日本陸連は25日、東京・国立競技場で7月6日に行われた日本選手権の男子400メートル決勝で失格となっていた佐藤風雅(29)=ミズノ=の失格を取り消し、3年ぶり2度目の優勝と訂正すると発表した。大会期間を終えて、記録が訂正されるのは異例。

日本陸連によると、ルールの解釈に食い違いがあったという。9月13日開幕の東京世界陸上出場へのワールドランキングも上昇し、3大会連続代表入りする見通しになった。

 世界陸上の代表選考を兼ねた日本選手権で、異例の事態が起きた。7月6日の男子400メートル決勝で佐藤は1着でゴールしたが、最終コーナーで左足が内側レーンに侵入したと判定され、失格。0秒01差の2位だった今泉堅貴(23)=内田洋行AC=が繰り上がったが、記録の訂正で佐藤が3年ぶり2度目の優勝を果たし、世界陸上で日本代表入りする見通しとなった。

 日本陸連によると、ルールの解釈に食い違いがあったという。ルールではカーブを走る際、内側のラインを2回踏んだり、1回完全に踏み越えたりすると失格になるが、触れるのが1回だけなら失格にはならない。

 日本陸連は、大会当日、1歩完全に踏み越えたとして失格としたが、大会後、ミズノ側の問い合わせを受けて事実確認したところ、ジュリー(上訴審判員)への資料の提出に、十分な手続きが取られていなかったと判断し、再考することになった。

 再審議では審判長は「2歩ラインを踏んだこと」に理由を改めた上で失格を維持したが、ジュリーがこの裁定を棄却し、失格を取り消した。

 世界陸連に確認したところ「接地面となる足が全てラインを越えていた瞬間がある場合は失格」との解釈は誤りで、「一連の接地動作の中でかかとがラインを踏んでいる場合は、踏み越えているとはならない」が正しいことも判明した。

 この優勝で佐藤にはワールドランキングに関わるポイントが加算され、代表入り圏外の50位から圏内の48位以上に上がる見通し。3大会連続の出場が濃厚になったが、世陸開幕まで1か月を切った中で、準備への影響が懸念される。

 〇…日本陸連は再発予防策について2点挙げた。まずはルール理解の徹底。審判員・役員が競技規則を正確に理解するために定期的な研修・勉強会を行い、国際基準に基づく最新の解釈を共有する。次に複数の失格理由の提示について。失格原因が複数考えられる場合には、そのすべてを対象者に伝え、それぞれについて抗議できるように取り扱うことを運用の中で取り入れる。全てに抗議機会があることを保証する。

 ◆再審議の経過

 ▽7月6日 失格。

 ▽8月19日 ミズノからの問い合わせを受け事実確認を実施。審判長は画像などの資料をもとに失格理由の「1歩(回)完全に踏み越えた」を取り消し、「2歩ラインを踏んだ」に変更。

 ▽同20日 「2歩ラインを踏んだ」との失格理由について、抗議手続きで触れられていなかったことから、改めて抗議を受け付けることをミズノへ通告。

 ▽同21日 ミズノからの新たな抗議を受理したが、審判長が「2歩ラインを踏んだ」との失格裁定を改めて維持。ミズノが上訴申立書を提出。

 ▽同22日 ジュリーが審議し「2歩ラインを踏んだことによる失格」の裁定を棄却。

 ▽同23日 他の選手らから抗議の場を設け、審判長は改めて失格の取り消しを変更しないとした。ジュリーは審判長の裁定を支持。裁定を受け、WA(世界陸連)へ記録変更を提出。

 ▽同24日 WA公式サイトで訂正を確認。

 ▽同25日 訂正を発表。

 ◆ルール解説

 各競技者はスタートからフィニッシュまで自分に割り当てられたレーンを走らなければならない。カーブを走る部分では、内側のライン上またはその内側を踏んだり走ったりしてはならない。ただし、以下の場合は失格とならない。曲走路でレーンの走路の境界を示す内側の縁石またはラインに1歩(1回)だけ触れた場合。

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