JR横浜線・小田急線「町田」駅からバスで約20分。丘の上に、約3900戸を有するUR賃貸住宅「町田山崎団地」はある。

入居開始は1968年で、敷地内にスーパー、商店街、幼稚園、保育園がそろう、まるでひとつの「街」のようだ。他の大規模団地と同様、住人の高齢化、建物の高経年化などの課題に直面してはいるが、2012年より「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」が進行中で、最近では若い世代が増えているという。今回は、11年目を迎えた防災イベント「DANCHI Caravan」にお邪魔し、その様子と団地の現在地をレポートする。

3.11をきっかけに始まった11年目の防災まつり

会場を訪れると、町田市による「起震車体験」、無印良品の防災プロジェクト「いつものもしも」のブース、湯せん不要で常温で長期保存できる防災カレーの試食と、防災をテーマにした展示が並んでいた。

「DANCHI Caravan in 町田山崎」は、UR都市機構、町田山崎団地自治会・自主防災会、山崎団地名店会が主催する、地域参加型の防災イベント。2015年に第1回が開催され、2025年で10周年を迎えた。
開催のきっかけは、3.11の東日本大震災。災害時の“共助”の重要性が再認識され、住人同士はもちろん、地域がどのように支え合うかが社会課題として取り上げられ始めたころ、屋外空間を活用すること、防災を自分ごととして考えることの2つの思いから始まったものだ。

築60年”昭和マンモス団地”で「1泊避難体験」。震災きっかけに11年続く防災イベントが好評! 子ども集まる駄菓子屋など団地内商店街に活気も 町田山崎団地(東京)

町田市の起震車「ぐらり号」で地震を疑似体験(写真撮影/片山貴博)

築60年”昭和マンモス団地”で「1泊避難体験」。震災きっかけに11年続く防災イベントが好評! 子ども集まる駄菓子屋など団地内商店街に活気も 町田山崎団地(東京)

日頃のランチ購入による防災備蓄を想定したカレー「NINZIA BOSAI」を試食(「誰もが食を自由に楽しめる世界」を目指して製品と技術開発を進める株式会社NINZIAが開発)。こんにゃくの食物繊維を活用した完全植物性で、アレルギーや宗教による禁忌にも配慮している(写真撮影/片山貴博)

住民、商店街、UR都市機構、無印良品、桜美林大学とさまざまな団体が関わるお祭り

主催はUR都市機構、町田山崎団地自治会・自主防災会、山崎団地名店会と、暮らす人、働く人が一体になる防災イベントだ。企画・運営は、無印良品を展開する株式会社良品計画が担う。隣接する桜美林大学の学生は、初回から運営を切り盛りしている。

地元・町田産野菜、地元商店街のお店、さらに能登や東日本大震災などで被災した地域からの出店も多く、楽しみながら自然災害について意識が向けられる試みだ。電気やガスを使わずにごはんが炊ける釜、災害時に役立つアウドドアグッズ、防水の段ボールなど、防災にちなんだ企業ブースも目立つ。

スタンプラリー、防災キーホルダーや反射板をつくるワークショップ、かまどになるベンチでポップコーンをつくるブースなどもあり、あちこちで防災体験ができる。

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「くらしの備え。いつものもしも。」という防災の提案をしている無印良品による、出張販売のブース(写真撮影/片山貴博)

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電気やガスを使わず、新聞紙1枚で米が炊けるタイガー魔法瓶の「魔法のかまどごはん」。炊いた白飯を試食できる(写真撮影/片山貴博)

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能登半島など、被災地でつくられた生産物も。「食べて応援」「買って応援」の形に(写真撮影/片山貴博)

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「ほぼ紙トイレ」の展示。ほとんど紙製で組み立て式のため、備蓄品として保管しやすい(写真撮影/片山貴博)

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福島県双葉町の焙煎所兼コーヒースタンド「open roastery Alu.(オープン ロースタリー アル)」の出張コーヒースタンド(写真撮影/片山貴博)

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赤いブルゾンは桜美林大学の学生たち。反射板をつくるワークショプを開催(写真撮影/片山貴博)

