連載「斎藤佑樹野球の旅~ハンカチ王子の告白」特別編

斎藤佑樹×福井優也×大石達也 早大ドラ1トリオ鼎談【前編】

 好評連載中の「斎藤佑樹、野球の旅~ハンカチ王子の告白」は、早稲田実業時代の話が終わり、次回から早稲田大学時代の話に突入する。今回はそのタイミングで連載特別編として、大学時代に苦楽をともにした福井優也氏、大石達也氏を交えて3人によるスペシャル鼎談が実現。

早大ドラ1"三羽ガラス"として注目を集めた3人の知られざるエピソードがついに明かされる。

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早大のドラ1三羽ガラスの(写真左から)大石達也、斎藤佑樹、福井優也

【敬語まじりのタメ口】

福井 ねぇ、この髪の色、大丈夫かな。

斎藤 どういうこと? どうしてそんなに気にしてるの?

福井 いやいや(苦笑)。ほら、今日は3人での写真撮影もあるでしょ。

斎藤 そんなの全然、大丈夫。むしろ、カッコいいじゃん。

福井 一応、黒のスプレーは持ってきてる。

斎藤 必要ない(笑)。

── あっという間に3人のキャラが浮き立ってますね。やんちゃな福井さん、主役感たっぷりの斎藤さん、それをニコニコ見守る大石さん(笑)。

福井 大石はいつもオレと斎藤の間に入る仲介役だもんな。

斎藤 大石はだいたいこんな感じだね。

大石 うん、こんな感じ。

斎藤 ほら(笑)。

大石 でもさ、3人で集まるの、久しぶりだね。コロナ前の忘年会以来だから、4年ぶり?

福井 そうだっけ......集まろうって時、オレ、仕切らないから覚えてない。

大石 プロに入ってすぐくらいまでは僕が仕切っていたけど、最近は......。

斎藤 え? 僕?

── お三方、早大では同学年ですが、じつは福井さんが歳は一つ上なんですよね。

斎藤 そうそう、たしかに最初は福井には敬語だった。

福井 えーっ、そんな時期、あった?

斎藤 最初は敬語交じりのタメ口から入ってたよ。『あの、福井さ、これって何々......ですよね』みたいな。

福井 そうだったかな(笑)。逆に敬語を使われると、僕も周りに偉そうだとか言われちゃうんで、タメ口でいいよって最初に言ったはずだけど。

大石 覚えてるよ。寮に入ったのは福井が最初で、次に僕が入ったからあいさつに行ったんだけど、その時、敬語で話したら『いいよ、タメ語で』って......でも、タメ語に慣れるまでには時間かかったもん。

福井 オレは大学では一個上になる高校の同期に敬語を使うのがイヤだったなぁ。松下(建太)、楠田(裕介)、大前(佑輔)は高校の時から知ってたからね。

大石 松下さんとか、2人だけの時は敬語を使わなかったの?

福井 そりゃ、タメ語だったよ。3年になったら完全にタメ語だね。ほかの3年生がいたら一応、さん付けしてたけど(笑)。

【大石にポテンシャルは感じなかった(笑)】

── 大騒ぎされて大学で同期となった、一つ下の夏の優勝投手を、センバツの優勝投手だった福井さんはどう見ていたんですか。

福井 もう、完全にライバルでした。

ましてや同じ年に入学したので、負けたくないという対抗心を勝手に持っていましたね。

斎藤 うん、福井のほうには、年上という意識はあったよね。

大石 メチャクチャあった。

福井 まあ、斎藤、調子に乗ってんなと思った記憶がありますからね(笑)。態度はそんなによくはなかったけど、悪くもなかった。

斎藤 ハハハ(笑)。

福井 もちろん言い合うこともないし、怒ることもない。ただ、こっちが色眼鏡で見ていたからなんでしょうね。斎藤のちょっとした仕草に「ん? 態度悪いな」みたいな......たぶん斎藤じゃなかったら普通のことなのに、引っ掛かっちゃう。それって、あの頃は誰のなかにもあったんじゃないかな。あれだけ騒がれてたし、コイツ、調子に乗ってんなって。

大石 僕にはないけどね(笑)。

斎藤 なさそう(笑)。

大石 だって、そもそも2人が甲子園に出て優勝して、僕は甲子園に出てもいない。ああ、テレビで観た人だっていうファン的な感じだったから、一緒にやっていてもライバル心とか、なかったもん。

斎藤 大石、入ってすぐケガしたよね。

大石 春のキャンプでショートをやっていたんだけど、いきなりボールを突いちゃって、剥離骨折。それが治ってすぐ、シートノック受けていて飛び込んだら左肩捻挫。それが春のリーグ戦の開幕のタイミングだったんで、ベンチに入れなかった。

斎藤 ピッチャーはいつからだった?

