道路だけではなく、海の上も国道の一部とされているところがあります。国道どうしを結ぶフェリーなどが運行されている「海上区間」、なぜ存在するのでしょうか。
「国道」は、道路だけではありません。フェリーの航路がその一部とされている、国道の「海上区間」が全国に存在します。
なぜそのような区間が存在するのかというと、国道は「都道府県庁所在地など、特に重要な都市を連絡する道路」など、国道として指定される条件が法令で定められていますが、そのなかに、たとえばフェリーなど「道路と道路を結ぶ1本の交通系統」があれば、海上でも国道に指定できるとされているからです。起終点のあいだに海があったとしても、指定当時に「1本の交通系統」として認められ、陸上の区間だけを複数の路線に分けず海の上を通過する1本の国道として扱われた、というわけです。
今回は、そのような国道としての役割を持つフェリー航路を5つ紹介します。なお、道路や航路のデータは2020年3月現在のものです。
国道58号 マルエーフェリー/マリックスラインほかマルエーフェリーの「フェリー波之上」(画像:マルエーフェリー)。
・国道58号の区間:鹿児島市~鹿児島県西之表市(種子島)~鹿児島県奄美市(奄美大島)~沖縄県名護市~那覇市
・総延長:879.9km
・海上区間:約610km(本土~種子島、種子島~奄美大島、奄美大島~沖縄本島)
・フェリー運行区間:鹿児島港~名瀬港~那覇港(マルエーフェリー/マリックスライン)、鹿児島港~西之表港(コスモライン)
鹿児島市と那覇市、ふたつの県庁所在地を種子島、奄美大島経由で結ぶという、「総延長」では日本一長い国道ですが、実際はその7割近くが「海上区間」です。
2020年3月現在は鹿児島市から、奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島を経由して、沖縄本島の那覇市までを結ぶフェリーを、マルエーフェリーとマリックスラインの2社が共同運航しています。鹿児島港から那覇港まで、全区間乗り通すと25時間かかります。このほか、鹿児島市と種子島のあいだにも、コスモラインが運航するフェリーがあります。
フェリーの会社名に「国道」を冠し、国道の海上区間を結んでいるケースもあります。
国道197号 国道九四フェリー・国道197号の区間:高知市~高知県須崎市~愛媛県大洲市~愛媛県伊方町~大分市
・総延長:274.9km
・海上区間:約30km(愛媛県伊方町~大分市、豊予海峡)
・フェリー運行区間:三崎港~佐賀関港(国道九四フェリー)
愛媛県西部の佐田岬半島と、大分市東部の佐賀関半島とのあいだが国道197号の海上区間となっており、「国道」を社名に冠する国道九四フェリーが、この区間を結んでいます。愛媛と大分のあいだに存在する複数のフェリー航路のうち最も短く、所要時間は70分、本数は1日16往復で、おおむね四国行きが毎時00分、九州行きが毎時30分に出航するダイヤが組まれています。両港とも鉄道の駅から離れていることもあり、クルマの利用が多い航路です。

国道九四フェリー「遊なぎ」(画像:国道九四フェリー)。
国道224号 桜島フェリー
・国道224号の区間:鹿児島県垂水市~鹿児島市
・総延長:22.9km
・海上区間:約9km(桜島と鹿児島市街地のあいだ)
・フェリー運行区間:桜島港~鹿児島港(桜島フェリー)
国道224号は、桜島の付け根部分から、島の西端に位置する桜島港までの道路、桜島港~鹿児島港間の海上区間、そして鹿児島市街地側およそ700mの道路からなる国道ですが、鹿児島市街地では国道58号と重複しているので、実質的に道路は桜島の中だけで完結しています。
海上区間を結ぶ桜島フェリーは、所要時間およそ15分、1日65往復という頻発ぶりで、運航は24時間体制です。通常とは異なる航路で、桜島や錦江湾の見どころをめぐる「よりみちクルーズ」も毎日運航されているほか、船内で食べられる「やぶ金」のうどんは、数々のメディアで取り上げられるフェリーの名物です。
新潟~上越の国道が「佐渡経由」のワケ 背景に大物政治家の影国道にするために海上区間が設けられた、という逸話のある路線も存在します。
国道350号 佐渡汽船・国道350号の区間:新潟市~新潟県佐渡市~新潟県上越市
・総延長:161.4km
・海上区間:約112km(新潟市~佐渡市、佐渡市~上越市)
・フェリー運行区間:新潟港~両津港、小木港~直江津港(いずれも佐渡汽船)
新潟市と上越市を「佐渡経由」で結ぶという国道350号。道路としては、佐渡島内の両津港と小木港とのあいだを結ぶ区間がほとんどを占め、本州から佐渡島に通じる2つの海上区間で、佐渡汽船のフェリーが運航されています。この奇妙な区間設定の国道が生まれた背景について、佐渡汽船は「資料的な裏付けはなく、あくまで噂ですが」としたうえで、次のように説明します。
1970年代、佐渡島内の道路環境を改善すべく、地元関係者が新潟出身の政治家、田中角栄氏に、島内の県道を国道に昇格するよう陳情しました。しかし、佐渡島内で完結する道路では、都道府県庁所在地や重要な都市どうしを連絡するという国道の要件を満たしません。そこで角栄氏は佐渡汽船の航路に着目し、海上区間を含む「新潟~佐渡~上越」という区間にすることで、国道指定を果たしたそうです。
ちなみに、佐渡汽船の船のなかには、地図とともに「この航路は国道350号線です」と書かれた看板が設置されています。

佐渡汽船の「おけさ丸」(画像:photolibrary)。
国道389号 有明フェリー/島鉄フェリー/三和フェリー
・国道389号の区間:福岡県大牟田市~熊本県荒尾市~長崎県雲仙市~熊本県天草市~鹿児島県阿久根市
・総延長:190.2km
・海上区間:約37km(熊本県長洲町~長崎県雲仙市、長崎県南島原市~熊本県天草市、熊本県天草市~鹿児島県長島町)
・フェリー運行区間:長洲港~多比良港(有明フェリー)、口之津港~鬼池港(島鉄フェリー)、牛深港~蔵之元港(三和フェリー)
国道389号には3つの海上区間があり、それらを経由して福岡県大牟田市から長崎県の島原半島、熊本県の天草下島、鹿児島県の長島を南北に縦断するというルートになっています。長崎県および熊本県内区間の多くは雲仙天草国立公園に指定されたエリアで、雲仙岳を縦断したり、夕陽が美しいことで知られる天草の東シナ海沿いを通ったりします。海上区間をつなぐ3つのフェリーは、それぞれ所要時間30分から45分、1日10往復以上が運航されています。
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なお、海上区間のフェリー航路がなくなるケースもあります。ここに挙げたもののなかでは、国道58号の種子島~奄美大島間がすでに廃止されています。また最近では、2019年10月に岡山県と香川県を結ぶ「宇高航路」の運航が終了しましたが、この航路も国道30号(岡山市~高松市)の海上区間という位置づけでした。いずれも、フェリー航路がなくなっても国道の指定は変わっていません。