来場者数は2日間で約3000人。1泊テントで避難体験ができるイベントが人気

2日間で3000人が参加し、約3割が団地に住んでいる人。そして約7割は町田市民だ。
「こうした団地があるのは知っていたけれど、あまり足を運ぶことがなかったので、イベントがあると良い機会ですよね」という町田市民の方、「やっぱりこういうイベントがあるとにぎわうのがうれしいですね」と団地内の商店街で働く方など、交流のできる良いきっかけになっているようだ。

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初日には毎年盛り上がるキャンプファイヤー(写真撮影/片山貴博)

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キャンプファイヤーを仕切るプロが上手にゲームを進行し、子どもたちは大喜び(写真撮影/片山貴博)

そして、この防災イベントで珍しいのが「団地deキャンプ」というお泊まりイベント。災害時に電気ガスなどライフラインが断たれたらどうするか、身をもって体験するという試みだ。


これまでの11年間の歴史の中で、自分たちでテントを張る、カセットコンロや「かまどベンチ」で非常食を調理する、皿にラップを敷いて水を使わないようにするなどのさまざまなコンテンツを提供しており、レジャーとしてのキャンプではなく、不便な状況での「生き抜く力」を学ぶ。

町田市内に暮らすAさんファミリーは2回目の参加。「去年は雪で、結構寒かったけど楽しかったんです。キャンプが楽しいだけでなく、アルファ米のおいしい食べ方を教えてもらったり、防災の観点から備蓄倉庫を見学させてもらったり、自然と防災を意識するようになります」とAさん。

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友人家族と一緒にお泊りキャンプをするAさんファミリー(写真撮影/片山貴博)

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団地敷地内の広場にテントを張って1泊する試み。「無印良品キャンプ場」を展開する良品計画のスタッフが運営している(写真撮影/片山貴博)

若い世代の中で生まれた「団地人気」が活気を生む

ちなみに、1960年代~1970年代建てられた巨大団地は共通の課題を抱えている。建物の高経年化と入居者の高齢化だ。
ただ一方で、ここ10年で20代~30代の間で「団地ブーム」も起きている。昭和レトロな外観や緑豊かなゆとりある敷地配置が評価されていること、新築マンション高騰を受けて団地のコスパの良さが見直されていることが支持の理由だ。団地の「エレベーターがなく階段しかない」というデメリットも、若年層なら相場の安さでカバーできる。
「賃貸でも自分たちでDIYできる」など、自分で手を加えられることに魅力を感じる人も多い。「団地再生」という社会的なプロジェクトとして、カフェやシェアオフィスを併設した新しい住まい方へと進化している例もある。駅から遠い物件も少なくないが、バス便の充実や在宅ワークの増加などで「気にしない」若年層も少なくないことも背景としてあるだろう。

なかでも町田山崎団地は、「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」により、団地特有のレトロな良さを残しつつ、シンプルで美しい住まいへと生まれ変わった「団地ブーム」で注目されている団地のひとつだ。

築60年”昭和マンモス団地”で「1泊避難体験」。震災きっかけに11年続く防災イベントが好評! 子ども集まる駄菓子屋など団地内商店街に活気も 町田山崎団地(東京)

敷地内に建物がゆったり配置され、公園もあり、散策も楽しい(写真撮影/片山貴博)

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しゃれたレタリングが施された外壁(写真撮影/片山貴博)

しかも町田山崎団地は、団地の敷地内や隣接するエリアには、幼稚園が2園、保育園が4園あり、若いファミリーには知られた場所。町田駅近くのマンション暮らしのお子さんが園バスで通っているほど。この環境で子育てしたいと考える若い世代は少なくない。

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MUJI HOUSEとのリノベーションプロジェクトにより、団地の意匠を残しつつ、白にリノベーションされた室内(実際は家具はついていない) (画像提供/UR都市機構)

50年以上営業する駄菓子屋さん。守る3代目は団地で生まれ育った設計士

団地内の商店街にも変化がある。一時期は空き店舗も目立ち、閑散としていたが、現在、商店会に空室はない。

イベント当日も多くの子どもたち、親子連れがひっきりなしに訪れていたのは、おもちゃ&駄菓子屋「ぐりーんハウス」。
団地ができた当初から営業を続ける、まさに商店街の顔だ。現在のオーナーの除村千春(よけむら・ちはる)さんは3代目で、本職は設計士。もともとこの団地で小学校2年生まで生まれ育ち、「この場所をなくしてはならない」と、2020年に再オープン。地元の子どもたちだけでなく、大人の居場所を守っている。


