DIYし放題、原状回復不要。美大生を中心に、社会人も含めた多様な“表現者”が集まる賃貸アパート「アップル&サムシングエルス」は、“伝説”として語り継がれている存在だ。
自由な空間と人に惹かれて住み続ける「クリエイティブの受け皿」
東京・相原(町田市)にあるアパート「アップル&サムシングエルス」。DIYし放題、原状回復不要という一風変わったルールのもと、美大生やクリエイターたちが住み継いできたこの場所には、ある共通点がある。それは、入居者たちが口をそろえて、オーナー・青木幸雄さんの存在を語ることだ。
「駅から近いとか、部屋が広いのに家賃が抑えめというのもありがたいですが、やっぱり、青木さんの存在が大きいですね」
17年、このアパートに住み続けるアクセサリーデザイナーのsuieさんは、迷いなくそう言う。
このアパートの魅力を紐解くとき、空間や制度のユニークさとともに、人としての青木さんのあり方が浮かび上がってくる。
アパートの外観は、ヨーロッパのアパルトマンを思わせるような、シンメトリックなデザイン。あたたかみのある外壁の色づかいにホッとする(写真撮影/相馬ミナ)
通りに面した住戸の扉に名画の模写。以前、住人に「ここに絵を描いていいですか?」と聞かれて青木さんが許可するとこうなったそう(写真撮影/相馬ミナ)
顔を合わせ、挨拶を交わす。それが楽しく暮らせることの起点
驚くことに、このアパートでは住人同士が顔見知りであることも珍しくなく、自然な交流が生まれているようだ。その理由を尋ねると、青木さんは穏やかにこう語った。
「やっぱり顔を合わせることですね。
人が顔を合わせるきっかけを大事にする。そのために、青木さんは満月の夜に自宅の庭を開放し、住人を招いてピザパーティーをするほどだ。そして、家賃の支払いは現金手渡しを勧めることにしている。もちろん振り込みも可能だが、勧めに従い手渡しを実行している住人は多いという。
(写真提供/青木さん)
「人といろんなことを話せると、毎日が楽しくなるじゃないですか」
この「楽しい」という価値観が、アパート全体の空気を決定づけているようだ。
suieさんは青木さんについて次のように言う。
「“楽しい方がいいじゃん、面白い方がいいじゃん”っていう方なんですよ。地域の方との交流にも積極的で、家庭菜園の野菜を分けてくださったり、手料理をごちそうになったり。ときには大きな鍋ごと渡されて、顔なじみの住人同士で分け合うこともあります」
まるで大きな家族のような、あたたかなコミュニティがこのアパートには息づいている。
ハットと蝶ネクタイがトレードマークの青木さん。自宅倉庫にDIY用の工具や材料がストックされている(写真撮影/相馬ミナ)
このアパートに17年住み続け、物件内で引越しをし、3部屋目だというアクセサリー作家のsuieさん。
■部屋の詳細記事・写真:
アクセサリーデザイナー suieさんの部屋
「前の住人の表現」に重ねていく、DIYという創作の連鎖
このアパートの最大の特徴は、DIYによる自由な改装を許していることだ。通常の賃貸住宅では、退去時に原状回復が求められる。しかしここでは、その常識が覆されている。
前の住人が残した痕跡は、次の住人にとっての出発点となる。気に入ればそのまま使い、そうでなければ自分の手で更新する。その積み重ねが、このアパート特有の表情をつくっている。
多摩美大でアートを学ぶIさんは、入居1年。内見したロフトスペース付きの部屋が気に入って、前の家から家賃が数千円上がるのも厭わず転居を決めた。そのロフトは、過去に住んでいた建築関係の人がDIYでつくり上げたものだという。
「前の人達も好きに手を加えているから、自分もいくらでもできるなと思って。“ありがとうございます”という気持ちでした」
■部屋の詳細記事・写真:
多摩美術大学 油絵学科専攻 Iさんの部屋
前の住人がつくったロフト空間に魅せられて引っ越しを決めたというIさん(写真撮影/相馬ミナ)
部屋の二方向にまたがる本格的なロフトスペースが、前の住人のDIYによってつくられていた(写真撮影/相馬ミナ)
天井の高さや広い壁面を生かして、好きなものがディスプレイされたIさんの部屋。キャスター付きの階段は青木さんのDIYによるもの(写真撮影/相馬ミナ)
前の住人がロフトに残していったソファが、Iさんのお気に入り。このアパートでは、退去した部屋の家具を譲り受けることは当たり前にある(写真撮影/相馬ミナ)
医師でありながらアーティストとしても活動する須田さんは、15年前からの住人。
「自分たちの創作意欲をぶつけられることが、決定的に個性的だし、掻き立てられる物件ですよね。前の人の表現に自分が乗っかる感じが、音楽のセッションみたいで面白いんです。前の人はこんな色を選んだのか、じゃあ自分はこうしてやろう、とか。仕事から深夜に帰り、作業着に着替えて壁にペンキを塗るのも楽しかったですね」
須田さんにとって、この場所は自らの創造性を思い出させてくれる存在でもある。
「仕事から疲れて帰ってきても、まずアトリエに行きます。すると、インスピレーションが降ってくるんですよ。天井が高かったりしてつくりがユニークな部屋ので、空間から精神的な影響も受けていると思います」
■部屋の詳細記事・写真:
医師 兼 画家・詩人・シンガーソングライター 須田さんの部屋
須田さんがアトリエとして利用している部屋。医師として多忙な日々を送りながら、画家、シンガーソングライター、詩人などマルチな創作活動ができるのは、この部屋があるから(写真撮影/相馬ミナ)
