ちょうど昨年のいま頃、巨人の高卒ルーキーだった秋広優人が連日のように報道されていた。

 ドラフト5位指名とはいえ、2メートルを超す身長に、新人合同自主トレで豪快なスイングを披露するなど、これまでの日本人選手像にはないスケール感に、ファンはもちろん、原辰徳監督も大きな期待を寄せていた。

巨人の「背番号55」を受け継いだ男・秋広優人が目指すべき将来...の画像はこちら >>

今季から55番を背負うことになった巨人・秋広優人

 だが2年目の今季、その期待の若手についての報道をあまり見かけない。ここにきてようやく中田翔との自主トレーニングで、1日9合のごはんを食べる"食トレ"を敢行しているという記事を目にしたが、肝心の野球に関してはほとんど触れられていなかった。

 今季から松井秀喜氏が巨人時代に背負っていた「55番」を継承するなど、それだけでも期待の大きさがうかがえるが、なにより楽しみなのが選手としての成長である。

 秋広の最大の特長は、2メートルの長身にもかかわらず、軽快な身のこなしができて、バットを握れば投手の始動に合わせたタイミングの取り方もできる。さらにインパクトの瞬間では、頭とボールとの距離感が絶妙で、バットにうまく力を伝えられる。高校時代から非凡なバッティングセンスはキラキラしていた。

 とはいえ、昨年のプロ1年目は苦しんだ。キャンプ、オープン戦では一軍を経験したものの、開幕前に二軍落ち。結局、一軍はわずか1打席のみで、シーズンをほぼファームで過ごした。ファームでは82試合に出場して275打数63安打(打率.229)、8本塁打、26打点。本人にしてみれば「もっとできたはず」と思ったに違いない。

【土台づくりの1年を経て】

 昨年、秋広の実戦を見たのは、シーズン終盤の9月、イースタンでのDeNA戦だった。まもなくシーズンが終わるというタイミングで、どんなふうに雰囲気が変わってきたのか......楽しみはそこにあった。

 1番・梶谷隆幸、2番・重信慎之介、3番・廣岡大志と、トップから一軍クラスが並んだあとの4番に秋広が座っていた。

 ベンチには陽岱鋼も控える「準一軍」の雰囲気のなかで、物おじすることなく、長打こそなかったが、シングルヒット2本で3打点を挙げ、しっかり「4番の仕事」をやってのけて見せた。

「ジャイアンツは一軍から落ちてくる調整組がいつもいるからかわいそうですよ。秋広なんて、ウチのチームなら4番固定で英才教育するのに......」

 ある他球団の関係者はそう言って、巨人の環境の難しさを嘆いていた。たしかに、二軍の試合でも出場機会は減るかもしれない。ただその一方で、もってこいのお手本を間近に見ながらプレーできたことは間違いない。

二軍とはいえ、中田とクリーンアップを組む経験なんてなかなかできることではない。

 今季以降につながる土台づくりという意味で、有意義な1年目を過ごして、いよいよ勝負の2年目に足を踏み入れた秋広。昨シーズンは高校時代とそれほど変わらないレベルスイングの軌道に見えたが、今季はどれだけ打球を持ち上げられるようになるのか。持ち前の長身に筋肉量を増やした体躯なら、これまで以上の雄大なアーチが見られるかもしれない。

【打てて、守れる選手へ】

 そんな秋広の未来予想図は、松井秀喜氏ではなく今季から巨人の三軍監督を務める駒田徳広氏となるだろう。

 秋広と同じように高校時代はエースで4番。

18年間のプロ生活で通算.289を残し、30歳を過ぎてからもレギュラーとして毎年3割近いアベレージをコンスタントにマーク。ホームランも通算195本を放ったバットマンだ。

 191センチの大きな体を器用に使いこなし、フルスイングしなくても遠心力を生かした打球は勝手にスタンドまで届いてしまう。

 その一方で、追い込まれてからは巧みなハンドリングで難しい球をヒットする高度な技術を持ち合わせていた。長打もある一方で、なかなかアウトにならない嫌らしい打者。

 守備でも、巧みなハンドリングでゴールデンクラブ賞10回と名手としても名を馳せた。

打って、守って、チームに欠かせない存在──それが現役時代の駒田氏の印象だ。

 秋広にその資質は十分にあると思っている。背番号55を継いだことでホームランに注目が集まるかもしれないが、イメージは中距離打者だ。5、6番あたりに秋広が並ぶ打線になれば......他チームにとっても脅威となるだろう。

 そのためにも、キャンプ、オープン戦で結果を残して、開幕一軍、開幕スタメンを本気で目指してほしいと思う。