大石 たまたまその時に應武(篤良)監督とお風呂で一緒になって、「ピッチャーやりたいか」と聞かれたので「やりたいです」と言ったら、「じゃあ、明日からピッチャーで行け」って......。

── おそらく監督はピッチャーとしての大石さんに底知れぬポテンシャルを感じていたんでしょうね。

福井 そんなの、オレは感じなかったけどね(笑)。

斎藤 ポテンシャル? うん、感じなかった(笑)。

福井 大石、太ってたし。

斎藤 太ってたよね。

大石 うん、太ってた。

斎藤 100キロ、あった?

大石 ないない、84とか85キロくらい。

福井 えっ、丸っこいイメージしかない。

大石 ストレスかかってたくさん食べるとすぐ太っちゃうタイプだから。

福井 何のストレスだよ(笑)。

【1年春のリーグ戦での明暗】

大石 そっか......2人は1年の春、開幕戦と開幕2試合目にいきなり先発したんだから、そりゃ、ストレスも半端なかったよね。

福井 いや、自信あったよ。オープン戦ですごくよかったからね。オレ、たぶん斎藤よりよかったんじゃない? だから1戦目とは思わなかったけど、順調にいけば1つ目か2つ目のどっちかには投げるだろうと思ってた。

斎藤 僕はキャンプの時に監督から開幕戦に行くからな、みたいな雰囲気を出されていたので、リップサービスかな、でもあるかもしれないな、くらいに思っていた。そうしたら開幕戦の直前に監督室で「行くぞ」って言われて、ホントに行くんだと思って......福井も同じタイミングで2戦目の先発を言われてたよね。

福井 オレが1戦目でもよかったのにと思ったけどね(笑)。そのくらい調子よかったもん。だから結果が逆で、自分でもビックリした(苦笑)。

大石 そっか、斎藤が勝って福井は打たれたのか。

福井 やっぱりプレッシャー、あったのかな。あとは斎藤が前の日にいいピッチングをしていたので、負けちゃダメだ、負けたくないって気持ちが強すぎたのかもしれないね。力みが出て、空回りした。

斎藤 その感覚、わかる気がする。オレも開幕戦、メチャクチャ緊張してたし、地に足がついていない感じがあったもんね。だから何回だったか、東大の7番バッターの井尻(哲也)さんに強烈なファーストライナーを打たれたんだけど、もしあれが抜けていたらどうなっていたか、わからなかったと思うよ。

福井 オレは初回にポンポンと連打されて、フォアボールも出して、あれっと思っているうちに終わっちゃった。あっという間だったなぁ。

大石 神宮の雰囲気はどうだったの。甲子園とはまた違った?

福井 お客さんが近かったね。甲子園はアルプススタンドが遠いんだけど、神宮は応援がすぐそこだから、圧倒された。それでヤバいと思って、ギュッと緊張した。

斎藤 甲子園で優勝するとさ、「おめでとう、よかったね」と言ってくれる人もいれば、「いやいや、人生、そんなに甘くねえぞ」って言う人もたくさんいるでしょ。大学に行った時も、「大学野球は甘くない」と言う人たちがいっぱいいた。だからいつしか大学野球はめちゃくちゃレベルが高いんだろうなと思ってた。高校野球とは違う、大人の野球がそこにあると思ってて......。

福井 なのに大学野球は大人の野球じゃなかった、と。

斎藤 やめて(笑)。

大石 でも、早い段階で自信は持てたんでしょ?

