2017年6月、「防衛技術博物館」の設立に向けた議員連盟が設立されました。自衛隊などの戦車の動態保存を目指すところから始まったという同博物館の設立構想ですが、やはり課題も多いといいます。
2017年6月14日(水)、日本における防衛技術の歴史継承を目的とする博物館の実現を目指す、「防衛技術博物館の設置を実現する議員連盟」が設立されました。
ロシアのヴァディム・ザドロズヌイ技術博物館(旧ヤコブレフ設計局 博物館、モスクワ市)は、個人所有ながら膨大なコレクション。写真は重戦車T-10M(関 賢太郎撮影)。
現在、世界において戦車を設計から生産までしている国は、わずか10か国程度。日本はその一角でありながら、戦車やそのほかの軍用車両は自衛隊の資料館など一部をのぞいて保存されておらず、特に自衛隊創設初期である昭和30年代の装備品は非常に厳しい状況にあるといいます。
そして「防衛技術博物館」はこうした各種兵器を、諸外国における戦車博物館や戦争博物館のように保管すること、たとえば戦車などは実際に動かせるよう動態保存することで、技術遺産として次世代へ残すことを目的とした施設になるそうです。場所は静岡県御殿場市での建設を目指すとしています。

「防衛技術博物館の設置を実現する議員連盟」会長に就任した中谷 元 衆院議員(左)と会長代行の石破 茂 衆院議員(画像:NPO法人 防衛技術博物館を創る会)。
会長に就任した中谷 元 衆院議員は「防衛技術博物館設立は戦後初の試みであり、自衛隊60年の歴史、旧世代から新世代への継承の方法を皆で考える場にしたい」と設立総会において抱負を述べました。
目指す理想と、切っても切り離せない危惧2010(平成22)年、「御殿場タンクミュージアム」構想としてスタートし、今回議員連盟の設立を実現した「NPO法人 防衛技術博物館を創る会」の小林雅彦 代表理事は防衛技術博物館の意義について、「全ての人に防衛に関する技術を伝えるためにあると位置付けており、そのなかでもっともご来館頂きたいのは次の世代を担う若者や子供たちである」といいます。
「海外に行けば数多くの動く戦車や素晴らしい博物館がありますが、現地に行ってそれを観る機会のある小学生が果たしてどれだけいるでしょうか。行く機会がないというだけで未来が失われるのはとても残念な事だと思います。
しかしながら、防衛技術博物館にはやはり課題も少なくないようです。展示の中心は兵器となりますから戦争史とは切っても切り離せず、紛糾は避けられないでしょう。またたとえばウクライナの大祖国戦争博物館(キエフ市)は、2014年に発生した内戦における戦死者の遺品を展示した結果、博物館以上の意味を持ってしまったといいます。こうした、技術史の継承という本来の目的以外の意味を持つ危険性も考えられます。
最大の課題は「法」と「資金」小林さんは「今後最大の課題は法的な問題や資金にあります」といいます。

NPO法人 防衛技術博物館を創る会の小林雅彦 代表理事(写真中)。右は若林洋平 御殿場市長(画像:NPO法人 防衛技術博物館を創る会)。
「法的な問題」とは、自衛隊の車両を博物館に収蔵するため名目上「民間に貸し出す」場合、搭乗ハッチを固定するなどして動かせない状態としなければならないので、そもそも動態保存ができない恐れがあることです。
そして収蔵車両の調査やレストア、イベント主催といった目に見える華やかな部分以外に、地元や関係省庁への陳情や会議、計画立案、事務作業など博物館設立の活動全てに経費がかかっており、これらは会員からの賛助や理事役員の手弁当でまかなっています。
小林さんはこの厳しい資金繰りについて「今後、博物館設立の動きが具現化するに従い、ますます活動が頻発し活動資金がショートしてしまいます。
防衛技術博物館の実現には、まだまだ課題は少なくないようですが、戦車をはじめこれまで開発されてきた装備品には純粋に技術の結晶としての価値、歴史的な価値、またそれを見たいという声も、間違いなく存在するはずです。戦車を開発したり宇宙ロケットを飛ばせたりする国は世界中を見渡してもほんのひと握りに過ぎないのですから、きちんと記録や資料を残すことには大きな意義があります。そしてこうした積み重ねが、のちの世で日本の歴史となるはずです。

ロシアのT-34戦車博物館。すべて静態展示だが最高傑作戦車として知られるT-34関連の資料をはじめ、ソ連製戦車多数を保有(関 賢太郎撮影)。
世界には様々な戦争博物館、軍事博物館があります。第二次世界大戦の敗戦組であるドイツやイタリア、ハンガリーも有しており、日本の隣国では韓国にも中国にも存在します。日本にだけ存在しない現実は、望ましいものとは言えないのではないでしょうか。
「防衛技術博物館の設置を実現する議員連盟」会長代行の石破 茂 衆院議員は「防衛技術は戦争のためのものではなく、平和を守るためのもの。地方創生の観点から、自衛隊駐屯地を有するほかの自治体とも連携して取り組めば平和教育の一環になる。

イギリスのボービントン戦車博物館は世界最大のコレクションを持つ。写真は日本国内に現存車両がない、大日本帝国陸軍 九五式軽戦車「ハ号」(関 賢太郎撮影)。