4月14日、熊本地震の発生から10年を迎えました。この節目に、地震への備えを見直している方も多いのではないでしょうか。

特に海沿いの地域で心配なのが「津波」です。「とにかく急いで高台に逃げる!」というのが鉄則ですが、今朝のテーマは「小走り」。いざという時、皆さんは小走りできますか? 巣鴨で聞きました。

2050年、「小走り」困難者が人口の2割に

いま19歳です。めちゃくちゃできます。引っ越しのバイトやってるんで。段ボールとか持ちながら。次の現場もあるんで、1日3~4件あるんで、間に合わないんで走ることが多いですね。

50代です。結構小走りしてます。せっかちだから。親とか連れてたらもう絶対無理なので、多分親はもう逃げてって言うと思います。でも行けないですよね先には。

50代です。僕は大丈夫ですけど、年寄りいるからやっぱり無理ですよね。介護してますから。もうどうしようもないですよね。避難所がありますけどそこに向かうしかないでしょうね、きっと。

80代。ヨロヨロの小走り。そうね、必死に逃げますわよね。今、お地蔵様でお参りしてきたから、ちょっと元気がついたかな。

17歳です。ダッシュで走りますね。見捨てないです絶対に、おばあちゃんたち。

おんぶして走りますね。

イメージとしては「軽いジョギング」くらいのペース。だいたい秒速2~3メートルで、駅で電車に乗り遅れそうな時に「タタタッ」と走るあのスピードです。

街で伺うと、10代からは「ダッシュで逃げる、おばあちゃんをおんぶする」という心強い声が聞かれた一方、80代の方は「ヨロヨロの小走り。必死に逃げます」、50代の方からは「介護しているから無理、親には先に行ってと言われるが……」と、世代によって「小走り」へのハードルはかなり高いことがわかりました。

この「小走り」、国土交通省のデータによると、2050年には走って逃げることが難しい高齢者が、人口の「2割」に達すると言われています。しかも、働き盛りの世代も3割近く減る見通し。万が一の時に「高台まで走って逃げる」ということが、だんだん通用しなくなってきているのです。

訓練で「下で待つしかない」高齢者たち

実際に「逃げられない」という現実に直面しているのが、海沿いで避難訓練をしている人たちです。千葉県・銚子市の名洗町(なあらいまち)では年に2回、津波を想定した避難訓練を行っていますが、町内会長の高根一芳さんに、現場の厳しい状況を伺いました。

「名洗町内会」会長 高根 一芳さん

最初の頃はですね、皆さん自力で上がっていっていただいたんですけれども、5年ほど前からですね、上がれなくてですね、体力的に。「下で待ってる」っていう方が10名ほど出てしまいまして。その避難道を、足が悪いからとか、腰が痛いからとか、上がっていけないと。

おばあちゃんたちが大体なんですけれども。

もう本当に過疎化でですね、担架とか、肩を貸すとか、腕を持ってあげて一緒に上に上がっていく若い力が町内にないので。どのように本当に高齢者の方を、そこまで連れてきて上まで運ぶのかなっていうのが、本当に課題、という状態です。

いざという時、小走りできますか? 津波から命を守る”逃げ地図...の画像はこちら >>
千葉県銚子市の南東に位置する「名洗町」(なあらいまち)>

名洗町は海に面した「入り江」のような地形で、およそ100世帯が暮らしています。東日本大震災では実際に5~6メートルの津波がやってきたこともあり、「高台まで逃げてみる」訓練を続けていますが、現実問題として「4分の1の住民が、自力で高台まで登れない」事態に陥っています。

高根さんは近隣の大学生に声をかけ、若い力を借りる工夫もしていますが、緊急時に必ず助けが近くにいるとは限りません。

「気持ち」と「現実」のギャップを埋める「逃げ地図」

全国で似たような状況が懸念される中、「逃げるルートを見直そう」という動きも広がっています。それが、「逃げ地図」という避難ルートを考えるワークショップ。どんな取り組みなのか、専門家の金玟淑(キム・ミンスク)さんに伺いました。

認定NPO法人日本都市計画家協会 逃げ地図研究会 金 玟淑 (キム ミンスク)

「逃げる」って皆さん走ることを想像すると思うんですけど、「逃げ地図」は75歳以上の方が、最寄りの避難場所まで何分かかり、このルートが一番安全かもっていうのが、自分たちの目で確かめるっていうのが「逃げ地図」ですね。ちょっとした坂道があるだけで、全然歩くスピードが落ちてきたりするので、「何分以内にここまで行ったら助かる」、それを事前に確認しておきましょうっていうこと。

普段の自分の感覚で、「あそこの距離だったら何分で行けるでしょ」とか想像してしまうんですよね。

気持ちは若いんですよね。でも「あ、考えてたのと違う」となるので、ギャップがかなりあります。

いざという時、小走りできますか? 津波から命を守る”逃げ地図”
<「逃げ地図研究会」HPより>

作り方はシンプルです。「3分間で129メートル」という75歳以上の方の歩くスピードを基準に、避難場所までの道を地図上で色塗りしていきます。

自分の足で「安全な場所まで本当に間に合うか」を可視化して、もし無理なら、「近くの丈夫な建物に逃げよう」「近所の方と協力して、車を使おう」など、現実的な作戦を立て直すのが目的なんです。

韓国出身の金さんは、留学生時代に東日本大震災に衝撃を受け、この防災の研究に飛び込みました。「逃げ地図」づくりのワークショップは現在、全国127の市区町村で行われているということです。

「走って逃げろ」と言われても、足腰の不安や介助の必要があれば、現実はそう簡単ではありません。自分の本当の体力と向き合い、それぞれの環境に合わせた「現実的な逃げ方」をあらかじめ用意しておくこと。それが、新しい防災の形なのかもしれません。

(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」より抜粋)

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