攝津正から見た今季のソフトバンク 野手編

 ソフトバンクの元エース・攝津正氏に聞く今季のソフトバンク「野手編」。昨シーズン終了後にアルフレド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアルが退団し、松田宣浩が巨人へ移籍。

長くチームの長打力を担ってきた選手たちがいなくなり、課題のひとつになっている。

 現役時代に対戦した経験からの近藤健介に対する期待、注目の若手選手、柳田悠岐の現状などについて聞いた。

攝津正は194cmのギータ2世について「ちょっと厳しい」ソフ...の画像はこちら >>

2年目の野村勇(右)を指導する王貞治会長(左)と城島健司特別アドバイザー(中央)

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――野手陣で大きい補強は、元日本ハムの近藤健介選手の加入です。器用なバッターで、さまざまな打順をこなせると思うのですが、何番がいいと思いますか?

攝津正(以下:攝津) 近藤選手はクリーンナップを打つと思いますが、4番候補である柳田悠岐選手や栗原陵矢選手の前後、3番か5番あたりがいいのかなと。(コートニー・)ホーキンス選手や(ウイリアン・)アストゥディーヨ選手ら、右打ちの外国人選手を補強しましたが、未知数ですし、長いシーズンを考えれば安定感のある近藤選手がクリーンナップに入る可能性は高いと思います。

――現役時代に近藤選手との対戦があったと思いますが、攝津さんから見てどんなバッターでしたか?

攝津 やはりバットコントロールがいいです。
そんなに強振はしてこないのですが、際どいコースのボールでもうまくバットに乗せてヒットゾーンに運ぶ、といった技術はすばらしいです。毎年、出塁率が高い選手ですが、あれだけ選球眼がいいと必然的に出塁率も高くなりますね。

 近年は「長打も増やしていきたい」という考えで、スイングスピードを上げる努力をしているようですが、近藤選手が昨シーズンまで本拠地にしていた札幌ドームよりもPayPayドームはホームランが出やすい。昨年シーズンは8本塁打でしたが、2倍ぐらいに増える可能性はあると思います。

――柳田選手や中村晃選手、今宮健太選手らは今もチームの中心ですが、次の世代の突き上げも求められます。近年では栗原選手、三森大貴選手らが台頭してきましたが、攝津さんが注目している選手は?

攝津 2年目で右バッターの野村勇選手です。
以前、テレビ番組で一緒になった時に話したのですが、自分のことを客観視できていますし、よく考えています。プレーにおいての自分の悪いクセなども十分理解していて、「よく勉強しているな」という印象です。

――ルーキーイヤーだった昨シーズンは、パ・リーグの新人では37年ぶりとなる「ふた桁本塁打&ふた桁盗塁」をマークしました。

攝津 そうですね。あと、打球が上がった時の長打率の高さが、チームでもトップクラスだったんじゃないかと記憶しています。ただ、ポジションでいうと、サードにはケガから復帰した栗原選手が入るでしょうから、入るところがないんですよね......。

栗原選手の調子がよくなかったり、膝の状態次第では、もしかすると交互に起用したりすることもあるかもしれませんが。

 ただ、今のチームの打線は左バッターばかりになる問題もあるので、そう考えると、野村選手が入るといいのかなと思います。右バッターだと正木智也選手にも期待したいですが、守備がちょっと不安定ですかね。

――他に注目している若手選手は?

攝津 5年目で、キャッチャーの渡邉陸選手にも注目しています。バッティングはかなりいいですね。DeNAから嶺井博希選手が加入してキャッチャーも激戦ですが、面白い逸材だと思います。
まだ一軍での経験が少ないので、まずは一軍の試合で経験を積むことが大事です。

 一軍のベンチに入ることができていれば、点差がついて勝敗が見えている試合などで出してもらえるでしょうし、そうやって経験を少しずつ積んで、リードも学んでいければいいと思います。

――"ギータ2世"と呼ばれている3年目の笹川吉康選手はどうですか?昨シーズンはウエスタン・リーグで、初ホームランを含む4本塁打をマークしました。

攝津 身長が194cm以上あって、いい体格をしていますが、現状ではちょっと厳しいですね。昨年は二軍の試合を何試合か見ましたが、バットにボールが全然当たらないんです。二軍のピッチャー相手に、昨シーズンは打率が2割に届かなかった(打率.195)。
確かに豪快なスイングは魅力ですが、同じような三振を繰り返しているのが気がかりです。

 今年、柳田選手の自主トレに初めて参加したみたいですし、そこから何かのきっかけを掴んでくれていればいいですね。パワーがあることは間違いないですし、まずは二軍で結果を残すことだと思います。

――これまで打線の中軸を担っていたアルフレド・デスパイネ選手やジュリスベル・グラシアル選手、さらには長年チームを支え続けた松田宣浩選手らが退団し、バッター陣の顔ぶれが変わります。どんな課題が挙げられますか?

攝津 新外国人は未知数なので、そこを外して考えるとすると、長打を打てる選手があまりいないことです。柳田選手も少し落ち気味ですし、シーズンを通じて以前のようなパフォーマンスが出せるかとなると、正直、どこまでやれるのかわかりません。



 実際に、昨シーズンは引っ張ったホームランが極端に減っているんです(24本塁打中、ライト方向が7本。2021年は28本塁打中、ライト方向が16本)。速いボールに対応が難しくなってきてるのかなと。それが、調整のミスでそうなったのか、年齢的な衰えからそうなったのか......今シーズンのバッティングを見ていくと、ある程度わかってくるんじゃないかとは思います。

 これまで長打力という面では、デスパイネ選手、グラシアル選手、松田選手らにずっと頼っていましたし、いなくなった分、ホーキンス選手やアストゥディーヨ選手がどういう結果を残せるかが肝になるでしょうね。近藤選手が長打を狙いにいく機会が増えてしまって、バッティングを崩されても困るでしょうから。

――栗原選手や野村選手らにかかる期待も大きそうですね。

攝津 そうですね。得点力を上げるには、そのあたりの選手の長打率が高くなってくることが理想です。1点差などの接戦になるとホームランで試合が決まるということも多いですし。昨シーズンがそうであったように、接戦をモノにしていけないとシーズンの最後に響いてしまうので。

 柳田選手が復調するか、デスパイネらが抜けた穴を新外国人たちが埋められるか、若手の突き上げがあるか......今シーズンはそういったことに注目していきたいと思います。

(投手編:千賀滉大の穴は「十分に埋められる」 注目の投手と「怖かった」斉藤和巳コーチへの期待>>)

【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)

1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。