2月17日、宮崎のサンマリンスタジアムでの侍ジャパン強化合宿初日、まず注目したのはキャッチボールだ。

 午前10時45分、グラウンドで野手のキャッチボールが始まった。

ホームベースから外野へ向かって選手たちが並ぶ。まずはその並びをホームベース側から挙げていく。

(ホームベース側)
大城卓三甲斐拓也
牧 秀悟−中村悠平
源田壮亮山川穂高
中野拓夢−岡本和真
村上宗隆−山田哲人
松原誠弥−重信慎之介/サポートメンバー
周東佑京−近藤健介
(外野側)

 日本代表に限らず、キャンプにおける各球団のキャッチボールの位置どり──"キャッチボール勢力図"は、チームのなかの人間関係を映す鏡となることが多い。原則、ホームベースに近いほうから年功序列で並んでいく。ただし若い選手でもチーム内で存在感を示すだけの実績があれば、その序列を崩してキャッチボールの位置は繰り上がる。

 だいたいは一番手前にキャッチャーが入り、その次にチームリーダーが陣どり、そこが上座となる。

以下、ベテラン、若いレギュラー、中堅、若手という順で並ぶ。稀に気難しいベテランが、あえて一番遠くの外野寄りを陣取ったりすることもある。

 WBCに向けて集まった日本代表の野手陣──私見ながら、このチームの"キャッチボール勢力図"を解き明かしてみよう。

【チームリーダーは源田壮亮】

 手前にキャッチャーが入るのは何となくの慣習で、それを除くと、今回、上座の位置に入ったのは源田壮亮だった。このチーム、源田は野手最年長ではない。「このチームは全員がキャプテンシーを発揮すればいい」と全体ミーティングで話した栗山英樹監督ではあったが、じつは源田を中心にチームをつくるとも話していた。

「今の日本にとって、しっかり守る形をつくることは欠かせない。

そのために源ちゃんは絶対に必要なんだ」

 ショートの源田はWBCのカギを握る......守り重視の栗山監督は早い段階でショートは源田に託すと決めており、実際、源田も栗山監督から直に「センターラインの守りは最優先で固めたい」と伝えられている。その自覚十分の上座というわけだ。

 その源田のパートナーは1つ年上のチームメイト、山川穂高だった。上座の源田と組むパ・リーグのホームラン王からは、チームを牽引するというよりも源田を支える側に回り、試合でホームランを打つ仕事に集中しようという覚悟が垣間見える。

 中野拓夢と岡本和真は同学年、村上宗隆と山田哲人はチームメイトだが、山田がこの位置にいたことも興味深い。中野、岡本よりも4つ上なのだから源田に近い位置にいても不思議ではないのだが、山田の位置からも今大会は国際舞台の経験が豊富なベテランとして、同学年の源田を支える側に回ろうという気配りを感じる。

 そしてサポートメンバーの重信、松原を挟んだ先に、周東佑京と近藤健介のホークスコンビがいるのもなるほどと頷きたくなった。近藤は岡本、中野より3つ、周東も彼らより1つ上なのだから、もう少し位置を上げてもいいはずなのだが、これも彼らなりの気配りではなかったか。鈴木誠也、ラーズ・ヌートバーのキャンプ合流が遅れて足りなくなった外野手を補うためにジャイアンツから派遣された2人を蚊帳(かや)の外に置きたくないという、そんな気配りがあの位置を選ばせたのではなかったか。

キャッチボールの位置どりから見る侍ジャパン勢力図。源田壮亮の...の画像はこちら >>

侍ジャパンの野手で2番目に若い牧秀悟

【イジられ役は牧秀悟⁉︎】

 そして、今回の日本代表"キャッチボール勢力図"、最大のサプライズは、野手最年長の中村悠平と牧秀悟の組み合わせである。

 キャッチャー3人のうち甲斐と大城は同学年で、この2人が組むのは自然な流れだと言える。しかしながら彼らより2つ上の中村が一番手前に来なかったことに、まず中村の意図を感じる。

 おそらく中村はこのチームのレギュラーは甲斐だと考えていて、だから甲斐に一番手前を譲ったのだろう。このチームのキャッチャーは3人なので、ほかにキャッチャーはいない。ならばと中村が組んだのが同じチームでもない、若い牧だったのだ。野手最年長の中村と野手で2番目に若い(最年少は村上)牧の組み合わせは、"キャッチボール勢力図"のセオリーからいえばかなり異質だ。中村はその理由をこう話した。

「牧が相手がいなかったんで、僕も友だちがいなかったんで(笑)、じゃあ、一緒にしようと......(声をかけたのは)牧のほうからでしたね。

弟(辰哉)が牧と同じDeNAにいるんで(打撃投手)、そういうつながりもあったし、彼も気さくに僕にしゃべりかけてくれて、いや、うれしかったですよ」

 つまりは牧の人懐っこいキャラクターがあってこその異質な組み合わせだった。牧はまだ24歳の若手ながら、ベイスターズの先輩からも、平気で懐へ飛び込んでくるタイプなのだと聞いたことがある。牧もこう言っていた。

「学生の時は、年上の方といっても3つ離れているくらいでしたけど、プロの世界はすごく離れている人も多いので、最初、ある程度の気遣いは必要でした。でも、これは僕の性格のせいでもあるんですが、どんな相手でも、どんな舞台でも、何も変えずにぶつかっていくんです。そうするといつしか馴染んでしまう......どこでやっても野球は野球。

それは昔から変わりません」

 宮崎に合流しなかった大谷翔平は「年齢も上なのか下なのかわからない選手がいると思うので、とりあえず最初は全員に敬語から入りたいなと思います」と話していたが、大谷にとってもっとも年齢不詳に映るのは牧ではないだろうか。

 プロ3年目とは思えない風格と憎めないキャラ......そんな牧だからこそ、WBCのような大舞台で何かでっかいことをしでかしてくれるのではないか。そして大谷がイジるとしたら、牧は最有力候補だろう。もし大谷が牧を年下と知りながら、わざと敬語で話しかけてきたとしたら......そんなふうに訊くと、牧はこう言って笑った。

「光栄ですね、ありがたいです。僕もすかさず敬語で話し返します!」