現代中国のスペシャリストとして知られるジャーナリストで、拓大教授の富坂聰さんが「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」(小学館新書・税込み1056円)を上梓。プロ野球ファンを中心に話題を集めている。
昨季は球団史上初の3年連続最下位に沈んだが、今季は井上新監督の中、まずは勝率5割を目指して奮闘するドラゴンズ。なぜ富坂さんは長年、中日ファンであり続けるのか。そんな問いに間髪入れず、こう言い切った。
「理由のない愛こそが至上なんですよ。愛知県生まれというのもありますが、生まれついた時から好きだったので、なぜかと言われても何とも言いようがないんですよね。だけど、どう考えても、中日のユニホームは全世界のどのユニホームよりも美しいと思っちゃうんです。ドジャースよりも爽やかですよね」
富坂さんは書く。「ドラゴンズは人生の理不尽さを学ぶ“教科書”である」と。様々な事象に疑問を抱きつつも、それを生きる上での学びに変えていく。
「『1番高木が塁に出て』の箇所ですよね。高木守道さんは通算2274安打を放っているし、1969年には24本塁打を記録しているんです。通算236本塁打ってすごいですよ。歴史に残るすごい打者です。でも『塁に出て』って謙虚すぎる(笑)。僕は『1番高木がツーベース』が語呂もいいのにと思っちゃう」
その背景をこう分析した。
「名古屋人って内弁慶なんですよ。すごいところを持っているはずなのに、妙に遠慮する。独特の分のわきまえ方があるんです。もっと自信を持っていこうよと思います。『塁に出て』じゃ寂しいと」
一時代を築いたショート・宇野勝については、中でも筆圧強く書かれる。
「フライをヘディングしたのは同じ1981年、広島・山本浩二さんが4か月先だったはずです。僕は浩二さんの時に『おでこに当てた!』とびっくりしたんですよ。でも浩二さんはイケメンだし、法大からプロ入り後は苦労もして、中距離打者からホームランバッターに進化してね。腰痛に苦しみながら、ミスター赤ヘルとして奮闘してきて。そういう『物語』を背負っている人に対して、世間は笑っていいと思わないわけですよ。だけど、宇野のことはむちゃくちゃ笑う。これは違う。不公平だと」
現在進行形のドラゴンズにも熱い視線を注ぐ富坂さん。中でもお気に入りは愛知県出身、東邦から入団した藤嶋健人投手だ。中日濃度が濃すぎる藤嶋を「ザ・ドラゴンズ」と形容する。
「『ミスター・ドラゴンズ』っていうのはいるじゃないですか。
中日ファンが集まったら議論にならざるを得ない「根尾昂をどうするか問題」には、こう断言した。
「根尾はこのまま突っ走ってもらって、あとは全肯定するしかないんですよ。否定はないんです。もう全肯定ですよ。今後、どんな人生を歩んでも全肯定ですよ。投打の才能にあふれて、器用にこなせるからこそ、『資源分配』に迷いが生じるというのは、まさに人生の難しさそのものです。でも、今の根尾が一番素晴らしい。
中日ファンであることの喜びと悲しみ。それはまさに生きていくことの喜びと悲しみそのものであると、富坂さんは結んだ。
「不如意なものですよね。自在にならない何か。でもこの『自在にならない何か』を人生に与えてくれているっていうのが、貴重なことなんです。本当に『ドラゴンズ、ありがとう』って感じです。今年はね。多分8月ぐらいまで全然目立たない感じですけど、夏からは中日がグワッと行きますよ。応援するのみです」