山本昌×日本ハムドラフト1位ルーキー・矢澤宏太 スペシャル対談(前編)

 2022年ドラフト会議で日本ハムからドラフト1位指名された矢澤宏太(日本体育大)。大学時代から「二刀流」として注目を浴びた逸材は、プロでも二刀流を継続する予定になっている。

そんな矢澤に50歳まで現役生活を送った"レジェンド"山本昌(元中日)が直撃。藤嶺藤沢高時代から矢澤に注目していたという山本昌が、同じサウスポーとして矢澤の逸材たるゆえんを引き出し、プロで活躍するための金言を授けた。

日本ハムのドラ1・矢澤宏太に山本昌が授ける、プロの世界で生き...の画像はこちら >>

矢澤宏太(写真右)のことは高校時代から知っているという山本昌氏

【初動負荷トレーニングの恩恵】

── 山本さんは高校時代の矢澤選手のプレーを見ているそうですね。

山本 春の県大会で、僕が臨時コーチを務めている日大藤沢と対戦したんです。たしか藤沢八部球場だったよね?

矢澤 はい、そうです。

山本 試合前から「藤嶺藤沢に矢澤くんっていいピッチャーがいる」という話は聞いていたんです。その一方で「バッティングもすごくいい」とも聞いていました。

実際にスタンドで見たら、すばらしく勢いのあるボールを投げていたし、バッティングも素晴らしかった。大学に進学したことは知らなかったんですけど、「日体大に矢澤という二刀流が現れた」と耳にした時、すぐに「藤嶺藤沢の子だな」とピンときました。高校でもプロ志望届は出していたんだよね?

矢澤 はい。でも、高校時代は本当にムラがあって......。その日大藤沢戦の前の慶應藤沢戦でノーヒット・ノーラン(6回参考)をやって調子がすごくよかったんです。かなり自信を持って日大藤沢戦に挑んだんですけど、思ったようなピッチングができなくて(延長11回2対5で敗戦)......。

まだまだだなと思った記憶があります。

── 矢澤選手は、山本昌さんについてどんな認識を持っていますか?

矢澤 僕は中学生から町田にある初動負荷トレーニングのジムに通っていたんですけど、トレーナーの方にも「山本昌さんは初動負荷トレーニングを続けて、すごく長く現役を続けられたんだよ」という話をしてもらったことがありました。

山本 うれしいですね。僕は初動負荷理論の提唱者である小山裕史さんと親しくさせていただいて、現役時代は1995年から引退するまで20年くらい通いました。矢澤くんも感じたと思うけど、関節周りなど柔軟性がよくなって、体の調子がすごくよくなるんです。イチローくん(元マリナーズほか)や岩瀬仁紀くん(元中日)も初動負荷を取り入れたメンバーですけど、みんな長くプレーしましたよね。

矢澤くんは今まで深刻な故障をしたことはないですか?

矢澤 はい、ないです。

山本 そうだと思いますよ。僕の場合は体の疲れがとれる感覚がありました。もちろん、合う人と合わない人がいるので強制するわけではなく、自分がいいと思うものをどんどん試してみるべきなんですけど。

矢澤 僕が初めて初動負荷をやったのは中学3年生で、シニアを引退した時なんです。少しやっただけで、キャッチボールが明らかに変わって。

ちょうど体も成長期で、僕のなかではすごくいいタイミングで始められたと感じています。投手も野手も両方やるうえで体力が必要で、疲労感や体の張りをとっていくのに初動負荷は最適でした。

【無理して太ることはない】

山本 すごいね。僕とまったく一緒。僕は初動負荷で小山先生とピッチングフォームをつくっていって、その理論を伝えていたのがじつは中日の後輩だった辻コーチ(孟彦/日本体育大)なんです。「なんとかこの子に一軍で活躍してもらいたい」と思ってね。だから今回の対談は、すごく縁を感じますね。

辻コーチからの指導も大学での成長につながっているんですか?

