登板目でついに白星をつかんだ。結果だけを求めて上がった今季初の中4日のマウンドで、6回108球、7安打2失点(自責1)。特別なウィニングボールは大事にポケットにしまった。

 「プロ野球人生の中でこんなに悩んだ期間というのは初めてでしたし、本当に言葉にできないぐらいうれしい。この1球は大事にしたい。苦しんだ分だけこの1球が本当に欲しかった。これを見ながら今夜は寝られそうです」

 崩れなかった。毎回、安打や四球で走者を背負い、3―0の3回には2死から3連打。失策も絡んだ2死二、三塁からオスナに右前へ2点適時打を浴びた。それでも手応えがあった。直球の最速は149キロも「球速はそんなに出ていなくても直球で押せていた」。5回2死二塁で再び迎えたオスナには4球続けた直球で二ゴロ。

岸田のリードにも救われ、奪った4つの空振り三振は全て武器のフォークだった。6回を投げ切り、ベンチでは阿部監督に「あとは祈って待ってて!」と言葉をかけられ、身を乗り出して、仲間を鼓舞した。

 苦しく長かった。オリオールズに移籍した菅野からエースのバトンを受け取って臨んだ今季。「僕がやらないと優勝はない」。覚悟とは裏腹に、もがいた。開幕から2戦連続で白星がないまま迎えた4月11日の広島戦(マツダ)。3回1/3を自己ワーストの10失点の大乱調で2軍降格が決定。「こんな体験は初めて。何をしていいか分からない」と落ち込んだ。

 その夜、意外な人物からインスタグラムにDM(ダイレクトメッセージ)が届いた。23年の球宴で交流したDeNAのバウアーから、英文での激励だった。

 「『君はそういう投手じゃない、頭を上げてください。すごい投手であることは間違いない』って。びっくりしましたね」

 誰もが巨人のエースの復活を待ちわびていた。2軍降格後にはOBや球団関係者、さらには球団の垣根を越えて、多くのエールが届いた。その言葉一つ一つが確かに原動力になった。

 菅野とも電話で1時間ほど話し込んだ。「何も変えずに、新しいことをするな。結果が出なくても毎日今までやってきたことをやりなさい」と言葉をもらった。ハッとした。もう一度、自分を見つめ直した。「一番は原点に戻った。直球の質を高めて、フォークの落差を求めて、より質のいい球をコンスタントに出せるように。

そこに懸けました」。早くなっていた体の開きも修正した。「ファームにいる選手に自分がこれだけ練習するんだって姿を見せることも役割だと思う」。どんなにつらくても、エースとしての心構えは忘れなかった。阿部監督からの提案も受けて球種を増やす模索もしたが、この日はシンプルに直球、フォーク、スライダーという本来の3つの球種を軸に攻めた。

 5日の阪神戦(東京D)で1軍戦復帰。復調の兆しを感じながらも白星は遠かった。20日の阪神戦(甲子園)で4回3失点で降板後、監督から中4日を伝えられた。「なんとか勝利を」という指揮官の熱い思いに奮い立ち、感謝の思いも高まった。「ここまできたら本当にやるしかない。新人みたいな気持ちで」。最後は勝利を願う気持ちをぶつけた。

 力強い言葉を、支えてくれた全ての人に届けた。「長かったですけど、これから逆襲が始まります。まだまだもっと良い姿を、完封している姿を見せたいと思います」。よみがえったエースの新たな物語が始まる。(水上 智恵)

編集部おすすめ