◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 さりげない一言が原動力になったりする。中日の石川昂弥内野手(24)は「なってしまったことを後悔しても、どうしようもない。

進むしかないんだから」と前を向いた。

 3日の阪神戦(バンテリンD)。不振から2軍調整を経て、78日ぶりに1軍昇格すると、即スタメンで今季1号を放った。だが、その翌日の練習中に左脇腹を痛めて、5日に登録抹消された。打撃フォームを改造し、自分のスタイルを見つけ、これからという時だった。「話せることはありません」と足早に球場を後にした姿に、心中を察することは難しくなかった。

 冒頭の言葉を聞いたのは、それから数日後のことだった。2軍調整中にも、連絡をくれた6歳上の上林と食事をしたという。自称“タカヤ推し”の上林は、「生え抜きのドラ1で、ましてや地元の選手なんだから。2軍にいちゃダメ。でも、けがしたからって焦らなくていい。(飛躍の)きっかけなんていくらでもあるんだから」と寄り添った。

ソフトバンクの主力として、17~20年には日本一に貢献しながらも、23年限りでの戦力外を経験。度重なるけがを乗り越え、新天地で復活を遂げた兄貴分の期待に満ちた言葉に心が軽くなり、前を向けた。

 入社して8年。私も仕事で壁にぶつかり、「球場に行きたくない…」と考えたこともある。その度に思い出す。「森下、その笑顔だけは忘れるなよ」。打破できない現状を相談した時の去り際、上司からかけられた言葉だった。今でも落ち込むことはある。それでも、笑顔だけは忘れたくないと思う。

 誰にでも、ふとした一言に心を動かされたことがあるはず。言葉は良くも悪くもなる武器になることをあらためて感じた。記者として、読者の心に響く記事を書いていきたい。

(中日担当・森下 知玲)

 ◆森下 知玲(もりした・ちあき)2018年入社。西武、ヤクルトを経て24年に現職。

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