◆第59回スプリンターズS・G1(9月28日、中山競馬場・芝1200メートル)
「人や巡り合わせがあって、何かが違えばここにはいなかった」。こう言って自身のこれまでの競馬人生を振り返るのは、スプリンターズSにカピリナ(牝4歳、父ダンカーク)を送り出す田島俊明調教師=美浦=だ。
競馬に縁がないサラリーマン家庭で育ち、友人が通い始めた東京競馬場の乗馬苑が馬との出合いだった。そこで働く元JRA厩務員の薦めもあり、「馬に乗る仕事に就きたい。できれば勝負の世界で」と高校卒業後に美浦トレセンで働き始めることを決断した。
調教助手として働くうち「自分が思うようにやってみたい」と漠然と考えるようになり、調教師試験を受験。「頭が良くないもので…(笑)」。合格するとは思っていなかったが、座学や知識はホースマンとして役立つとの思いで勉強を続けると、6度目の挑戦で吉報が届いた。
「生産頭数も馬主の数も減っている頃で、廃業される厩舎もあった。目指す人が少ない時代だったから受かることができたのかもしれない」。馬房が埋まらない状態が続いた。
開業初年度の2009年はわずか105回の出走で2勝。2年目は出走回数が倍以上になり、11勝と成績を伸ばした。運営が軌道に乗り始めた13年には、JRA試験に合格した南関東のトップジョッキー・戸崎圭太騎手の所属がとんとん拍子で決まった。
「お互いの知人同士がたまたま知り合いでつないでくれた。断る理由がなかった」。メディアには「戸崎騎手(田島厩舎)」などと表記された。メリットは広告塔の役目にとどまらず、「調教に乗って、その馬について話す機会が増える。競馬に圭太が乗って、また次に向かえる流れはいいですよね」と直接、じっくりとコミュニーケションが取れる効果も大きかった。
スプリンターズSに出走するカピリナの姉レイハリアは、田島厩舎に所属し、芝1200メートルの重賞を2勝。ゆかりの血統だ。「基本的におとなしいのと、競馬を使いながら調教も動けるようになって成長期がある点が共通しています」。函館スプリントSをコースレコードで制した妹を完成形に近いと評価する。その前走で“師弟コンビ”として初めて重賞を勝った戸崎騎手が「田島厩舎で勝てたのはうれしい」と言えば、指揮官も「圭太との重賞勝利はうれしい」と喜び合っていた姿が印象に残る。
「圭太はG1を取っているけど、うちの厩舎は取れていないので。そういう形で取れれば、一番いいですね」と田島師。