矢澤 はい。ピッチャーに関してはすべて辻さんに見てもらってきました。辻さん以外の方にピッチングフォームを指摘されたこともないです。

── 体づくりに関しても、辻コーチの意見を取り入れているそうですね? 入学当初は「体重を増やしたくない」と言っていたとか。

矢澤 最初は「動きたい」という思いがあって(笑)。でも、大学に来たからには4年間という時間が確立されているので、そのなかで成長するには体を少しでも大きくしたほうがいいという考えが出てきました。

僕が入学した時、先輩に吉田さん(大喜/ヤクルト)、北山さん(比呂/前東芝)、森さん(博人/中日)がいらっしゃって、僕なんか全然だと思ったので。やるしかないな、と。

山本 でも、今の体(173センチ、71キロ)でいいんじゃないですか。別に無理して太ることはないし、プロに入って筋力がつけば自然と体重は増えるものだし。むしろ20代後半になると体重は減らなくなって、戻せなくなる選手も多いんです。それでヒザを痛めるなど、故障の原因になってしまう。今の体でも投打ともあれだけ力強さがあるのだから、全然問題ありません。

矢澤 ありがとうございます。

【野手としてはもっと成長できる】

山本 高校時代からストレートは速かったけど、今の150キロ台をポンポンと投げ込む力強さは大学に入ってから出てきたものですよね?

矢澤 高校時代は常時130キロ台中盤くらいで、真っすぐは大学4年になってからよくなってきました。とくにプロアマの試合(2022年8月1日/U−23 NPB選抜 対 大学・社会人選抜)で、自分のなかで真っすぐに自信がつきました。

山本 変化球はどうですか? 高校時代もたくさんの球種を投げている感じもしなかったけど。

矢澤 スライダーに自信があります。

山本 あれだけ腕が振れれば、左バッターからガンガン三振をとれるよね。スライダーと逆方向に曲がる変化球はありますか? チェンジアップとか。

矢澤 秋のシーズンはチェンジアップも結構投げて、ツーシームも試しました。

山本 ツーシームは合う人と合わない人がいるので、スピードが落ちたと思ったら、すぐにやめたほうがいい。それで球速が落ちた人はたくさんいますから。この前に黒田博樹くん(元広島ほか)と話したんだけど、「上手に投げないと、すぐに手首が寝る」と言っていました。中日の大野雄大くんのようにまったく問題ない人もいるし。

矢澤 はい。

山本 コントロールについてはどうですか? 高校時代はフォアボールを1試合10個以上も出すこともあったと聞いたのだけど(笑)。

矢澤 僕はもともとコントロールに自信がなかったので、大学の下級生の頃はすごく気にして投げていたんです。でも、辻さんから「おまえのそんな小さいピッチングを見て、何が面白いんだ。誰もまた見たいと思わないよ」と言われました。それからは割りきって投げるようになって、だんだんよくなりました。あとはバッターを見すぎて体が開いてしまうクセがあったので、投げる前に目線をそらして見すぎないことを意識しています。

山本 なるほど、さすが辻コーチですね(笑)。バッティングのほうはどうですか。大学に入ってすぐベンチに入っていたよね?

矢澤 1年生の春の開幕戦から9番ライトで出させてもらいました。

山本 スイングを見ると、鋭さが際立っていますね。打率を稼げそう。

矢澤 大学では野手の練習はバッティングしか入っていなかったので、僕自身もっともっと成長できるかなと思っています。

後編へ続く>>

山本昌(やまもと・まさ)/1965年、神奈川県生まれ。日大藤沢高から83年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。06年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。

矢澤宏太(やざわ・こうた)/2000年8月2日、東京都生まれ。5歳から町田リトルで野球を始め、中学時代は町田シニアに所属。藤嶺藤沢高では1年夏からベンチ入りを果たし、1年秋からエースに。3年夏は南神奈川大会ベスト8。高校卒業後は日体大に進学し、1年春に外野手としてリーグ戦デビュー。2年秋は外野手としてベストナインを獲得し、投手でもリーグ戦初勝利。その後も投打"二刀流"で活躍し、2022年秋のドラフトで日本ハムから1位で指名され入団。背番号は「12」。