『俺たちのアナコンダ』(4月3日公開)

 少年時代から映画作りを愛してきた幼なじみのダグ(ジャック・ブラック)とグリフ(ポール・ラッド)は、パニックスリラー映画『アナコンダ』(97)が大好きだった。

 40代を迎えた現在、ダグは映画監督の夢を諦めて結婚式のカメラマンとなり、グリフは売れない俳優として暮らしていた。

 ダグの誕生パーティで再会した2人は、グリフが『アナコンダ』のリメーク権を獲得したと語ったことから、自主映画を撮影することを思い立ち、友人のケニー(スティーブ・ザーン)とクレア(タンディウェ・ニュートン)を誘ってアマゾンへと向かう。だが、そこには本物の巨大なアナコンダが潜んでいた。

 現地の謎めいた女性役でダニエラ・メルキオール、怪しいヘビ使い役でセルトン・メロが共演。トム・ゴーミカン監督がメガホンを取った。

 一言で言えば、とんでもない“おバカ”映画。けれども、ここまで徹底していると、“くだらないけど面白い”というポップコーンムービーの最たるものとして評価できる。特に最近この手のタイプの映画が減っているので、久しぶりに全開の本作が見られてうれしかった。

 オリジナルの『アナコンダ』へのリスペクト(アイス・キューブ、ジェニファー・ロペスも登場!)や映画製作の裏側も見られるし、幼い頃から、映画を作ることが夢だった大人たちの青春回帰映画としても楽しめる。

 自分は、もともとヘビは大の苦手なのだが、オリジナルの『アナコンダ』同様、ここまで巨大になるとモンスターものの一種として見られたので大丈夫だった。

『ハムネット』(4月10日公開)

 16世紀イングランドの小さな村。薬草の知識を持ち不思議な力を宿したアグネス(ジェシー・バックリー)は、ウィリアム・シェークスピア(ポール・メスカル)と知り合い、結婚する。
 やがてウィリアムは作家となり、ロンドンで活動するようになる。

夫が不在のため、アグネスは3人の子どもを女手一つで育て始める。

 ペスト禍の中でも子どもたちを守り奮闘するアグネスだったが、不運にも11歳の息子ハムネットが命を落とし、家族は深い悲しみに包まれる。

 北アイルランドの作家マギー・オファーレルが2020年に発表した同名小説を、『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオ監督が映画化。シェークスピアの名作戯曲『ハムレット』の誕生の背景にあった悲劇と愛の物語を、フィクションを交えながら描いた。

 エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィンらが共演。スティーブン・スピルバーグとサム・メンデスが製作に名を連ねた。

 シェークスピアの戯曲や外伝を映画化したものは多いが、彼の内面や家族を描いたものは珍しい。しかも、『ハムレット』は亡くした息子へのメッセージとして描かれたとする解釈が斬新。アグネスがそれに気づくクライマックスの上演シーンで、舞台と現実が重なる瞬間が感動的だ。

 これまで『ザ・ライダー』(17)『ノマドランド』と“現代の西部劇”を描いてきたジャオ監督が、イギリスの古典的世界の再現に挑んだことが興味深かったが、自然と融合したアグネスの不思議な力や北アイルランドの寒々とした風土を生かした点に、過去作との共通点があるとも感じた。

 一方、アカデミー主演女優賞を獲得したバックリーは、娘、妻、母と立場を変えながら、大いに笑い、泣き叫び、激しく怒るという感情の起伏が激しいアグネスを見事に演じている。狂気的なフランケンシュタインの花嫁を演じた『ザ・ブライド』(26)もすごかった。まさに今が旬の俳優だ。

『1975年のケルン・コンサート』(4月10日公開)

 ドイツ・ケルンに住む音楽好きの高校生ヴェラ・ブランデス(マラ・エムデ)は、アメリカのジャズピアニスト、キース・ジャレットの演奏に衝撃を受け、彼のケルン公演を実現させようと決意するが…。

 キースが1975年1月24日にドイツのケルン歌劇場で行ったコンサートの開催までの舞台裏を、当時18歳だった女性プロモーターを主人公に、実話に基づいて描いた音楽青春映画。監督はイド・フルーク。

 ライブアルバムの名盤となった『ケルン・コンサート』の誕生の裏でこんなことが起きていたとは知るよしもなかったので、とても興味深く見た。

 主人公のヴェラの行動にはあまり感情移入はできなかったが、キース役のジョン・マガロがキースの屈折や葛藤を見事に表現する好演を見せるので、トータルとしてはいい映画を見たような印象になる。

 ドタバタの大騒動の横で、音楽記者がキースに至るまでのジャズの変遷を分かりやすく解説するシーンが秀逸だった。(以下、抜粋)

 「まず作曲があり、それを演奏するビッグバンドがあった。リーダーが編曲し、指揮もする。ソロも事前に決まっていて、決められたキーで即興をやっている。与えられた小節数の範囲で」

 「次にバンドはクインテット、カルテット、トリオと縮小する。決まったコード進行で即興。次の段階へとつながった。

リーダーが除かれ、演奏者は対等に設計図に従う。その設計図がスタンダード(即興の基として使われる曲)。彼らは固い土台に絵の具を投げている」

 「進化は続く。その後、土台すら取り払う者が現れた。フリージャズだ。完全に自由な即興演奏。行方は誰も知らない。だが、演奏者間の深い結びつきが要る。高度な技術だ。結果が悲惨な場合もある。でも全部じゃない」

 「そして最後の排除で無になった。キース・ジャレットは即興の相手もいない。

アイデアを交わす相手も、演奏の決め事もなく、完全に独り。心は空だ」

(田中雄二)

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