斎藤 自信というか、東大に勝って、2カード目の法政に勝てた時、今の自分でも勝つチャンスはあるな、とは思ったかな。

福井 オレはあの後、フォームを崩して、立教戦で暴投やらかして......で、投げ方がわからなくなった。夏に肩を痛めて、初勝利は2年春の早慶戦。それも4番手で投げて転がり込んだ勝ち星だったし。

【斎藤佑樹を認めたくなかった】

斎藤 大石も1年から投げてたよね。

大石 1年の春はメンバー外だったから、チケット配りしてたよ。神宮球場の入り口で、授業を受けて遅れて来る先輩にチケットを渡す仕事をしてた。そこでテレビを見ながらだったから、2人のピッチングはちゃんと見てないし、抑えたとか打たれたとか関係なく、テレビの画面に映る2人がすごいなというイメージしかない。オープン戦の時はネット裏でチャートを書いてて、福井の投げる後ろでスピードガンを構えて、150キロとか言って書き込んでた。だから福井が言うような、誰かへの対抗心なんてまったくなかった。

福井 オレは斎藤を認めたくなかったからね。斎藤にもずっと、「オレはお前には負けてないと思ってる」って言い続けてた。

斎藤 うん、言ってたね。

福井 ずっと、こんなはずじゃない、負けてないと......3年生まではそう思ってた。

大石 3年生までなんだ(笑)。僕も3年になるまでは誰かを気にするとか全然なくて、ただその日の練習を乗り越えるのに必死だった。

斎藤 だけど、リリーフとして1年の秋から3年の春まで無失点が続いてたじゃん。

大石 そこらへんの記憶がないんだよ。

福井 大石って、いつから投げてたっけ。

斎藤 覚えてないな~。

福井 覚えてないよね、1年生の時の大石。

大石 1年秋には投げてたんだけど、その時は松下さんが抑え役で、僕は先発と松下さんをつなぎ[m3]役だった。

福井 オレにその頃の記憶はない。斎藤に負けた感のある1年の自分のことも含めて、完全に消してる(笑)。

斎藤 僕だって福井には対抗心を持ってたんだよ。そこはお互い様でしょ。

福井 で、勝ったな、って感じ?

斎藤 まあまあ、そうかな(笑)。いや、勝ったというか、運がよくて、うまいことレールには乗れたなっていう感じかな。

福井 相変わらず、うまいこと言うね(笑)。

斎藤 いやいやいや(笑)。

後編につづく>>


斎藤佑樹×福井優也×大石達也が語り合う早大時代「斎藤、調子に乗ってんな…オレはお前には負けていない」



斎藤佑樹(さいとう・ゆうき)/1988年6月6日、群馬県生まれ。早稲田実業では2006年夏の甲子園で全国制覇し、「ハンカチ王子」として大フィーバーを巻き起こした。早稲田大でも1年春からリーグ戦に登板し、東京六大学リーグ史上6人目(当時)の「30勝、300奪三振」を達成。2010年ドラフト1位で日本ハムに入団。ルーキーイヤーから6勝をマークし、2年目は開幕投手を務めた。だが、その後はケガに悩まされ本来のピッチングができず、2021年10月に現役引退。現在は「株式会社 斎藤佑樹」の代表取締役として活躍中。

斎藤佑樹×福井優也×大石達也が語り合う早大時代「斎藤、調子に乗ってんな…オレはお前には負けていない」



福井優也(ふくい・ゆうや)/1988年2月8日、岡山県生まれ。済美高では1年秋からエースとなり、2年春のセンバツ大会で初出場初優勝に貢献。同年夏の甲子園でもチームを準優勝に導く。2005年の高校生ドラフト4位で指名されるも拒否。1年間の浪人の末、早稲田大に入学。同期となった斎藤佑樹、大石達也とともに活躍。2010年ドラフト1位で広島から指名され入団。1年目は8勝を挙げ、2015年には自己最多の9勝をマークした。2018年オフにトレードで楽天に移籍。2022年シーズン終了後に楽天から戦力外通告を受けた。

斎藤佑樹×福井優也×大石達也が語り合う早大時代「斎藤、調子に乗ってんな…オレはお前には負けていない」



大石達也(おおいし・たつや)/1988年10月10日、福岡県生まれ。福岡大大濠高から早稲田大に進み、1年秋から3年春まで4シーズンにわたって38回2/3イニング連続無失点を記録。2010年のドラフトでは6球団による競合の末、西武が交渉権を獲得し入団。2016、17年と好成績を挙げて飛躍が期待されたが、2018年は10試合の登板に終わり、2019年シーズンを最後に現役引退。引退後は西武の球団スタッフに就任し、2021年から二軍投手コーチとして若手を指導している。