クルーズトレインがいよいよ広がる2017年、同時期に登場するJR東日本「四季島」とJR西日本「瑞風」の車内を取材したところ、大きな違いが見えてきました。同じ「クルーズトレイン」ですが、車両の「行先」は異なるようです。
日本のクルーズトレインが2017年、新たな段階へ入ります。5月1日(月)にJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」が、6月17日(土)にJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレスみずかぜ)」がデビュー。2013年10月15日のJR九州「ななつ星in九州」登場で切り開かれた「クルーズトレイン時代」が、いよいよ全国的に広がるのです。「四季島」は北海道の登別駅まで運行します。
JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」(上)とJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(恵 知仁撮影)。このおおよそ同時期にデビューする新しいクルーズトレインの車内を、両社は2017年2月と3月に報道陣へ公開。そこで実際に取材したところ、「クルーズトレイン」というあり方こそ同じでも、両車両で大きく異なるものが具体的に見えてきました。

まず、JR東日本の「四季島」。この車両の印象をかんたんにひと言で表すなら「新しい世界」です。それを象徴するのが、外観からもよく分かる「窓の配置」でしょう。車内通路側の窓は小さいものが多数配置され、これまでの鉄道車両では見られなかった個性的な姿になっています。
「四季島」の編成両端に位置する展望車(1、10号車)とラウンジのある5号車も、窓の形状が独特です。観光的な要素が強い列車は車窓をより楽しめる「大きな窓」がひとつの定番で、巨大な窓の採用は強い武器になり得ますが、「四季島」車内へ入ったところ、そうした“思想”や“価値観”へ必ずしもよらず、客室でも“大きめ”の窓と小さい窓を組み合わせるなど、窓を使って「新しい世界」を描こうとしているように見えました。

JR東日本によると、「四季島」の外観は「車両ごとの快適さや機能性に即した窓形状による外観が、この旅のさまざまな旅を予感させるデザイン」が、また内装は「モダンな和」のテイストにしつつ「伝統文化を振り返るだけでなく、未来の日本文化をデザインする」ことが、デザインのコンセプトとのこと。先に述べた通路側にならぶ多数の小さな窓は、車内から見ると「額縁」に風景が絵画のように描き出される演出といいます。

「四季島」は乗降を各車両のドアではなく、5号車の「エントランス」から行うことも、これまでの列車らしくない「新しい世界」をうまく演出しているように感じられました。ちなみに「四季島」の車両は、線路に電気を供給する架線がある区間では屋根のパンタグラフを使い、ない区間では搭載するディーゼル発電機を使って電気を得て、走行用モーターを駆動させる「EDC方式」を採用。これも日本初の新しいものです。
「瑞風」車内の印象 これにより言えるのは…対しJR西日本の「瑞風」、この車両の印象をかんたんにひと言で表すなら「伝統」です。そもそも、2015年3月まで大阪~札幌間を結んでいた寝台特急「トワイライトエクスプレス」の「伝統と誇りを受け継ぐ」というのが「瑞風」の“生い立ち”。食堂車の名前は「トワイライト」と同じ「ダイナープレヤデス」で、車体色も「トワイライト」の伝統を受け継いだ「瑞風グリーン」です。

その車内へ実際に入ったところ、かつての「トワイライト」を思い出させる点がいくつもありました。ひとつが展望車です。窓が大きく屋根まで回り込んでいる姿に、かつて「トワイライト」の展望サロンカーでくつろいだ記憶がよみがえりました。
また「瑞風」は、珍しいオープンエアの展望デッキを編成両端に設けていますが、これも大正・昭和に優等列車でよく使われていた展望車の伝統を引き継いだもの、ともいえるでしょう。この展望デッキと上部にある運転席、丸目のヘッドライト、5本のラインからなる流線形の先頭形状は、往年のボンネット型特急車両をほうふつさせるものにし、懐かしさを演出したそうです。

「瑞風」のデザインコンセプトは「ノスタルジック・モダン」。その車両は、JR西日本が描いた新しい「瑞風」というクルーズトレインの世界が広がっていつつ、各所に「伝統」が感じられるという具合でした。
それぞれ異なる“行先”を掲げ、同時期にデビューすることとなったJR東日本とJR西日本のクルーズトレイン車両。料金や人気の面から決して乗りやすいものではありませんが、その登場により日本の「クルーズトレイン」、そして「鉄道」の文化が多様性を増し、さらに広がっていくのは確かでしょう。