玄関・キッチン・バスルームのあるフロアからスキップダウンしているメインのスペースは、その分天井が高くなっている(写真撮影/相馬ミナ)
多摩美術大学を卒業したばかりの山本武蔵さんは、「生活とアートの境目をなくしたい」と、昨年7月に移り住んだ。その際、青木さんからは「壁画、描いちゃっていいよ」と言われたという。常識を取り払い、背中を押されたことで、住まいはそのまま制作の場へと変わった。
■部屋の詳細記事・写真:
美術作家(多摩美術大学 油絵専攻卒) 山本武蔵さんの部屋
社会人となって美術作家の活動を本格化した山本さん。アパートの存在が創作漬けのライフスタイルを支えている(写真撮影/相馬ミナ)
創作を共有する空気が、住人同士のゆるい連帯感に
住人同士の心地よい距離感も、このアパートならではと言えそうだ。
「みんな何かしらつくっている人なので、懐が広いというか……」と山本さん。
ジャンルや世代が異なっていても、創作を軸にした共通言語がある。だからこそ、無理のない関係性が生まれる。
取材の折、Iさんが他の部屋の取材への同行を希望すると、誰もが快く承諾した。その様子にも、このアパートの空気が表れている。
Iさんと須田さんは隣同士に住みながら、顔を合わせるのは初めてだったという。実は須田さんは、以前現在のIさんの部屋に住んでいたことがある。Iさんは、須田さんの音が気になり壁を叩いたことがあると打ち明けた。
「すみません、僕、壁を叩いたことがあって」
「いいんですよ、かえってすみません」
そんなやり取りをきっかけに、制作の背景を知り、互いの理解が深まっていく。ここではトラブルさえも関係性を育てる契機になりうる。
取材に同行し、須田さんの部屋を見学するIさんと他の住人の方。取材をきっかけに、新たな交流が芽生えた(写真撮影/相馬ミナ)
オーナーがDIYを“煽る”。創作を引き出すプロデューサー的存在
オーナーの青木さん自身、インテリアや建築への関心が高く、遡ること◯年アパート建築中は、海外からタイルなどの建材を取り寄せたり、猫脚のバスタブを導入したりと意欲的に取り組んだ。
現在も、空き部屋が出るとDIYリフォームを楽しんでおり、自宅の倉庫には丸鋸(まるのこ)などの本格的なものを含んだ工具や、ペンキなどの材料が一式そろっている。そして、住人は自由にそれらを使うことができるのだという。
前田さんの部屋のキッチンにあるカラフルなタイルは、青木さんが海外から取り寄せ自分で貼ったもの。多くの部屋にこうしたタイルワークがある(写真撮影/相馬ミナ)
青木さんは自分で手を動かす一方で、住人が行う個性的なリフォームで、アパートが色づいていく様子も面白がっているようだ。須田さんはそれを象徴するような話を聞かせてくれた。
「(リフォームを)『やれやれ』って、煽ってくるんですよ。それで、できが良ければ褒めてくれるし、良くなければ直すようにも言われます(笑)」
「壁に絵を描いたり、塗ったりするのも、いたずらじゃなくて“作品”として捉えているんです」と青木さん。
ただ自由に任せるのではなく、審美眼を持って見守る。須田さんいわく、「ある意味プロデューサーのような存在」。
「作品」化された山本さんの部屋(写真撮影/相馬ミナ)
「帰ってきたくなる場所」になる、ということ
青木さんは、空き部屋が出たことを入居者に伝えることがある。須田さんも、現在アトリエにしている部屋が空いた際に、青木さんから勧められ借りることにした。普段のコミュニケーションの中で、入居者の状況や好みを把握しているからできることだろう。
入居者は、空き部屋を気軽に見学することもできる。“今度◯号室の人が出るよ” “じゃあ見せてください”といったやり取りも、日常の中で交わされている。
また、このアパートには、一度離れても戻ってくる人が少なくない。
「『ほかではダメでした』って、帰ってきてくれる人がいるんですよ」
青木さんは、嬉しそうにそう話す。
その代表例が須田さんで、最初の入居から15年の間に仕事の海外研修で一度離れながらも、再びこの場所に戻り、現在は2部屋を借りている。
須田さんはこの中庭に強い魅力を感じており、「やっぱりここに住みたい」と出戻ることになった(写真撮影/相馬ミナ)
空間の自由度、家賃の手ごろさ、立地の良さ。理由はいくつも挙げられるが、それだけでは説明しきれない引力が、ここにはある。それは、人の営みを面白がり、背中を押し、ときに見守る存在がいること。部屋を貸すというよりも、人が過ごす時間を支える。そんなオーナーの姿勢が、結果として場所の魅力を強くしているように見える。
このアパートに集まる人たちは、まずは空間に惹かれ、人と触れ合うにつれ、安心できる居場所として深く根を下ろしていく。青木さんがつくっているのは、単なる賃貸住宅ではない。「楽しく暮らす」ことを中心に据えた、小さなコミュニティそのもの。
それが、唯一無二のアパートとして多くの人から愛され、長く住み継がれる所以なのだろう。
■前回の記事:
美大生のための伝説のアパート、DIYし放題で“住み継ぐ”
■部屋の詳細記事:
多摩美術大学 油絵学科専攻 Iさんの部屋
医師 兼 画家・詩人・シンガーソングライター 須田さんの部屋
アクセサリーデザイナー suieさんの部屋
美術作家(多摩美術大学 油絵専攻卒) 山本武蔵さんの部屋
●取材協力
アップルアンドサムシングエルス

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