さらに「ぐりーんハウス」内の一部をシェアキッチンに改装。自分がつくったお菓子や料理を売ってみたい人の挑戦の場や、共通の趣味を持つ人のワークショップ会場など、コミュニティの場にもなっている。

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除村さん自身の設計事務所も併設。二足のわらじだからこそ、店舗の経営を続けることができるそう(写真撮影/片山貴博)

長年、商業施設の設計を手掛けてきた除村さん。この商店街に出店しようとする方の相談を受け、パン屋さんやクラフトビールのお店などの内装を手掛け、一つずつお店が増えていった。なかには、「ぐりーんハウス」のお客さんだった方から設計の相談を受けて、町田木曽団地名店街にキックボクシングや空手を学ぶことができるジムをオープンしたケースも。

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築60年”昭和マンモス団地”で「1泊避難体験」。震災きっかけに11年続く防災イベントが好評! 子ども集まる駄菓子屋など団地内商店街に活気も 町田山崎団地(東京)

除村さんが店舗設計を手掛けた、団地内の商店街にある「パンの店 ベッコフ」(画像提供/中村晃写真事務所)

「オープン当初の2020年には、空室はけっこうありました。しかし、少しずつお店が増えるにつれ、今回の防災イベント以外にも、夏まつりやハロウィンなど行事が増え、商店街が盛り上がってきた感じがします」と除村さん。

2024年からは近隣の幼稚園・小中学校・大学と合同の文化祭「まちやま祭」も開催されている。

築60年”昭和マンモス団地”で「1泊避難体験」。震災きっかけに11年続く防災イベントが好評! 子ども集まる駄菓子屋など団地内商店街に活気も 町田山崎団地(東京)

防災イベントの様子。「ぐりーんハウス」の看板は2代目から継承したもの (写真撮影/片山貴博)

こうした動きと並行するように、UR都市機構でも、団地内にある店舗を「内装などの工事開始から6カ月間または12カ月間無料でフリーレント」という、UR都市機構の「チャレンジスペース」という開業支援を実施。現在のにぎわいにも結びついている。

「どうしても郊外暮らしとなると、駅前の商業ビルもしくは車でショッピングモールに行くといった行動になりがちですが、こうした地元の小さなお店にも足も運ぶ暮らしが加わったら、楽しいでしょう?」(除村さん)

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4年前に開業した和菓子屋さん「町子」は地元で介護事業を行う会社が手掛けたお店(写真撮影/片山貴博)

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UR都市機構町田山崎団地の商店街「山崎団地名店街」。その先には「町田木曽団地名店街」があり、日常的な買い物がまかなえる(写真撮影/片山貴博)

出店側としても、駅から遠いけれど独自の生活圏がある団地内の商店街はチャレンジする価値がある。
3年前に出店したキャンドルのお店「キャンドルStudio Lepta(レプタ)」の丹裕子(たん・ゆうこ)さんも、この商業圏に魅力を感じたひとり。
「もともとは自宅でキャンドル教室を開いていましたが、自分のお店を持ちたいと、物件を探しました。ここなら、駅前に比べたら家賃3分の1以下。それでいて、意外と若いご家族も多い。スモールビジネスに適した場所だと思い、この場所を選びました」

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「Lepta」の丹さん。天然素材にこだわったオリジナルキャンドルを販売。キャンドル教室も開催している(写真撮影/片山貴博)

今回の防災イベント「DANCHI Caravan」で実感したのが、思っていた以上に若いご家族、お子さん連れが多かったということ。「昭和の団地=シニア層が多い」という先入観が外れたといえる。もちろん、こうしたイベント自体が子ども向けのものが多いせいもあるだろうが、人間でいえば還暦も近い築年数の団地に、子どもたちの笑い声が響くのは“希望”だろう。

そもそもこのイベントは、UR都市機構の入社1年目~2年目が主な担い手の「ABC-Project」。

そうした彼ら彼女らが、自分の親世代、祖父母世代の住人、商店街の方々と一緒になって継続的に取り組む試みは、高齢化が進む巨大団地が生き抜くヒントになるかもしれない。

●取材協力
UR都市機構 町田山崎団地

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